物語を生きるキャラクターの考え方や生き様から気づきを得たり、コマの中のちょっとした小ネタから雑学を学んだり。働く大人こそ、漫画を読むことで、まだまだ自分の世界は広げられるはず!
1.【働く私と漫画】宇垣美里さんの人生に学びをくれた漫画3選
宇垣美里さん
うがき みさと●1991年生まれ。兵庫県出身。 フリーアナウンサー、女優。週刊文春にて「宇垣総裁のマンガ 党宣言!」を連載。『今日もマンガを読んでいる』(文藝春秋) というタイトルで連載が書籍化されている。
「漫画で描かれている物語も価値観も雑学も すべて、私の人生を豊かにしてくれる」
漫画をはじめとする様々なエンタメから得た知識や価値観が自分自身を形成している、と語ってくれたのは、名作から連載中の新刊まで数多くの漫画を読んでいる、宇垣美里さん。
「私は子どもの頃に『美少女戦士セーラームーン』や『カードキャプターさくら』に夢中になった世代。当時アニメ化もしていましたが、特に漫画の耽美でうっとりする絵柄に惹かれていました。女の子が戦うこの2作品によって、“自分の住まう星や好きな人は自分の手で守る!”という価値観が生まれ、非常に自立心の強い性格に育ったように思います。また、この作品たちからは、様々な人間関係のかたちも学びました。男性が男性を好きになったり、身を引く形の愛の表現もあったり……。人と人との関係は多様で当たり前、という感覚が、これらの作品のおかげで知らずしらずのうちに身についていきました。小学校低学年でこの2作品に出合えたことは、私の人生でとても意味のあることだったと感じます。どちらも今読んでも色あせない、素晴らしい作品です」
また、宇垣さんは、漫画作品のスピード感も魅力のひとつだと語る。
「週刊や月刊という短いスパンで描かれているからこそ、まさにそのときの世の中の問題が描かれる作品も多いと感じます。私の大好きな『違国日記』という作品では、医学部入試で女子生徒が不正に点数を引かれていた問題についてすぐに触れ、怒りや悲しみを表明していました。このビビッドさが魅力的だから、私は新刊の漫画を月に何冊も買うんです」
漫画から得る“学び”については、一生使わないだろう、というような雑学が好きなのだそう。
「この漫画を読んでいなければ一生知らなかったかも、という知識を得られるのも漫画のいいところ。たとえば“粉塵爆発※”。日常ではほぼお目にかかれない現象なのに、漫画好きならなぜか知っている代表的なワードです。ピンときた読者の皆さんにも問いたい。あなたの粉塵爆発はどこから? 私は『黒執事』からです(笑)。そのほかにも『金田一少年の事件簿』では6体のミイラを7体にする方法を。『MASTER KEATON』では、砂漠を歩くにはスーツがいいこと、石畳の上に石けん水を流すと戦車を撃退できることを知りました。おそらく私の仕事や人生に、直接的には役に立たない雑学ですが、それって何か問題でしょうか? 漫画によっていつの間にか入ってきた知識こそ、自分の世界を思いもよらない方向へと広げてくれる気がする。漫画からは、そんな“人生を豊かにする、いい意味で無駄な教養”も学べると思っています」
※小麦粉、砂糖、金属粉などの可燃性の粉塵が空気中に浮遊している状態で着火し、爆発を起こす現象。漫画をはじめとする創作作品の中では、密室に追い詰められたときの反撃手段などに使われることがある
人生に学びをくれた漫画3選
『MASTER KEATON』
浦沢直樹著 (脚本/勝鹿北星・長崎尚志・浦沢直樹)
小学館 完全版全12巻 各1362円
学び続けたくなる
「まさに“学ぶことの大事さ”を教えてくれる作品です。主人公は保険の調査員でもあり、考古学の講師でもある人。“学び続けることが人間の使命だ”と言い切る姿に感銘を受けます」
『裸一貫! つづ井さん』
つづ井著
文藝春秋 全5巻 1045円〜
人生を楽しむ天才
「友達と相撲を取るとか、夜中に公園を大満喫するとか、人生ってこんなふうに幸せをDIYできるんだ!と驚きました。真似をして夜の公園でブランコをこいだら最高でした。息の抜き方を教えてくれる作品」
