NHK連続テレビ小説『虎に翼』が話題沸騰中! 日本で初めて女性として弁護士、裁判官、裁判所長とキャリアを重ねた三淵嘉子さんをモデルにしたオリジナルストーリー。主演の伊藤沙莉の熱演も含めて、女性であることで数々の困難、理不尽な現実に直面する姿に「私も同じ思いをした」と共感する視聴者が続出しています。ドラマを観ながら約100年以上の時を経て変わったことと、今だに変わらない現実に思いを馳せる人も多いのでは?
そこで『虎に翼』のテーマに直結するドキュメンタリーから多角的な視点で働く女性を描いたフィクションまで、朝ドラで描かれている時代や女性の社会進出について、より広い視野から日本の事情を俯瞰し、考えを深めることができる必見の映画&海外ドラマ7選をご紹介します!
映画『RBG 最強の85才』
女性やマイノリティの権利に先駆的な法律家の不屈の精神とお茶目な人柄
1993年、女性として史上二人目となる合衆国最高裁判所陪審判事に指名された米国の法律家、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(通称RBG)。87才で惜しまれつつも他界するまで、27年にわたって同職を務めた彼女の長いキャリアと人生にスポットを当てて素顔に迫る傑作ドキュメンタリーだ。
2018年に本作が製作された当時、最高齢の女性最高裁判事として、アメリカでは関連本のほかTシャツやマグカップなどのグッズも作られるほどの“RBGフィーバー”を巻き起こしたルース。若き弁護士時代から一貫して女性やマイノリティの権利発展に尽力し、最高裁判事に就任後も男子大学の女性排除や男女の賃金差別ほかの撤廃に寄与し続けた。
映画では、特にルースの先駆的な女性の権利に関する経歴にフォーカスし、フェミニストのアイコンであるグロリア・スタイネムらのインタビューも含まれている。ハーバード大学ロースクールの卒業生であるルースの孫娘も登場し、同期の男女比が半々だったことに言及。ルースが同ロースクールに入学した当時は、約560人の同期のうち女子学生はたった9人だったことを考えると感慨深い。
同時に、ルースの偉大さを感じさせるエピソードとして、男女を問わず、社会制度において偏見や差別により不利益を被っていた人々を弁護する姿勢があるだろう。圧倒的な男性社会である1970年代に、ルースは女性を差別する社会システムと闘い、通常はシングルマザーのみに支払われる社会保障の利益を受けられなかった男性なども弁護した。
このようなルースの精神、パーソナリティは、超保守派の判事アントニン・スカリアとの実にユニークな関係性にも表れている。劇中に映し出される、進歩的でリベラリストのルースと彼が陽気に軽口を叩きながら、オペラを数少ない共通点の一つとして認め合っている姿の、なんと尊く感じられることか。何よりもルースが魅力的な理由は、仕事で成し遂げたことは他に比類なき偉業だが、お茶目で知的で強い信念を持ち続ける人間性、そのキャラクターにこそあるのかもしれない。
ルースに興味を持ったなら、フェリシティ・ジョーンズが若き日のルースを熱演する映画『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/U-NEXTほかで配信中)も、あわせて鑑賞してみたい。
『RBG 最強の85才』作品紹介
DVD発売・販売:株式会社ファインフィルムズ
DVD価格:3800円(税別)/4180円(税込)
© Cable News Network. All rights reserved.
