海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、世界最強のテニスプレイヤーを育てた父が独学で作り上げた“成功書=ドリームプラン”にまつわる驚きの実話をベースにした感動の人間ドラマ『ドリームプラン』をご紹介します。
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『ドリームプラン』
女子プロテニス界のトップに10年以上にわたり君臨する、ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹。その偉業だけでなく、自己表現としてのファッションやヘアスタイルから生き方まで、世界中の人々に大きな影響を与えてきた。そんなスーパー姉妹は、どのような教育、指導を受けて育ったのか? ビーナスとセリーナも製作総指揮に名を連ねる、驚きの実話をベースにした感動の人間ドラマが『ドリームプラン』である。
この姉妹の父親リチャードは、かなりぶっ飛んだ人物だ。テニス未経験ながら、子どもが生まれる前にテレビで優勝したテニス選手が賞金を受け取る姿を見て、子どもをプロのテニス選手にしようと決意。独学でテニスの教育法を研究し、成功への計画書を作成して実行に移したと聞くと、なんだか怪しい感じもする。
実際にリチャードの教育法は、隣人から子どもを虐待しているとして通報されたこともあるほど厳しかった。だが、映画で描かれるリチャードには不思議と押しつけがましさを感じない。むしろテニスが好きで好きでたまらない娘たちに対して、しっかりと学業にいそしむことを第一とし、試合に勝利して喜びはしゃいでいると、勝利をひけらかさず、慢心しないといった謙虚な姿勢を徹底的にたたき込む。そんな日常生活における姉妹の罰は、「テニスの練習禁止」だった。
リチャードの教育法は誰がやっても成功するとは言えない。しかし、何よりも重んじたのはテニス以外の人生を充実させ、一人の人間としてリスペクトされる存在になること。その上で、テニスに対してはあくまでも自主性を重んじるリチャードの、忍耐強い子どもたちとの向き合い方は、誰もが学ぶものがあるだろう。ウィル・スミスが演じるリチャードは、ひょうひょうとしているがカリスマ性があり、そのユニークな人柄は人を引きつける。もっとも映画を見ればわかるが、母親や家族全員の協力があればこその成功ではある。
もうひとつ、この映画には純粋に“スポ根もの”としての面白さがある。ギャングがはびこる劣悪な環境で危険から距離を置き、娘たちを守ったのがテニスだ。姉妹役の新星、サイヤニ・シドニーとデミ・シングルトンは、実際にビーナスとセリーナから話を聞き、プレーのアドバイスなども得たという。若手俳優二人が練習を積んだ成果が実感できる、白熱した試合のシーンは無条件に胸が熱くなる。
同時に、セリーナやビーナス本人たちからも感じる静かな気迫は、サイヤニとデミが見事に伝えて鳥肌が立つような瞬間も。輝く瞳に闘志を燃やし、人が全力でひとつのことに打ち込む姿ほど美しいものはない。
監督/レイナルド・マーカス・グリーン
出演/ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス
公開/2月23日(水・祝)より全国ロードショー
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©2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA
『GAGARINE/ガガーリン』
フランス・パリ郊外に実在する公営住宅、ガガーリン。取り壊し計画により退去が進むなか、母の帰りを待ち続けて最後まで抵抗する青年ユーリ。彼の心を映す映像世界が、ロマンと哀感をかきたてる。
監督/ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ
出演/アルセニ・バティリ、リナ・クードリ
公開/2月25日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
©ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
『アンネ・フランクと旅する日記』
博物館に保管されている『アンネの日記』の文字から、突然アンネの空想の友人キティーが姿を現す。難民などの今の社会問題にも重なる、アンネが伝えたかった普遍的なメッセージに思いを馳せたい。
監督・脚本・製作・声の出演/アリ・フォルマン
声の出演/ルビー・ストークス、エミリー・キャリー
公開/3月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年3月号掲載