『恋愛的瞬間』
吉野朔実著
小学館 電子版全3巻 616円〜
人間関係について学べる
「タイトルは『恋愛』ですが、人間関係のすべてがこの漫画には詰まっている。“友情は相思相愛でありながら、抵抗によって達成できない疑似恋愛関係”“不幸は才能です”等、名ぜりふがたくさんですべて体に刻みたいくらい……!」
サーマルシャツ¥30800/ボウルズ(ハイク) ワンピース¥80300/ブランドニュース(シー ニューヨーク) イヤカフ¥6380/ロードス(MoMo)
2.【働く私と漫画】内田理央さんの人生に学びをくれた漫画3選
内田理央さん
うちだ りお●1991年生まれ。女優・モデル。東京都出身。趣味は漫画・アニメ・ゲーム。ドラマ「おっさんずラブ-リターンズ」(テレビ朝日系 金曜23時15分〜)出演中。
「現実で経験できることは限界があるけど漫画を通せば、なんでも追体験できる」
生粋の漫画オタクとして知られる内田理央さんは、王道な少年・少女漫画からマイナー作品まで読む、守備範囲がかなり広いタイプ。
「色々な種類の漫画を読むのが楽しいのは、“私という人間の人生では起こり得ないこと”をたくさん体験させてくれるから。漫画の世界に没入すれば、スポーツ選手、恋する女子高生、ヒーロー、殺し屋……何だって追体験できる。それがリアルな経験のように自分の血肉になって、心が動いたり、変化したりできるんです。働く私たちにとっては、漫画を通じて追体験することで、夢や勇気をもらって日々を頑張るエネルギーが出ることもあれば、逆に、今の状況から“逃げる”という選択肢を与えてもらえることもあると思います。つらい仕事や生活に苦しむキャラクターが“ときには逃げることも大事”と教えてくれる、『凪のお暇』や、ほかにもそういった実体験をもとにしたエッセイ漫画がたくさんあるから」
フィクションの漫画が、現実世界にある大きな疑問に対する理解の助けになることも多いと話す内田さん。
「漫画って、すべてを“上から見ているような視点”で俯瞰で読むこともできるじゃないですか。主人公やそのライバル、周りの人々の信念や気持ちを知ったうえで、ストーリーを咀嚼することができる。たとえば『進撃の巨人』では、ひとつの物語を様々な立場の視点から見られたことで“人によってそれぞれの正義がある”“繰り返すことの愚かさ”を、説得力をもって知ることができました。これを史実から学ぼうとすると、とてつもない時間がかかっていたはず。フィクションの世界だったからこそ、作品の中で物語に入り込み、学ぶことができたのかなと。自分の視点だけでは気づけなかったことに気づかせてくれる、漫画が教えてくれることはたくさんあります」
20代の頃と今とでは、漫画との向き合い方が変化している、とも。
「昔は、『キングダム』のような戦闘シーンのある作品を読んでは、“私はこの世界だとすぐ死んじゃうモブキャラだ!”“戦える強い人間になりたい!”と力をもらっていました。でも、年齢を重ねた今は考え方が変わって。モブキャラでも、そのキャラクターに焦点を当てた漫画を描けば、それぞれに深い物語があるはずだと思っています。だから今は、“主人公みたいに強くなりたい”ではなく、“どんな私でも、私の人生という漫画の主人公だ”と考えるようになりました。今は、面倒くさがりな30代女子が、頑張って今日も働く……という漫画の主人公(笑)。こんな私の漫画を自分の選択と努力で、面白くしてやる!という気概で生きています」
人生に学びをくれた漫画3選
『僕のヒーローアカデミア』
堀越耕平著
集英社 1〜39巻 484円〜
働く大人にも刺さる
「自分の個性を好きでい続ける方法を教えてくれた作品。みんなのためにヒーローを目指すのに、大衆からヘイトを受けることもあって、その中でもひたむきに努力しているキャラに感銘!」
『ひとりでしにたい』
カレー沢薫著 ドネリー美咲協力
講談社 1〜7巻 704円〜
今の私の不安に寄り添う
「30代の現実的な将来への不安を、ユーモアあふれる言葉で表してくれる。具体的な解決策や困ったときの相談機関を教えてくれるのも◎」
