書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、いま読みたい2作、江國香織の『シェニール織とか黄肉のメロンとか』と、5名の作家による書き下ろし短編集『palmstories あなた』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
そのなかでゆったりくつろぐように小説世界を味わって。いま読みたい2作
学生時代からの仲よしの友達との20年、30年後はどんな関係かなと想像してみた経験は、多くの人にあるだろう。江國香織の最新作は、かつて「三人娘」と呼ばれた女性たちの長きにわたる友情と現在地をユーモラスに描き出す長編小説だ。
長年英国でキャリアを積んだ理枝は、仕事を辞めて帰国した。当面は、母親と二人暮らしをする作家の民子の家に滞在予定。夫と息子がいる主婦の早希とも再会し、彼女らは西麻布のビストロで、あるいは葉山の海辺のレストランで、美味しい食事と楽しいおしゃべりの時間を過ごす。「会うとたちまち昔の空気に戻るのは不思議なことだ」
理枝の新しい彼氏やおいっ子、民子の母・薫や親戚に近いつきあいの女の子など、取り巻く人々の顔ぶれも豊かに、日常生活は彩られている。様々な登場人物の視点で書き分けられ、誰がなにをどう感じているかが読者にもわかる仕掛けだ。
50代の女性たちという、色恋とも縁遠そうで、家庭に落ち着くか仕事に邁進しているかととらえられがちな世代のリアルを、江國は温かく描く。年をとるのも悪くなさそう! きっとそんなふうに思える一冊だ。
『シェニール織とか黄肉のメロンとか』
江國香織著
角川春樹事務所 1870円
「曇り空で、風が冷たい」季節の移ろいと豊かな人生
理枝、民子、早希。40年来の友情で結ばれた彼女たちは、今後の身の振り方や親の介護という現実に直面しながら、機嫌よく生きている。ライフスタイルの確立の大切さを読者にメッセージする小説。
これも気になる!
『palmstories あなた』
津村記久子、岡田利規、町田康、又吉直樹、大崎清夏著
palmbooks 1980円
「あなたは、その扉を開ける」あなた/君/貴殿の物語
手のひらサイズの本書には、5名の作家による書き下ろし短編を収録。商業ビルの6階フロア、自分自身、アパートのお隣さんにそれぞれ呼びかけるかたちで、ささやかな日常が語られる。個性の競演。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年12月号掲載