監督・製作:ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウエスト
出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマほか
映画『マーキュリー13: 宇宙開発を支えた女性たち』
差別や偏見に直面しながら、道なき道を切り開いた先人たちの苦難の歴史
ソビエト連邦との激化する宇宙開発競争を背景に、1958年から1963年にかけて実施されたアメリカの有人宇宙飛行のマーキュリー計画。結果として、7名の男性宇宙飛行士(マーキュリー・セブン)が偉業を成し遂げて英雄視されたが、その舞台裏では「女性である」という理由だけで夢を絶たれた“マーキュリー13”と呼ばれる13人の女性宇宙飛行士たちの存在があった。
実際のところ、アメリカでは第二次世界大戦中に「WASP」と呼ばれる空軍支援の女性パイロット隊があり、1,000人以上の女性飛行士が活躍していた。エアレースなども行われており、当時のアーカイブ映像を見ると彼女たちは皆、大胆で自由で、中にはおしゃれも楽しみながら大空を飛ぶことを心から楽しむ姿もあり目にまぶしい。
その元WASPや有名女性飛行士らに声がかかり、マーキュリー計画の3段階のテストのうち、13名が第2テストまで合格した。中には8人の子供を育てる女性もいた。しかし、NASAは突然、一方的にテストを中止した。鍛錬を重ね、あらゆる面において男性より能力が上であることまで証明していたにもかかわらず、彼女たちは夢を奪われた。
その後の闘いも「さぞ悔しかっただろう」という思いで、何度も奥歯をかみしめたくなるエピソードの連続だ。そして本作でもまた、女性たちが団結して共闘することができなかった複雑な経緯と社会背景も描かれている。しかし、何度も挫折を味わいながら、目を輝かせて大空に夢を馳せ、道なき道を切り開いてくれた彼女たちの情熱と諦めない気持ちの強さは、限りなく私たちをエンパワーしてくれる。
『マーキュリー13: 宇宙開発を支えた女性たち』作品情報
Netflix映画 独占配信中
監督:デヴィッド・シントン、ヘザー・ウォルシュ
出演:ウォーリー・ファンク、サラ・ラトリー、リア・ウォルトマン、アイリーン・コリンズほか
写真提供:Netflix
海外ドラマ『ミセス・アメリカ〜時代に挑んだ女たち〜』
フェミニズム運動において、女性の連帯をはばむものとは?
近年、多様性という言葉が急速に一般に浸透しているが、それは当然「女性」に対しても言えること。人種やジェンダー、セクシュアリティなどをラベリングすることに問題があるように、「女性」とひとくくりして語ることにも無理がある。経済的状況や家庭環境、結婚か未婚か、仕事をしているのか専業主婦なのか、子供のあるなしなどさまざまな要因によって、考え方はかなり違ったものになるはず。
そのような多様な女性たちが、男女平等についてどう考えるのか。そのことをわかりやすく知ることができる本作は、アメリカの合衆国憲法に男女平等を明記するERA(Equal Rights Amendment/男女平等憲法修正条項)の議会通過を目指すフェミニズム運動における賛成派と反対派の熾烈な闘いを描く。
芯のあるフェミニストとして知られる主演のケイト・ブランシェットが演じるのは、実在した人物フィリス・シュラフリー。保守派として有名で、晩年は極右サイトに寄稿したり、ドナルド・トランプ支持者としても知られた人物で、1970年当時は主婦たちを巻き込んで反ERA活動を強力に進めて成果をあげた。
しかし、本作が真に優れているのはシュラフリーもまた矛盾した複雑な面を持つ人物であったこと、さらにアンサンブルドラマとして、実在するERA賛成派のフェミニストのアイコン、グロリア・スタイネム(ローズ・バーン)やシャーリー・チザム(ウゾ・アドゥーバ)らもまた、先に述べたように一枚岩ではなく考え方は多様であることを描いている点だ。
そもそも論として、シュラフリーは自らも「女性の幸せ」として、また守られるべき権利としての「専業主婦」であるとしながら、貪欲な上昇志向を持つ「職業婦人」であるという大いなる矛盾を最初から抱えていた。一方で、「女性の幸せ」をめぐる議論はフェミニストたちの間でも大きく対立してきたテーマだ。加えて劇中では、双方の支持者たちの中にもシュラフリー、スタイネムらのそれぞれの主張、考え方に疑問や反発を抱く一般女性の姿も描かれる。
このように議論が紛糾する状況を巧みに利用したのがシュラフリーだ。フェミニストたちの矛盾をついて分断をあおる狡猾さには、フェミニズム運動の敵を知る意味でも学ぶところも多い。しかし、忘れてはいけないのは、その背景にある男性が作り上げた社会の構造的な問題だ。個々の女性たちが互いの意見の相違を尊重し、団結することのそもそもの難しさを認識した上で、女性を分断させるものは何かについて、今一度考えてみたい。
『ミセス・アメリカ〜時代に挑んだ女たち〜』作品情報
ディズニープラスのスターで配信中
企画・制作:ダーヴィ・ウォーラー
出演:ケイト・ブランシェット、ローズ・バーン、サラ・ポールソン、マーゴ・マーティンデイル、ウゾ・アドゥーバ、エリザベス・バンクスほか
© 2024 FX Productions, LLC. All rights reserved.