『ピンポン』
松本大洋著
小学館 文庫版全3巻 各734円
現実の残酷さに気づく
「スポーツ漫画なのに、努力は報われないし、どうしても勝てない戦いもある、という現実を教えてくれる。その残酷さにグッときます」
シャツ¥26400・ニット¥64900・デニム ¥50600/ラルフ ローレン(ポロ ラルフ ローレン) メガネ¥46200/フォレストパイン・デザインラボ(パイン) 靴下¥3630/真下商事(パンセレラ)
撮影/nae.(宇垣さん)、Sakai De Jun(内田さん) ヘア&メイク/山下智子(宇垣さん)、河嶋 希〈io〉(内田さん) スタイリスト/滝沢真奈(宇垣さん)、佐藤佳菜子(内田さん) 取材・原文/東 美希 ※BAILA2024年4月号掲載
3.漫画賢者が選んだ、学びがある漫画39選
夢中になって読んだ結果、知識や気づきまでついてくる
働く大人たちが今読んで、学びがある漫画とは? 漫画を仕事にする4名が、お金から人間関係まで8つのジャンル別に紹介。
ヒット作続出!の漫画編集者
林 士平さん
りん しへい●『少年ジャンプ+』にて現在は『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』など、人気作を多数担当している。
少女漫画研究者&ライター
トミヤマユキコさん
とみやま ゆきこ●東北芸術工科大学芸術学部准教授。著書は『労働系女子マンガ論!』『女子マンガに答えがある「らしさ」をはみ出すヒロインたち』など。
京都国際マンガミュージアム学芸員
倉持佳代子さん
くらもち かよこ●少女漫画及び少女漫画誌への関心が深く、研究に取り組んでいる。漫画に関連するワークショップや展覧会なども手掛けている。
芸人一、漫画に詳しい
吉川きっちょむさん
よしかわ きっちょむ●吉本興業所属のお笑い芸人。吉本一最新の漫画に詳しく、読書量は一日100作に及ぶ日も。よしもと漫画研究部の部長もつとめる。
【お金】
『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』
悪徳な手口と経済理論を爽快に学べる!(お笑い芸人 吉川きっちょむさん)
甲斐谷忍著 原案:夏原 武
集英社 1〜6巻 660円〜
「経済的弱者をカモにする非道な搾取が存在する現代社会で、いかにして人はカモられているのか。天才経済学者・加茂があえてカモられにいき、経済理論を駆使してカモり返し解決! 悪徳な手口と経済理論を爽快に学べます」。(吉川さん)
『望郷太郎』
山田芳裕著
講談社 1〜10巻 704円〜
「敏腕ビジネスマンの主人公は、文明崩壊後の世界で目を覚ます。故郷を目指す旅路で仲間と出会い、敵と対峙する中で自分の立場を守るべく“貨幣”を生む。お金への理解が深まっていく作品」。(漫画編集者 林 士平さん)
『ファッション!!』
ファッションにお金を使うことへの解像度が上がる(少女漫画研究者&ライター トミヤマユキコさん)
はるな檸檬著
文藝春秋 1〜5巻 990円〜
「将来有望な若手デザイナーに大人たちが協力するも、だんだんとその本性が……という話。ブランド運営のための資金繰りなど、ファッション業界の過酷なお金事情もわかります」。(トミヤマさん)
『定額制夫のこづかい万歳 〜月額2万千円の金欠ライフ〜』
吉本浩二著
講談社 1〜6巻 704円〜
「少額で日々を楽しむための秘訣を、著者の体験や同志たちへの取材を通し描く。毎話登場する節約術は悲しいほどせせこましいのに、やりくりを乗り越えたあとのご褒美が幸せそう!」(京都国際マンガミュージアム学芸員 倉持佳代子さん)
『FX戦士くるみちゃん』
FXで得られる高揚感と絶望感が秀逸!(吉川さん)
『FX戦士くるみちゃん』
原作:でむにゃん 作画:炭酸だいすき
KADOKAWA 1〜5巻 704円〜
「大学生のくるみちゃんには、母親がFXで2000万を溶かし自殺した過去が。その復讐心で2000万をとり返すべくFXに没頭! FXによる高揚感と絶望感を視覚的に味わえて勉強になる」。(吉川さん)
