書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、藤田貴大の『T/S』と、三宅香帆の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「あかりを灯さないかぎり、そこは暗闇」演劇という熱について
月曜発売のジャンプが水曜にしか発売されない中央から遠く離れた町で、演劇とであう。表現とは何か、演じるとは何か、なぜ演劇をしても世界から戦争がなくならないのか――。
朝練にお昼の発声練習、放課後は22時まで稽古と、演劇に明け暮れていた高校時代、「登校するときのあの風景以外は、演劇しかなかった」。全国大会出場、大学での上京、そして都会の「ぬるい時間」。まだ何者でもない青春期のもがきがやがて、人の目にとまり、嫉妬も買い、表現となって観客たちを魅了するまで。
さやかという女性に託してつづられる、ユニークで繊細な自伝的な青春小説で、創作論としても心が揺さぶられる一冊。
『T/S』
藤田貴大著
筑摩書房 2200円
「マームとジプシー」を率いて演劇界を駆け抜ける若き作・演出家、藤田貴大による自伝的フィクション。「わたしは演じるのではなくて、つくりたい」。18歳での上京、仲間との葛藤、旅、家族、そして創造とは。
これも気になる!
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆著
集英社 1100円
「労働と読書が両立する社会へ」半身で取り組むがよし
気鋭の批評家による、現代人への読書のすすめ。労働史をひもときつつ、効率至上主義の価値観を問う。読書も含めた文化活動で潤うためのヒントがある。
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年7月号掲載