全9話
海外ドラマ『コペンハーゲン: 権力と栄光』
デンマーク初の女性首相のキャリアとワークライフバランス
デンマーク初の女性首相に予想外に就任することになった架空の政治家、ビアギッテ・ニュボー。良き理解者である夫フィリップと2人の子供と暮らす一政治家から、一国の首相となった女性がリーダーとして、また家庭を持つ一人の人間として葛藤する。デンマークの国民的ドラマ『コペンハーゲン』(3シーズン)は2010年〜2013年に放送されて、本国だけでなく世界各国で絶大な人気を誇った。
2022年にNetflixシリーズとして復活した『コペンハーゲン: 権力と栄光』は、首相を経て、現在は外務大臣としてキャリアを重ねて老練な政治家となったビアギッテが、急速の変化する時代の中で、キャリアの新たな局面に思い悩む姿を描く。かつてに比べると政界にも明らかに変化があり、ビアギッテに憧れて政治家になった女性首相の存在なども描かれる。
新たな世代の活躍や主張を目の当たりにして、権力の座に長くとどまることで生じる問題を考えざるを得なくなるビアギッテ。その苦悩と葛藤は、女性の生涯を通じたキャリアを考える上でもさまざまな示唆に富んでいる。
シーズン4にあたる本作(全8話)だけでも十分に見応えがあるが、過去3シーズンを今、改めて振り返ってみるのも有意義だと思う。若く志の高い政治家ビアギッテが、理想と現実の間で葛藤する政治の駆け引きから愛する家族との時間が取れずに苦悩するワークライフバランスまで、等身大の働く女性の“あるある”が詰まった内容は、今観ても驚くほどリアルに感じられるはず。
何よりも本シリーズが伝説として語り継がれているのは、シーズン1が放送された当時としても日本に比べれば女性の活躍が目立っていた北欧社会において、その翌年の2011年には、実際にデンマークで初の女性首相が誕生したから。時代を先取りしていた作品だが、今の日本より進んでいるのではないかと思えるデンマークをはじめとする欧州の政界の描写に考えさせられることは多い。
『コペンハーゲン: 権力と栄光』作品情報
Netflixシリーズ 独占配信中
『コペンハーゲン/首相の決断』全3シーズンもNetflixで配信中
原作・制作:アダム・プライス
出演:シセ・バベット・クヌッセン、ビアギッテ・ヨート・ソレンセン、ミケル・ボー・フォルスゴーほか
写真提供:Netflix
全8話(シーズン1〜3は全30話)
海外ドラマ『グッド・ファイト』
「正義」は果たされているのか? 自問自答する女性弁護士たちの葛藤
弁護士ドラマは、アメリカでは人気のジャンルの一つだ。数ある名作の中でも女性を主体とした本作は、驚くほどにしたたかな現代の女性弁護士たちの活躍が頼もしい一作。2017年1月20日に発足したトランプ政権の誕生直後に始まったシリーズとしても観るべき点は多い。
人気弁護士ドラマ『グッド・ワイフ』のスピンオフである本作の主人公ダイアンは、エリート弁護士として理想的な人生から一転、巨大金融詐欺の後に貯金も仕事も失い、シカゴでも有数の黒人ばかりの法律事務所に加わる。人種やジェンダーなどあらゆる社会問題を取り入れた内容は、激動の時代に突入したアメリカ社会をダイレクトに映したことでも知られている。
特に、時の政権への批判も厭わず、作り手たちの政治信条も明確に打ち出したエピソードの数々には、ここまでやるか!と感心するばかり。しかし、シーズンを重ねながら、トランプ政権下で起きたさまざまな事象に対して憤るだけでなく、同時に自分たちがこれまで信じてきた正義を成すことができなくなった世界への戸惑いと自省する過程もまた、エスタブリッシュメントである登場人物たちの言動を通して伝えている。男性女性にかかわらず、自らの加害性を踏まえた上での現政権への批判は、番組を世に送り出す側として誠実な姿勢と言えるのではないだろうか。
「正義」が果たされなくなった世界で、法に携わる者として何ができるのか? 今年11月に行われるアメリカ大統領選挙では、ドナルド・トランプの再選の可能性もあるとの見方もある。そんな今だからこそ、改めて本作で描かれる社会の変化に直面する女性弁護士たちのリアルを振り返る意義は増しているように感じる。
『グッド・ファイト』作品情報
U-NEXTでシーズン1〜5が配信中
脚本・製作総指揮:ロバート・キング、ミシェル・キングほか
出演:クリスティーン・バランスキー、ローズ・レスリー、エリカ・タゼル、サラ・スティール、ジャスティン・バーサ、クシュ・ジャンボ、デルロイ・リンドーほか
CBS Television Studios
全50話
