海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、フランス映画界の異端児、レオス・カラックスの最新作『アネット』をご紹介します。
©2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano
『アネット』
フランス映画界の異端児、レオス・カラックス。’90年代の『ポンヌフの恋人』や『ポーラX』など、寡作だがカルト的な人気を博した鬼才だ。と言われても、バイラ世代にとっては縁のない過去の人だと思うかも。
ところが、かつてその異色の才能に“恐るべき子ども”とも称されたカラックスは、60代になってまたも世界をあっと言わせた。それが久々の新作で、昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたロックオペラ風の異色ミュージカル『アネット』だ。
物語は、わかりやすくメロドラマかつ悲劇的。オペラの人気ソプラノ歌手アンと、挑発的なスタンダップ・コメディアン、ヘンリーは“美女と野獣”などと騒がれ、注目の的だ。結婚し、二人だけの理想的な新婚生活を送るも娘の誕生で暗転する。
キャリアは絶好調のアンに対して、ヘンリーはスランプで荒れ模様。アンと関係があったらしいオーケストラの指揮者の存在も気になるが、何よりもヘンリーにとって子どもは未知の生き物で手に余る。やがて夫婦の溝は修復不可能なほど広がり、嵐の夜、親子3人で乗った船の上での出来事を機に、ダークで奇妙なファンタジーの要素が強まり、夫婦と親子の愛憎が濃密に絡み合う。
カラックスは本作を「父親になったあとの映画」として自らの経験を反映しているというが、それでこんな作品になるの⁉というほどぶっ飛んでいる。何よりも驚いてしまうのが、登場人物がセリフを歌にのせながら感情を伝えるミュージカルのスタイルをとっていること。カラックスが大ファンだったという、ロック界で50年のキャリアを持つ兄弟バンド・スパークスとの長期間のコラボレーションを経て実現したという。
いつまでも耳に残る楽曲のキャッチーなフレーズとは裏腹に、不安で悲しげな旋律は斬新だがクラシカルな趣も。色彩も夜の“黒”をベースにヘンリーの“緑”、アンの“黄色”をどう配置するかなど、インパクトのある画面作りが独特の味わいだ。娘に至っては、赤ちゃんから少女時代まで操作して動かしている人形で表現され、可愛いと不気味のはざま。ヘンリーにはそう見えるということか。
何から何まで「作りもの」の世界は、いい意味で滑稽であえてのチープさも。しかし、俳優のパフォーマンスには真があり、現場でライブ収録したという歌声はリアルで感情に訴えてくる。アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールが奏でるデュエットの妙や、とりわけドライバーの怪演は鳥肌もの。見どころ満載だが不思議な作品だ。サウンドトラックを聴きながら、映画の余韻にどっぷりと浸ってみたい。
監督/レオス・カラックス
出演/アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール
公開/4月1日(金)より、ユーロスペースほか全国公開
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©PAGE 114 - France 2 Cinéma
『パリ13区』
多文化で歴史とモダンが混在するパリ13区。台湾系エミリーと黒人の高校教師カミーユ、33歳で大学に復帰したノラらの恋愛模様を描く。セーヌ川沿いの街並みに、モノクロームの映像が美しい。
監督/ジャック・オディアール
出演/ルーシー・チャン、マキタ・サンバ
公開/4月22日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS - 2019
『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』
長年、ひそかに愛し合っていた未亡人マドレーヌと隣人のニナ。マドレーヌが子どもたちに告白しようとした矢先に、ある悲劇が襲う。しみじみとした作風の中に、求め合う二人の感情がほとばしる。
監督・脚本/フィリッポ・メネゲッティ
出演/バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ
公開/4月8日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年4・5合併号掲載