【歴史】
『大奥』
江戸幕府の男女逆転劇を深度と強度で描ききる!(トミヤマさん)
よしながふみ著
白泉社 全19巻 748円〜
「江戸時代を舞台に、女性が政治の実権を握っていたら……という男女逆転劇を描ききった傑作! 江戸幕府の歴史はもちろん、政治とジェンダーへ考えを持つキッカケにも」。(トミヤマさん)
『ベルサイユのばら』
池田理代子著
集英社 全14巻 484円〜
「歴史に興味を持つきっかけになる、王道にして究極の入門書。フランス革命を舞台に政治と愛の物語がつむがれていくダイナミズムがたまりません」。(トミヤマさん)
『だんドーン』
泰三子著
講談社 1〜2巻 759円〜
「幕末を舞台に“日本警察の父”と呼ばれる川路利良を描いた本格歴史コメディ。歴史上のスターたちが親しみやすく描かれているので、日本史が苦手でも楽しめる」。(吉川さん)
『神作家・紫式部のありえない日々』
『源氏物語』や平安時代の宮中に親しみがもてる(倉持さん)
D・キッサン著
一迅社 1〜3巻 700円〜
「紫式部が今でいう“オタク”で、『源氏物語』は彼女による“同人誌”だったりと、紫式部の日々を現代のオタク界隈になぞらえ展開させていく切り口が斬新!」(倉持さん)
『ペリリュー 楽園のゲルニカ』
終戦から78年、今もこれからも読んでほしい(林さん)
武田一義著 原案協力:平塚柾緒(太平洋戦争研究会)
白泉社 全11巻 660円〜
「戦争の本質が詰まっていると思う作品です。“戦争反対”という言葉が空虚にならないためにも、戦争で散っていった人々の物語は必ず知ってほしい」。(林さん)
【働き方】
『Real Clothes』
どんな時代にも刺さる働く女性への金言が!(倉持さん)
槇村さとる著
集英社 文庫版全6巻 869円〜
「本作が描かれた’00年代は“バリキャリの女性が恋に仕事に悩む話”が多く、本作はその代表例にして普遍的。働く女性を励ます金言が詰まっています」。(倉持さん)
『脱サラ41歳のマンガ家再挑戦 王様ランキングがバズるまで』
道が切り開かれていく様に勇気がもらえる!(林さん)
十日草輔著
イースト・プレス 全1巻 825円
「41歳から長年の夢だった漫画家への道に飛び込み、『王様ランキング』がヒットするまでを描いたルポ漫画。自分で人生を選択する勇気をもらえます」。(林さん)
『神田ごくら町職人ばなし』
坂上暁仁著
リイド社 1巻〜 1100円
「江戸に生きる様々な職人を描く。その描写がすさまじく、仕事=お金ではなく、ひたむきに向き合う姿勢に感銘を受ける。仕事への意地と心意気を感じてほしい」。(吉川さん)
『はいからさんが通る』
大和和紀著
講談社 新装版全8巻 605円〜
「本作のヒロイン・紅緒は、様々な仕事に挑戦しては失敗します。それでも働くことをあきらめない姿勢に“人生なんとかしてみせる”と勇気をもらえます」。(トミヤマさん)
『無能の鷹』
はんざき朝未著
講談社 1〜7巻 550円〜
「“デキる人風”な鷹野さんは実は何もデキない無能っぷり。けれど彼女のオーラに相手が困惑し仕事がうまくいく。自信は大事だし、ときにシナジーがある!」(吉川さん)
【チームワーク】
『アオアシ』
馴れ合いだけじゃないのがいいチーム(林さん)
小林有吾著 取材・原案協力:上野直彦
小学館 1〜34巻 715円〜
「サッカーのユースチームを舞台に、切磋琢磨していく競争の物語。サッカーへの深掘りも興味深いですが、馴れ合わずに高みを目指す姿勢に“いいチームとは”を学べます」。(林さん)
『重版出来!』
松田奈緒子著
小学館 全20巻 715円〜
「舞台は漫画雑誌の編集部。漫画家と編集者、営業や書店など“漫画に関わるすべての人”が登場。“漫画を売るっていいチームがあってこそ”と学びにもなります」。(トミヤマさん)
『かげきしょうじょ!!』
圧倒的天才の受け止め方にチームワークの学びがある(倉持さん)
斉木久美子著
白泉社 1〜14巻 660円〜
