海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、アカデミー賞の主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーが心身のバランスをくずした肥満症の男性を熱演した『ザ・ホエール』をご紹介します。
『ザ・ホエール』
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ブレンダン・フレイザーが心身のバランスをくずした肥満症の男性を熱演
多様な価値観が尊重される今の時代に、映画の題材や表現、伝えるメッセージやキャスト・スタッフに対して、一般の観客からも厳しい視線が向けられている。3月12日に授賞式が開催された第95回アカデミー賞をわかせた『ザ・ホエール』も、賛否両論ある注目作だ。
主人公は、恋人アランを亡くしたショックから立ち直ることができず、過食を繰り返してきたチャーリー。自分の姿が映らないようにして、大学のオンライン講座で生計を立てる40代の教師である彼の体重は272㎏。歩行器なしでは移動することも難しい、重度の肥満症だ。
しかし、チャーリーは治療を拒否し、アランの妹で唯一の親友である看護師リズに頼る日々。ある日、もはや死期が近いことを悟った彼は、愛するアランと暮らすため家庭を捨てて以来、音信不通だった17歳の娘エリーとの関係を修復しようと決意するが……。
主演は、冒険アクション大作『ハムナプトラ』シリーズなどで、健康的な肉体と明るいキャラクターでハリウッドスターとなったブレンダン・フレイザー。ファットスーツを着用して特殊メイクを施し、一瞬誰だかわからないほどの変貌を遂げて難役チャーリーに挑んでいる。心身のバランスをくずし、過食せずにはいられない人間の苦しみや痛み、そのつらさ。息詰まるような、みっちりとした室内劇において、魂の叫びが聞こえてくるかのような熱演には鬼気迫るものがある。
第95回アカデミー賞では、フレイザーと、チャーリーに寄り添うリズ役のホン・チャウが候補になったほか、等しく俳優陣の熱演は絶賛されている。特にフレイザーは、セクシャルハラスメントの被害に遭ったことや離婚などの複数の理由によって、うつ病になるなど心身のバランスをくずして表舞台から遠ざかっていたが、本作で完全復活を遂げたことでも業界内外の喜びの声は大きい。
近年はルッキズムが議論になることも多いが、本作にはメンタルイルネスや孤独、ティーンエイジャーの問題、そしてカルト教も絡んでくる。同性愛や離婚を取り巻く状況など今語られるべきテーマが詰まった内容は、直視することが難しいと感じる過酷さもある。そこには、「肥満症を見せものにしている」といった本作への批判のひとつも含まれるだろう。
ʼ12年に初上演されたサミュエル・D・ハンターの同名戯曲に基づき、気鋭の「A24」が製作と全米配給を手がけた本作。監督は『ブラック・スワン』の鬼才ダーレン・アロノフスキーとあって、一筋縄ではいかない映像世界は観る者を圧倒する。
監督/ダーレン・アロノフスキー
出演/ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク
公開/4月7日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国公開
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イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年5月号掲載