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女性像の「再解釈」が与えてくれるもの。『少女バーディ 〜大人への階段〜』【今祥枝の考える映画vol.8】

BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆してくれている今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月2回ご紹介します。第8回は、アメリカの作家カレン・クシュマンによる児童文学を基にした元気になれる一作『少女バーディ 〜大人への階段〜』です。

14歳で結婚を強いられる少女の反乱

映画少女バーディ 元気いっぱいに剣術に興じるバーディの場面写真

バーディ役は、大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のリアナ・モーモント役で知られるベラ・ラムジー。冒頭からラストまでテンション高く、超個性的!

読者の皆さま、こんにちは。


最新のエンターテインメント作品をご紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。第8回は、時代を超えて現代にエールを届けてくれるガールズパワー全開!の『少女バーディ 〜大人への階段〜』です。


主人公は、13世紀のイギリスのある村の荘園の領主一家に生まれた14歳のレディ・キャサリン。多くの鳥を飼っていて、自身もまた鳥のように飛び回っていることから、バーディの愛称で親しまれている元気いっぱいの少女です。

恵まれた環境でのびのび育っていたものの、金策に行き詰まった父・ロロ卿によって金持ちとの結婚を強いられるバーディ。いやおうなしに結婚=経済活動の意味合いが強かったこの時代の慣習に、敢然と立ち向かっていくというのが大筋です。


冒頭から泥まみれの姿で「豚を自由にしてあげた!」などと鼻高々に帰宅したり、修道院の美形男子を見て興奮したり、いたずらや達者な弁舌(しばしば口が悪い)も日常茶飯事。衣装はガーリーで映像も美しいから、おとぎ話的な雰囲気も漂いつつ、全体として現代のZ世代にも通じる原作の再解釈(そこに賛否はあっていい)が魅力です。


しかし、初潮がきたことで、バーディは子供のままではいられないのだということを少しずつ理解し、また肌で感じ取っていくのでした。

女性は金銭と引き換えにやりとりされる“物”じゃない!

映画少女バーディ 父親とバーディの場面写真

経済的な危機を招いた父親・ロロ卿とバーディ。娘を愛しているが頼りない父親を好演するのは、ドラマ『Fleabag フリーバッグ』などに出演するアンドリュー・スコット。

「おしりから血が出た」と騒ぎ立てるバーディに、乳母は「大人の女性になった」と言って説明します。

バーディは初潮を迎えた意味、結婚して出産できる体になったことを頭では理解するのですが、それと心の準備ができているか否かは全く別ですよね。正直、この程度の知識や精神状態で、当時は他家に嫁がなければならなかったのかと思うと、ぞっとしてしまいました。


花嫁修行が始まり、レディらしい装いをして振る舞えば、少しはそれらしい気持ちになれるのかしら?と考えるバーディは、あまりにも幼く感じられます。一方、結婚相手の候補は9歳から上は80代と、親子どころかひ孫でもおかしくないぐらいの年の差の相手も登場。作風がライトなのでそこまで感じませんが、なかなかグロテスクなものがあります。

いやなものはいやだと我が道を突っ走るバーディ。しかし、ついには家族や親友や、この土地の人々のためにも、自分ができることをやらなければいけないのではないかという思いも生じてくるのでした。

この周囲や家族の圧に応えようとする感じ。程度の差は格段にありますが、どれほど時代や価値観が進化したとしても、今でも共通するものがあるのではないでしょうか。

映画では、女性が物のように扱われ、金銭の代わりにやりとりされるといった女性の権利や人権が、いかにないがしろにされてきたのかが描かれています。もちろん、家を背負い、犠牲を強いられるのは男性もそうなのですが、圧倒的に女性が制限されていることの多さ、不自由さが際立ちます。

そうした制限がどこから来るのかと言えば、最も大きな要素の一つとして出産があります。子供を産むということが女性にとっての最大の使命であるとされ、さらには出産が本来どれほどのリスクを伴うことなのかも、本作は描いてます。

過去の女性像を現代の視点から再解釈することの意味

映画少女バーディ 泥だらけのバーディの場面写真

監督・脚本・製作を手がけたのは、『GIRLS/ガールズ』のレナ・ダナム。荒っぽくてパワフル、ずけずけと大人を言いまかすバーディの濃いキャラクターは、ダナム節が炸裂!

過去の時代において、10代の女性たちがどんなふうに生きていたのか。青春時代を送り、思春期から成長していく過程で、何を考えていたのか? 現代の視点からそうした過去の物語を描くことには、さまざまな意味で気付かされることがあります。

今、私たちが享受している自由や権利が、どれほど多くの人々の闘いの上に成り立っているのか。女性として生きるというのは、どういうことなのか? 

近年は、過去の女性像を再解釈する動きが活発で、そうした作品も多く作られています。

名作の世界観をそのままに現代の視点から描いた新解釈版『アンという名の少女』(Netflix)、詩人エミリ・ディキンスンをモチーフにしたポップな作風の『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』(AppleTV+)、シャーロック・ホームズの妹エノーラが活躍する『エノーラ・ホームズの事件簿』(Netflix)なども、特に若い世代を中心に人気が高い作品群です。

いずれも現代に通じる進歩的で自分の主張をはっきりと持ち、フェミニズムを体現する少女たちの姿が、ただただまぶしく痛快で、晴れやかな気持ちになれる良作ぞろい。

バーディやこれらの作品で描かれる少女たちを観ていると、いつの時代にも女の子たちは前向きに夢を追って生きてきたのだと思えて、私たちを勇気づけてくれるものがあります。

時代劇を現代の視点から再解釈する楽しみを堪能したい。

原作との相違点、物語の帰着点には議論の余地あり。それも含めて既存の枠にとらわれず、時代劇を現代の視点から再解釈する楽しみを味わいたい!

『少女バーディ 〜大人への階段〜

Prime Videoで独占配信中

©️ Amazon Studios

監督:レナ・ダナム

出演:ベラ・ラムジー、ビリー・パイパー、アンドリュー・スコットほか

『少女バーディ 〜大人への階段〜』の視聴はこちら

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