「“紅華歌劇団”の音楽学校が舞台。主人公は憑依型の天才ゆえに周りが見えなくなることも。そんな彼女をどう受け止めるか、チームの学びが詰まっています」。(倉持さん)
『ひねもすのたり日記』
ちばてつや著
小学館 1〜5巻 1222円〜
「『あしたのジョー』の著者・ちばてつや先生の貴重な日常を切り取った日記漫画。若かりし頃からの漫画家同士の関係は、人間関係の重ね方の学びに」。(林さん)
『【推しの子】』
赤坂アカ×横槍メンゴ
集英社 1〜13巻 693円〜
「アイドルの光と影を業界の裏側まで緻密に描いた復讐劇……ではあるが、表に出てくる成果物には多くの人が関わっていることを知れる話でもあります」。(吉川さん)
【夫婦関係】
『新婚のいろはさん』
背伸びせず、頑張りすぎない夫婦の生活(林さん)
OYSTER著
双葉社 1〜7巻 770円〜
「平和な新婚夫婦の小さな笑いと等身大の幸せを描いた4コマ漫画。“こういう日々を過ごせたら”と生活が愛おしく思える。目の前の出来事と人を大事にすることで得られる幸せを再確認」。(林さん)
『妻と僕の小規模な育児』
飾ることない子育ての日常がどこか羨ましい(林さん)
福満しげゆき著
講談社 1〜9巻 792円〜
「子育てによる夫婦の衝突や、徐々に定まる役割分担、けっして飾ることなく描かれた子育てエッセイ。リアルな悩み満載の子育ての日常に羨ましさも感じる」。(林さん)
『今夜すきやきだよ』
谷口菜津子著
新潮社 全1巻 704円
「恋愛から結婚への移行期は幸せなだけじゃなく考えないといけないこともたくさん。そこをリアルに描き、妥協ゼロで深掘りしているところが本当に誠実」。(トミヤマさん)
『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』
大白小蟹著
リイド社 全1巻 880円
「事故で透明人間になった夫との生活で“なぜこの人と一緒になったのか”を再認識していく話。顔が見えていたことへの気疲れも含め、根底にある愛に気づける」。(吉川さん)
『胚培養士 ミズイロ』
おかざき真里著
小学館 1〜4巻 770円〜
「人工授精に携わる胚培養士の水沢を主人公に、不妊治療の知識を得られる。そこに立ち向かう人々の姿から夫婦のあり方を考える機会も得られるはずです」。(倉持さん)
【アート・芸術】
『さよならソルシエ』
世界的画家・ゴッホとその弟の絆を描く(倉持さん)
穂積著
小学館 全2巻 472円〜
「画家・ゴッホと弟で画商・テオの兄弟の絆を史実とフィクションを織り交ぜ描く。19世紀末のパリでの美術界のことや、ゴッホ以外の当時の作品への興味にもつながります」。(倉持さん)
『いつか死ぬなら絵を売ってから』
ぱらり著
秋田書店 1〜2巻 748円〜
「ネカフェ暮らしの絵描きとお金持ちの青年が美術界をかけあがっていく。美術品が高額で取引される理由に着目し、美術とお金に切り込んだ意欲作」。(吉川さん)
『わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記』
大衆演劇は表舞台も舞台裏も職人芸だらけ!(倉持さん)
木丸みさき著
メディアファクトリー 全1巻 625円
「著者は、大衆演劇の裏方で棟梁。表舞台もすごいですが、裏でも職人芸が光っていることを本作で知りました。大衆演劇にまつわる基礎知識も豊富です」。(倉持さん)
『BLUE GIANT』
石塚真一著
小学館 全10巻 770円〜
「ジャズの世界に夢中になっていく主人公が本気で世界を切り開く様、“音楽”が言葉も国境も超える様にワクワクします。音楽という芸術の強さを実感!」(林さん)
『ブルーピリオド』
アートという世界に費やす美大生たち(トミヤマさん)
【異文化】
『未来のアラブ人――中東の子ども時代』
子どもの視点でみた独裁政権下での日常(倉持さん)
作:リアド・サトゥフ 訳:鵜野考紀
花伝社 1〜3巻 1980円〜
