BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆してくれている今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月2回ご紹介します。第4回はNetflixの話題のドキュメンタリー映画『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』です!
女性をエンパワーメントし続けるジェニファー・ロペス!
目を見張るようなパフォーマンスを、こともなげにやっているように思わせてしまうジェニファー・ロペス。歌とダンス、そして演技への尽きることのない情熱に心打たれる。
読者の皆さま、こんにちは。
最新のエンターテインメント作品をご紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。第4回は、暑い夏のお家時間を充実させてくれる『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』。観ているだけで元気になれる、女性のエンパワーメントムービー決定版です!
J. Lo(ジェイロー)の愛称で親しまれているジェニファー・ロペス。今さら説明の必要もない俳優で歌手、プロデューサーほか多彩に活躍しているスーパースターです。
7月16日には、20年越しの復活愛がメディアを賑わせていた俳優ベン・アフレックと、電撃結婚を発表してファンを驚かせました。2000年代初めに婚約&破局した当時は、“ベニファー”などと呼ばれて注目の的でしたが、それぞれに結婚して親になり、離婚を経て50代を迎える2人の新たな門出は、本当におめでたい限り!
そんなジェニファーのキャリアを振り返りつつ、不屈の精神でたゆまぬ努力を続ける姿をとらえたドキュメンタリーが、『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』です。これがもう、頭から最後の瞬間まで、女性たちに勇気と元気を与えてくれるエピソード&金言がいっぱい。そのほんの一部をご紹介しましょう。
Netflix主催のプレミア試写会に登場したジェニファー。丸みのある体の曲線美が際立つドレスやファッションも見どころ。人になんと言われようとも自らの体型に自信と誇りを持つ姿こそが美しい!
ジェニファー・ロペスがスーパースターであり続ける理由
教育熱心な母親とぶつかり、10代で家を出てダンサーとして仕事を始めたジェニファー。「全てのチャンスに飛び込む」をモットーとして実践し、俳優、歌手としてスターダムを駆け上がった。
「折れない心とレジリエンス」
ラティーナ(ラテン系女性)として受けてきた差別や屈辱に対して、ジェニファーが発揮してきたレジリエンスには驚かされます。
俳優&プロデューサーとして、非常に高く評価された映画『ハスラーズ』(2019年)のアカデミー賞ノミネート落選をめぐる問題。また本作のハイライトでもある、2021年のNFLスーパーボウルのハーフタイム・ショーの舞台裏でも、駆け出しの頃ならまだしも、これほどの実績を積んだ大スターになっても、まだこんな扱いを受けるのかと憤慨してしまいました。
わがままだとかお騒がせセレブだとか、何かと色眼鏡で見られることも多いジェニファーは、アカデミー賞もNFLも権威主義的な男性社会だとして、自分は軽んじられていると悲しみます。でも、それに屈することなく、へこたれず、何度でも立ち上がり、現実を受け入れながらも前例のないことに挑戦し、壁を打ち破っていくのがジェニファーのすごいところ。自分だってまだまだ頑張れるはず! と視聴者を奮い立たせるものがあるでしょう。
「ネガティブな要素をポジティブに変換する」
恋愛ゴシップも華やかなジェニファーは、彼女が載ってさえいれば雑誌が売れると言われたほど、昔も今も常にメディアの人気者であり続けています。
ですが、丸みを帯びた曲線美の体型をからかわれることも多かったジェニファー。特に、2000年のグラミー賞授賞式でVERSACEのジャングルドレスの着こなしは、そのあまりの神々しさとともに、体型についてのジョークや「デカ尻」などと面白おかしく書き立てられました。ひどい話ですよね。
今でこそ、体型や人種の多様性、ボディポジティブという考え方は一般的になっていますが、当時はまだまだ白人系のスレンダーな女性が根強く理想像とされていました。
しかし、ジェニファーは「私はラティーナ」と胸を張り、堂々とジャングルドレスを着こなします。すると、世界中の人々がこのドレスを検索し、このことが、なんとGoogle画像検索機能が誕生するきっかけとなったのでした。
もともとジェニファーは、キャリアの初期から「どんな内容でもメディアに露出することが大事」と考え、メディアとはうまく付き合ってきた側面もあります。味方になる時もあれば敵になることもあるメディア、マスコミに対して、一歩も引かず、自分の主張を伝える機会としても徹底的に活用するジェニファーの根性は、やはり只者ではないなと。そうしたメディアの活用法が良いか悪いかはともかく、常に脚光を浴び続けるスターらしさが彼女の魅力でもあります。
ラティーナとして、人間の権利を訴えたかった
ハーフタイム・ショーのリハーサル風景。ラティーナのちびっ子ダンサーたち。愛を持って厳しく指導するジェニファーに憧れ、尊敬し、全身全霊で期待に応えて素晴らしいパフォーマンスを披露!
この映画の中で最も素晴らしい瞬間は、ハーフタイム・ショーに出演するラティーナの子供たちとのリハーサル風景です。
女の子たちが、どれほど「J. Lo」を愛し、リスペクトしているか。その眼差し、瞳の輝きに、思わず胸に熱いものがこみあげてくるのでした。
その昔、ジェニファーは映画『ウエスト・サイド物語』(1961年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したプエルトリコ出身のリタ・モレノに憧れて、ダンサーとしての第一歩を踏み出しました。当時は、ラティーナにとってのロールモデルが少なすぎたと語るジェニファーですが、今の彼女はまさに、そうしたかつての自分のような多くの子供たちに勇気を与えているのです。
2020年、マイアミで開催されたNFLスーパーボウルのハーフタイム・ショーにジェニファーが出演した当時、アメリカはトランプ元大統領の反移民政策や差別発言によって、ラテン系の人々だけでなく移民や外国人は著しく偏見や反発にさらされていました。ジェニファーは、このハーフタイム・ショーで「(社会的に抑圧された)ラティーナたちを解放する」「私たち(移民)はアメリカの一部であり、この国の力になれる」というメッセージを伝えるために、ある演出を考えました。
ところが、これが政治的メッセージだとして主催者側、NFLの強い反発を招きました。ですが、ジェニファーは自分の信念を貫き通します。日本でもアーティストが政治を語ると文句を言う人がいますが、ジェニファーはこのハーフタイム・ショーを「意味のあるもにしたい」として、この演出に関しては譲りませんでした。
「私は政治を語りたいんじゃない、人間の権利を訴えたかった」
“ポリコレ”が窮屈だという話もよく聞かれますが、女性の権利とは「人間の権利」のこと。その大前提が抜けているように感じることが多々あります。女性として生きるとは、人間として生きること。それはラテン系として生きること、有色人種や移民として生きることなど、全てに通じるでしょう。
最後に、年齢を重ねることに対しても前向きなジェニファーの、力強い言葉で締めたいと思います。
「この年になって、若い頃は想像もしていなかった活力に満ちている。
やりたいことが山ほどある。伝えたいことが山ほどある。
むしろこれからよ!」
ハーフタイム・ショーのラストで、アメリカの国旗とプエルトリコの国旗をモチーフにした衣装で登場したジェニファー。前夫マーク・アンソニーとの愛娘エメ(当時11歳)が歌う、ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・U.S.A. 」からの展開は胸熱&大興奮‼︎
『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』
Netflixで独占配信中!
写真はすべてNetflix提供。
監督:アマンダ・ミケーリ
出演:ジェニファー・ロペスほか