書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、江國香織の『川のある街』と、大田ステファニー歓人の『みどりいせき』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「川のそばの風は、普通の道の風と全然違う」地縁、人生、時間
時間は不可逆的で、未来に向かってしか流れない。子ども時分には行き着く先の死の概念に、怖くなる。そんな世界の真理を改めてとらえるのが本作だ。
9歳の望子は留まることのない川の流れを不思議に感じつつ、親友の美津喜ちゃんと、後ろ向き歩きの遊びをする。認知症の芙美子は、砂のようにこぼれる記憶の不確かさの中で生きるが、今は亡き同性パートナーを懐かしむとき、世界がはっきりと色づくのを知覚する。
「夜は昼より記憶が甦りやすい」。流れるものと流れないもの。意識されるものとされないもの。自分と他人。複層的な世界を形づくるすべての要素を見つめる、江國香織のまなざしが温かい。
『川のある街』
江國香織著
朝日新聞出版 1870円
小学三年生の望子、出産を控える夏子、認知症を患う芙美子。それぞれ川のある街に住む、年代の異なる3人の女性の生活と意識の流れを、鮮やかに描く作品集。懐かしいのに新鮮な、読み味の広がりが味わえる。
これも気になる!
『みどりいせき』
大田ステファニー歓人著
集英社 1870円
「バッドなバイブス持って来んな」話題の新人作家のデビュー作
不登校ぎみの高校生がドラッグ売りになるさまを、社会の閉塞感とその反抗をテーマに描く青春小説。口語的語りとノリがくせになる。すばる文学賞受賞作。
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年5月号掲載