海外ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』
男性社会で女性が「いつも通りの」パフォーマンスを発揮することの難しさ
『マッドマックス:フュリオサ』のアニャ・テイラー=ジョイが、チェスの天才少女を熱演して一躍注目を集めた痛快作。
米ソ冷戦期のアメリカ。9歳で交通事故で母親を失い、養護施設に入れられたエリザベス(通称ベス)は、用務員シャイベルから地下室でチェスの手解きを受ける。13歳になるとある夫妻に引き取られるが、義理の両親は離婚。生活に困窮し、生きていく手段として好きなチェスを極めて身を立てる決意をする。
天才少女として注目を浴びるも、全国大会で初めての敗北を味わい、さらにロシアの強豪ボルコフとの対決にも敗れて、再び精神的にも落ち込み、どん底の生活に。そこから不死鳥のようにはいあがっていく過程は、まさにミラクルで娯楽として単純に楽しめる作品だ。
一方で、作中の時代は社会全体もチェスの世界も圧倒的に男性が主体。ベスが衆人環視の中で男性の著名なプレイヤーを相手に「いつも通りの能力」を発揮することが、どれほど大変であるかは想像に難くない。
例えば、ある仕事のチームで女性が1人だけだった場合、パフォーマンスが下がってしまう現象に「ステレオタイプ脅威」というメカニズムがある(*)。これは女性に限ったことではなく、人種やジェンダー、年齢などに対する社会のステレオタイプを、本人が無自覚のうちに内面化して影響を受けてしまうというものだ。本作でいうなら「チェスは男性のもの」であり、そもそも女性への偏見や差別が強い社会通念や刷り込みがベスに与える影響は少なくないだろう。
そうした孤独な闘いと精神的なプレッシャーを、ベスはどのようにして乗り越えたのか? その点こそが真のジェンダーイクオリティを伝えると共に、本作における最も美しい瞬間があると言えるのかもしれない。
*『ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』(英治出版)に詳しいので、ぜひ参照して欲しい。
『クイーンズ・ギャンビット』作品紹介
Netflixシリーズ 独占配信中
原作・制作:スコット・フランク、アラン・スコット
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー、トーマス・サングスターほか
写真提供:Netflix
全7話
映画『Fair Play/フェアプレー』
パートナー同士のキャリアの逆転から生じるパワーバランスの変化
ジェンダーイクオリティを考える中で、身近な問題の一つとして近年、映画の題材になることも多いのが、仕事を持つパートナー同士のパワーバランスの難しさだ。今年のアカデミー賞でも話題になった『落下の解剖学』もまさに夫婦のキャリアにおいて、妻の圧倒的な成功が夫の死の争点の一つになっていた。
衝撃的な内容に物議を醸した『Fair Play/フェアプレー』は、同業者同士のカップルの壮絶な関係を描いている。
競争の激しいヘッジファンド会社で同僚として働くエミリーとルーク。エリートで高給取りのパワーカップルは仕事では支え合い、プライベートでは婚約して人生は順風満帆、傍目からは理想的な関係だった。しかし、次はルークだと思われていた昇進の候補にエミリーが選ばれたことを機に、パワーバランスは音を立てて崩れていく。
最初はエミリーの仕事ぶりを認めて称賛する余裕をかましていたルーク。しかし、会社では自分より能力が評価されている上司、家に帰れば激務で帰宅が遅くプレッシャーで疲弊しきっているエミリーに対して、ルークは次第に嫉妬と苛立ちをあらわにしていく。ルークの心の小ささにはドン引きするばかりだが、外聞も憚らずにタガが外れて暴走する姿は、哀れでもあり恐ろしくもある。
本作は極端な形でエンタメとして描いているが、実際のところパートナー同士で女性のキャリアが男性より上になることで起こり得るパワーバランスの変化は、極めて繊細かつ複雑な問題だと思う。
『Fair Play/フェアプレー』作品情報
Netflix映画 独占配信中
監督・脚本:クロエ・ドモント
出演:フィービー・ディネヴァー、オールデン・エアエンライク、エディ・マーサン、リッチ・ソマーほか
写真提供:Netflix
欧米の秀作群は、きっとこれまでになかった新たな視点を与えてくれるはず。『虎に翼』の次回&次週が待ちきれないときに、ぜひあわせて観て欲しい7作品です!
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
NHK総合・月曜~金曜8時ほか放送中/そのほかNHK BS、プレミアム4Kでも放送中