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週刊少年ジャンプ編集長に聞いた「漫画の現在地」

漫画雑誌として最大の発行部数を誇る『週刊少年ジャンプ』の編集長 中野博之さんに、漫画の今とそしてこれからを聞いた。

デジタル化加速で漫画を読むハードルが下がった

昨今、漫画は様々なタイトルが注目を集めており、雑誌やテレビなどでの特集も多く目にするように。その理由を『週刊少年ジャンプ』の編集長・中野さんはこう分析する。

「デジタル化の加速は大きいと思います。電子版は無料で読めるサービスもあるので、スマホで漫画を読むハードルは確実に低くなっているはず。『週刊少年ジャンプ』も紙と電子の両方を発行していますが、昨年末には売上比率がほぼ半々になっています。ただ、紙で読んで楽しんでほしい気持ちもやはり強くある。本誌の連載作家さんは“紙で読んでいちばん面白いように”描いている人がほとんど。だからこそ僕たち編集も“紙ならではの価値”を考えないといけない。付録やグッズプレゼントなど、どんな付加価値をつけるかも重要です」

一方で、電子ならではの戦略も考えていくこともやめない日々だ。

「先ほど、作家さんは“紙で読んでいちばん面白いように描いている”と言いましたが、それと同時に“スマホで読んだときにどうみえるか”を考えながら描いてる人も増えています。むしろ今後はその考えが加速していくでしょうし、漫画の表現方法も変化して、今まで読めなかった漫画が生まれる可能性を考えると電子文化が広がっていくのもまた楽しみです」

メディアミックスでコミックスに留まらずビジネスを拡大

作品の人気を広げる手段のひとつがメディアミックス。近年で印象強いのは『鬼滅の刃』の大ヒットだ。

「僕の編集者人生の中でも『鬼滅の刃』のヒットは経験したことがないものでした。何せコミックスの部数が追いつかないんですから。部数は発売日から約2カ月前の売行きをみて決めることがほとんど。『鬼滅の刃』のアニメ第1期が放送開始前は約50万部だったのが、アニメ後には100万、150万部となり、それも足りない……という状況。昔から“大ヒットは重たい鉄球”と言われたんです。なかなか転がらないけど、転がり始めると止められないという例えです。『鬼滅の刃』のヒットで、その意味を目の当たりにしましたね」

そして新たなメディアミックスの広がりをみせたのが、ジャンプの看板作品『ONE PIECE』だ。

「’22年に公開された劇場版『ONE PIECE FILMRED』のヒットは、さらに大きな山を登ったなという感覚がありました。そのヒットの理由のひとつに“音楽の力”が挙げられると思います。今の人たちはTikTokを筆頭に音楽と映像が一体化したものへの親和性が高い。Adoさんという素晴らしいアーティストがウタとしてたくさんの素晴らしい劇中歌を歌い、作品の満足度を上げてくれました」

ジャンプ作品の最新劇場版アニメとして大ヒット公開中なのが『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。

「『ハイキュー!!』は、’20年に漫画の最終回を迎えている作品ですが、今もたくさんの人に楽しんでもらえるのは本当にありがたいこと。それはアニメ製作チームが原作に寄り添いながら長い期間をかけてでも“いいものを作ってファンに届ける”という想いでやってくれているのも大きい。そんなアニメチームとだからこそ、連載終了後もイベントなど様々な企画を実施してファンの熱を冷まさずに来られたんだと思います」

漫画の魅力は作家一人の過剰な面白さが詰まっているから

中野さん自身も幼少期から漫画に触れ、集英社入社後も漫画と向き合ってきた。中野さんが思う“人が漫画にハマる理由”を聞いた。

「一人の作家さんの頭から作られた過剰な面白みにあると思います。原案と作画が別の作品も増えてはいますが、基本的には映画やドラマで言う企画・脚本・キャスティング・演技・撮影・編集を全部一人でやっているようなもの。作家さんの熱量や才能、趣味趣向が作品に強く現れるのが面白いですよね。それが時代性だったり、より多数の人の好みとピッタリ合ったときに大ヒット作が生まれるんじゃないでしょうか」

少年漫画は内容も読者ターゲットも垣根は設けていない

漫画界の課題は2つあると話す。

「1つはやはり“デジタル化”。今はSNSやいろんな場所で作品を発表できる。漫画家を目指す人にとって紙の雑誌だけが目指すべきところではなくなってきているのが現状。若き才能が雑誌掲載を魅力に感じてもらう努力もし続ける必要があります。もう1つは“世界進出”。昔は日本の人気作が海外でヒットするのにタイムラグが生まれていました。けれど集英社が手がける海外向け漫画誌アプリ『MANGA Plus by SHUEISHA』で最新話が日本と同時に配信されるなど、時差がどんどんなくなっている。今後は“世界で読まれる前提”を考える作家さんも出てくるかも。だからこそ、日本と海外の漫画市場が逆転したときにどう勝負するかを考えないといけない」

今、漫画は様々な壁をとっぱらいつつある。

「少年・少女向けとジャンルわけがされていますが、対象垣根はほぼなくなってきています。連載作のコンペを行う際にもそこは気にせず、大事なのは面白いかどうか。僕たち編集としては多くの読者に楽しんでもらえるものが載っていると自負しています。そして漫画には今、たくさんのジャンルがある。たとえば僕が最近ハマった漫画『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』は東東京を散歩するだけの作品だったり。狭いジャンルですが、自分に刺さる漫画を見つけたときの喜びは格別。BAILA読者の方も好きなジャンルを発掘するように漫画を楽しんでみてください」

“これからはより“デジタル化”“世界進出”を視野に入れて作品を広げていきたい”

漫画ビジネスを大きく広げたジャンプ作品

『鬼滅の刃』

『鬼滅の刃』
吾峠呼世晴著 集英社 全23巻 460円〜
家族を鬼に殺された心優しい少年・竈門炭治郎が、鬼となった妹を人間に戻すべく奮闘するバトル漫画。’16〜’20年に連載され、’19年にTVアニメに。’21年公開の劇場版の興行収入は日本国内歴代1位を記録。

『ONE PIECE』

『ONE PIECE』
尾田栄一郎著 集英社 1〜108巻 484円〜
’97年より連載開始。コミックスの全世界累計発行部数は5億冊を突破している。TVアニメは’99年より放送。昨年は実写ドラマがNetflixにて全世界に配信されるなど、世界中にファンがいる。

『ハイキュー!!』

『ハイキュー!!』
古舘春一著 集英社 全45巻 460円〜
’12〜’20年にかけて連載。バレーに全力をかける高校生たちの青春を描いた。’14年にはアニメ第1期が放送。物語の中でも人気の高い一戦を描いた『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が公開中。

中野博之さん

週刊少年ジャンプ編集長

中野博之さん


’00年に集英社に入社後、『週刊少年ジャンプ』に配属。『最強ジャンプ』の副編集長を経て、’17年6月より現在の役職に。

撮影/さとうしんすけ 取材・原文/上村祐子 ※連載中の作品については2024年2月28日時点の巻数です ※BAILA2024年4月号掲載

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