「シリア人の父とフランス人の母を持つ著者の自伝的作品。独裁政権下におけるリビア、シリアで過ごした幼少期は貧困や人種差別問題がすぐ隣に。シビアな問題が、子どもだった著者の視点で淡々と“生活”として描かれています」。(倉持さん)
『ベルリンうわの空』
異国暮らしの魅力を感じられる作品(林さん)
香山哲著
イースト・プレス 全3巻 1100円〜
「実際にドイツに在住している著者による生活や人、街並みなどのリアルな観察日記。異国で暮らすことの楽しさをゆるやかに気張らずに伝えてくれる作品です。読むとドイツに住みたくなる」。(林さん)
『サトコとナダ』
ユペチカ著 監修:西森マリー
星海社 全4巻 704円〜
「日本人とサウジアラビア人の女の子の異文化交流を通じて、イスラムの習慣や文化について多くの学びを得ました。“ナダの場合は”という表現になっているのも好感が持てます」。(トミヤマさん)
『ニューヨークで考え中』
近藤聡乃著
亜紀書房 1〜4巻 1100円〜
「ニューヨーク滞在中に“このまま住もう”と思いたった著者によるエッセイ。ニューヨークらしい生活の中のちょっとした出来事や細かな感情の機微、国際結婚や文化の違いの比較が楽しい」。(吉川さん)
『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』
カメルーン出身の母 エピソードが面白い!(倉持さん)
星野ルネ著
毎日新聞出版 全1巻 1100円
「アフリカ生まれ、兵庫育ちの著者の半生を描く。日本人が抱くステレオタイプのアフリカ人イメージがコミカルかつシニカルに描かれる。カメルーンでの食生活や価値観もみられて興味深い」。(倉持さん)
【生き方】
『東京ヒゴロ』
芯がしっかりした 人間とはこういうこと!(トミヤマさん)
松本大洋著
小学館 全3巻 1650円〜
「フリーになった漫画編集者が、売れ線ではないが大事な作家たちと丁寧に作品を作っていく。その場限りの消費ばかりやってちゃダメだと思わされます」。(トミヤマさん)
『レベルE』
冨樫義博著
集英社 全3巻 484円〜
「作中内の“王子”の自分主体で自由奔放な生き方は、つねに憧れであり“遊び心を忘れてはならない”と思い出させてくれる。予想外、無軌道な物語展開にも夢中に」。(林さん)
『マイホーム アフロ田中』
のりつけ雅春著
小学館 1〜3巻 715円〜
「大きな事件が起きるわけでもなく、子どもの成長、家を買うかどうか、といった多くの人が体験する出来事が面白く描かれています。読むと生きるのが楽しくなる」。(倉持さん)
『違国日記』
自分の言葉に責任を持つ 気高く美しい姿勢(吉川さん)
ヤマシタトモコ著
祥伝社 全11巻 748円〜
「両親を亡くした少女と人見知りだけど彼女を引き取った小説家の叔母の数年間の共同生活。姪にかける言葉に責任を持って発している叔母が気高く美しい」。(吉川さん)
4.週刊少年ジャンプ編集長に聞いた「漫画の現在地」
週刊少年ジャンプ編集長
中野博之さん
’00年に集英社に入社後、『週刊少年ジャンプ』に配属。『最強ジャンプ』の副編集長を経て、’17年6月より現在の役職に。
デジタル化加速で漫画を読むハードルが下がった
昨今、漫画は様々なタイトルが注目を集めており、雑誌やテレビなどでの特集も多く目にするように。その理由を『週刊少年ジャンプ』の編集長・中野さんはこう分析する。
「デジタル化の加速は大きいと思います。電子版は無料で読めるサービスもあるので、スマホで漫画を読むハードルは確実に低くなっているはず。『週刊少年ジャンプ』も紙と電子の両方を発行していますが、昨年末には売上比率がほぼ半々になっています。ただ、紙で読んで楽しんでほしい気持ちもやはり強くある。本誌の連載作家さんは“紙で読んでいちばん面白いように”描いている人がほとんど。だからこそ僕たち編集も“紙ならではの価値”を考えないといけない。付録やグッズプレゼントなど、どんな付加価値をつけるかも重要です」
一方で、電子ならではの戦略も考えていくこともやめない日々だ。
