満開のときの花の華やかさと、やがて散る刹那が桜の美しさなら、幸せな瞬間も切ない局面もある恋は、桜と似ている。映画『四月になれば彼女は』で主演を務めた佐藤健が語るラブストーリーへの想い、そしてつかんだ恋愛の正体とは。
佐藤 健
さとう たける●1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。近年の主な出演作は、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』『First Love 初恋』『100万回 言えばよかった』、映画『世界から猫が消えたなら』『億男』『護られなかった者たちへ』など話題作多数。
2人暮らしは向いてると思う。誰かがそばにいてくれたら、きっと頑張れるタイプだから
一緒に暮らす相手にしてほしいことは特にないです。お互いに気をつかわない関係がいちばんいいと思うから。
僕が相手にしてあげるとしたら……デリバリーを頼んであげることはできます(笑)。
あとは朝食を作りましょう。メニューは目玉焼き、ベーコン、以上!
ご飯派だけど、朝はパンのほうが簡単かな。半熟に焼いた目玉焼きには、しょうゆをかけて。
パーカ¥39600・パンツ¥52800/エイトン青山(エイトン)
桜は刹那的な美しさの象徴。“瞬間”を味わうことは大事にしたい
季節に順位をつけるなら、春は3位。もちろん嫌いなわけじゃなく、冬と秋が好きなだけ。桜の美しさは、日本人として誇らしいと思います。ただ、通っていた小学校に桜の木がたくさんあって、毛虫がいっぱいいた光景はトラウマになってます(笑)。普段は仕事の移動中に目黒川の桜を見るくらいで春にちゃんと花見をしたことがないんです。いつか桜の木の下にブルーシートを敷いて、大勢でワイワイする定番の花見をしてみたいな。
コート¥68200・カーディガン¥46200・ニット¥42900・パンツ¥52800/エイトン青山(エイトン) 靴/スタイリスト私物
写真を撮って思い出を振り返ることは滅多にない。過去よりも今が大事だから
いい夢を見たあとに「現実じゃない」とガッカリするように、楽しかった過去を写真で振り返ってもそのときには戻れないし、どちらかというと寂しくなるかも。ただしこの前、深夜に大量にコンビニフードを買って「爆食いするぞ!」って瞬間をスマホで撮りました。エクレア、プチシュークリーム、いちごのドーナツ、パスタ、悪あがきのサラダ……(笑)。自分的にすごく珍しいし、なんか面白くなっちゃって。さすがに夜中だったので、写真は誰にも送ってないです。
コート¥121000/サーディ ヴィジョンピーアール(ガラアーベント) その他/スタイリスト私物
人が人を好きになる瞬間は、それだけで吸引力がある
この映画には恋愛のすべてが詰まっている
ここ数年ラブストーリーへの出演が相次ぎ、その多くが話題となっている佐藤さん。作品選びについては「たまたまなんだろうけど」と笑って受け流しつつ、「なんかでも、ラブストーリーってよくないですか? うん、いいなと思います」としみじみ。様々なジャンルのエンターテインメントに携わってきた人の、あまりにもピュアで、説得力ある言葉だ。
「映画やドラマって、観ている方を惹きつける方法を常に提示してないと飽きられちゃうと思うんです。たとえば夢を追いかける姿とか、なんでもいいんですけど。その中でも人が人を好きになる瞬間って、一発で吸引力があるんですよね。いろんな仕掛けをつくらなくてもすごく目を引く。それがたとえアクション映画だとしても、人を想う気持ちは絶対に盛り込まれているし、個人的にもあってほしい。ラブストーリーの強さを感じます」
主演を務めた新作映画『四月になれば彼女は』は、恋愛とは何か、愛を終わらせない方法とは何かを問うストレートなラブストーリー。映像や音楽は息をのむほど美しいけれど、胸が苦しくなるほどのすれ違いや後悔も描かれている。『世界から猫が消えたなら』『億男』でもタッグを組んだ川村元気氏の小説の映画化だ。
