海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演『哀れなるものたち』をご紹介。胎児の脳を移植され蘇生した女性の見た世界とは? 賞レースでも注目の一本。
『哀れなるものたち』
新生児の目線を持つ女性が見た世界とは?
![『哀れなるものたち』公開/2024年1月26日(金)より全国公開](https://img-baila.hpplus.jp/lg=7/w/common/large/image/b3/b3c0d914-0933-44bf-88ce-596b41331246.jpg)
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映画賞を席巻した、『女王陛下のお気に入り』のギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督と、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン。2度目のタッグは、ストーンがプロデューサーと主演を兼ねる、スコットランド人作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説の映画化だ。主人公のベラは命を絶つが、天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって、自らの胎児の脳を移植され、蘇生する。体は成人女性だが、新生児の目線で世界と向き合い、急速な内面の成長を遂げていく。時代の常識や社会通念などにとらわれないベラの言動は、純真無垢であるがゆえにぎょっとするものも。中でも重要な部分を担うのが、セクシュアリティに関する探究だ。
ベラは、美味しいものを好きなだけ食べるのと同じように、罪悪感なくセックスをする。最初の相手は、バクスターの教え子で婚約したマックス。しかし、外の世界を自分の目で見てみたいという自然な欲求が生じ、放蕩者の弁護士ダンカンとヨーロッパ大陸横断の旅に出る。
初めて見る世界は、驚きと喜びに満ちている。しかし、旅で出会った人々を通して、ベラは世界の悲劇的な側面を知り、読書に興味を持ち、娼館で働きながら男性たちの欲望を学んでいく。
ベラの視点を通して、観客もあらためて気づかされることもあるだろう。特にセックスに関しては、「ヨーロッパの開放的なとらえ方とアメリカでは距離感が異なる」と本作のインタビューでストーンが語っているように、日本人も距離を感じるかもしれない。翻って、なぜ女性は快楽としてのセックスに罪悪感を覚える傾向が強いのかを考える機会にも。本作の父権社会における女性のセクシュアリティと社会的制約、自由を巡るテーマは知的で刺激的。フェミニズム映画でもある。同時に、時空を超越した色彩豊かな映像世界は、ただ眺めているだけであっという間に時間が過ぎてしまう。ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォーら演技派俳優たちによる出色の役作りを含めて、今期の賞レースで注目の一本だ。
監督/ヨルゴス・ランティモス
出演/エマ・ストーン、マーク・ラファロ
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
公開/2024年1月26日(金)より全国公開
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配給/ムヴィオラ
公開/2024年1月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年2・3月合併号掲載