書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、九段理江の『東京都同情塔』と、川野芽生の『Blue』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「最近は少しだけ、僕にも未来が見える」多様性の理解が行き着く先
犯罪者にはそうするしかなかった「同情すべき」背景があるとの寛容のムードに覆われた近未来の日本。都心には快適で美しい高層刑務所が新設された。「他者も自分も幸福にしない言葉はすべて忘れよ」との理念により、古い言葉の言い換えが進むなか、建築家の牧名沙羅は反発心から、それをカタカナ名ではなくあえて「東京都同情塔」と呼ぶ。
不遇な環境で育った美しいルックスの青年との交流や、粗野なジャーナリストからの対面取材は、牧名に生身の人間性を感じさせるが、AI生成による奇妙になめらかな文章は世の中にあふれ……。
社会にはびこる欺瞞を皮肉交じりでスタイリッシュに描いた話題の一作だ。
『東京都同情塔』
九段理江著
新潮社 1870円
都心に建つ刑務所は「シンパシータワートーキョー」と名付けられた。女性建築家は表面的な寛容の精神に嫌気がさす。人々の使う言葉がゆがんでいく状況を、新しいディストピアとして描く小説。最新芥川賞受賞作。
これも気になる!
『Blue』
九段理江著
新潮社 1870円
アイデンティティのゆらぎ、差別と人間関係のはざまで
高校から女性として生きると決め、人魚姫役を演じた真砂。しかし彼女は数年後、姿と名を変えていた。「女の子、やめちゃった」。葛藤の姿を真摯に描く小説。
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年4月号掲載