「『世界から猫が消えたなら』は命、『億男』はお金、そしてこの作品では恋愛を描いていますが、そのどれも僕たちが自由にコントロールできるものじゃない。つまり、すごく身近にあるものなのにぼんやりとしか理解できていなかったことを、ズバッと言語化してくれているんです。そこが彼の作品の魅力だと思います。この映画を客観的に観たときに、いいことも悪いことも含めて、恋愛のすべてが詰まっていると思いました」
演じたのは、精神科医の藤代役。長澤まさみさん扮する婚約者の弥生が突然姿を消してしまう役どころだ。一方で、森七菜さん演じる10年前の恋人・春から届いた手紙をきっかけに、過去の後悔と向き合い、愛することを見つめ直していく。
「原作を初めて読んだとき、藤代の熱くなりきれないところや必死になりきれない部分に、非常に共感できました。僕自身、もがいている自分を見せたくないし、熱くなること自体を避けてしまうところがありますから。今の時代、そんなに珍しいことじゃないし、きっと誰もが経験していることなんじゃないかな」
劇中では、見るもの、経験することすべてが新鮮だった学生時代の恋と、大人になった現在の恋が交錯して描かれる。
「旅行の計画を立てたり、大学の写真部の部室で楽しそうに話したりする春との過去パートは、ほとんどがアドリブでした。学生時代の恋愛って二度とできないし、特別ですよね。ドギマギするほど緊張しながらも、初めて本気で人を好きになったことが嬉しいみたいな、キラキラを表現したいと思いました。春が楽しそうに笑っている姿を、藤代が見つめているだけで成立してしまう。アドリブは非常に難しい撮影でしたが、森さんだからこそ描けたシーンだったと思います」
長澤さん演じる弥生との現代パートでは、様々なことを経験してきたであろう、大人同士の恋が描かれる。すべてを決めすぎないライブ感あふれる撮影現場では、特別なシーンが誕生した。
「藤代が走って弥生を呼び止めるシーンがあるのですが、特に何をするかは台本に書かれていなかったんです。ところがいざ本番が始まると、振り返った長澤さんが泣きだしていて……。『これはもう抱きしめないといけないな』と思った瞬間、監督が僕の背中をふっと押してくれました。『やっぱり、そういうことだよな』と思い、アドリブで長澤さんを抱きしめたんです。あそこは印象的でした。シンプルに相手と向き合えば、感じるものがある。恋愛はもちろんお芝居だって、誰といるかで変わっていくことを感じました」
映画を通して変化した自分自身の恋愛観
もがき方さえわからないまま恋愛の正体を探し求める藤代を演じた時間は、佐藤さんの恋愛観にも変化を与えていた。
「本当に手放したくないものがあるなら、やっぱりもがいて必死にならないといけないよな、とは思いました。うじうじしていると消えてしまうものって、ありますよね。恋愛はコントロールできない要素が多いからこそ、自分の気持ちをちゃんと認めて、一生懸命相手に伝えることしかできない。藤代を演じるうち、恋愛への理解が深まった気がします」
インタビュー中は常に冷静に、一定の温度で受け答えする姿が印象的。けれど今回のラブストーリーの中には、佐藤さんの熱い瞬間がしっかりと刻まれている。
「撮影行為自体は一瞬だけど、作品はずっと残っていくもの。だからこそ後悔したくないし、妥協したくない。熱くなってでもいいものを残したいと僕が思えるのは、作品であり、撮影現場です。恋愛の正体は映画のラストシーンに詰まっているので、ぜひ確認してみてほしいです」
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© 2024「四月になれば彼女は」製作委員会
映画『四月になれば彼女は』
出演/佐藤健、長澤まさみ、森七菜ほか
監督/山田智和 原作/川村元気
四月。精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに、かつての恋人・伊予田春(森七菜)から手紙が届く。時を同じくして、婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)が藤代のもとから突然姿を消してしまう。●3月22日(金)より全国公開
撮影/田形千紘 ヘア&メイク/大木利保〈B.O.N〉 スタイリスト/吉田ケイスケ 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2024年4月号掲載