「先ほど、作家さんは“紙で読んでいちばん面白いように描いている”と言いましたが、それと同時に“スマホで読んだときにどうみえるか”を考えながら描いてる人も増えています。むしろ今後はその考えが加速していくでしょうし、漫画の表現方法も変化して、今まで読めなかった漫画が生まれる可能性を考えると電子文化が広がっていくのもまた楽しみです」
メディアミックスでコミックスに留まらずビジネスを拡大
作品の人気を広げる手段のひとつがメディアミックス。近年で印象強いのは『鬼滅の刃』の大ヒットだ。
「僕の編集者人生の中でも『鬼滅の刃』のヒットは経験したことがないものでした。何せコミックスの部数が追いつかないんですから。部数は発売日から約2カ月前の売行きをみて決めることがほとんど。『鬼滅の刃』のアニメ第1期が放送開始前は約50万部だったのが、アニメ後には100万、150万部となり、それも足りない……という状況。昔から“大ヒットは重たい鉄球”と言われたんです。なかなか転がらないけど、転がり始めると止められないという例えです。『鬼滅の刃』のヒットで、その意味を目の当たりにしましたね」
そして新たなメディアミックスの広がりをみせたのが、ジャンプの看板作品『ONE PIECE』だ。
「’22年に公開された劇場版『ONE PIECE FILMRED』のヒットは、さらに大きな山を登ったなという感覚がありました。そのヒットの理由のひとつに“音楽の力”が挙げられると思います。今の人たちはTikTokを筆頭に音楽と映像が一体化したものへの親和性が高い。Adoさんという素晴らしいアーティストがウタとしてたくさんの素晴らしい劇中歌を歌い、作品の満足度を上げてくれました」
ジャンプ作品の最新劇場版アニメとして大ヒット公開中なのが『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。
「『ハイキュー!!』は、’20年に漫画の最終回を迎えている作品ですが、今もたくさんの人に楽しんでもらえるのは本当にありがたいこと。それはアニメ製作チームが原作に寄り添いながら長い期間をかけてでも“いいものを作ってファンに届ける”という想いでやってくれているのも大きい。そんなアニメチームとだからこそ、連載終了後もイベントなど様々な企画を実施してファンの熱を冷まさずに来られたんだと思います」
漫画の魅力は作家一人の過剰な面白さが詰まっているから
中野さん自身も幼少期から漫画に触れ、集英社入社後も漫画と向き合ってきた。中野さんが思う“人が漫画にハマる理由”を聞いた。
「一人の作家さんの頭から作られた過剰な面白みにあると思います。原案と作画が別の作品も増えてはいますが、基本的には映画やドラマで言う企画・脚本・キャスティング・演技・撮影・編集を全部一人でやっているようなもの。作家さんの熱量や才能、趣味趣向が作品に強く現れるのが面白いですよね。それが時代性だったり、より多数の人の好みとピッタリ合ったときに大ヒット作が生まれるんじゃないでしょうか」
少年漫画は内容も読者ターゲットも垣根は設けていない
漫画界の課題は2つあると話す。
「1つはやはり“デジタル化”。今はSNSやいろんな場所で作品を発表できる。漫画家を目指す人にとって紙の雑誌だけが目指すべきところではなくなってきているのが現状。若き才能が雑誌掲載を魅力に感じてもらう努力もし続ける必要があります。もう1つは“世界進出”。昔は日本の人気作が海外でヒットするのにタイムラグが生まれていました。けれど集英社が手がける海外向け漫画誌アプリ『MANGA Plus by SHUEISHA』で最新話が日本と同時に配信されるなど、時差がどんどんなくなっている。今後は“世界で読まれる前提”を考える作家さんも出てくるかも。だからこそ、日本と海外の漫画市場が逆転したときにどう勝負するかを考えないといけない」
今、漫画は様々な壁をとっぱらいつつある。
「少年・少女向けとジャンルわけがされていますが、対象垣根はほぼなくなってきています。連載作のコンペを行う際にもそこは気にせず、大事なのは面白いかどうか。僕たち編集としては多くの読者に楽しんでもらえるものが載っていると自負しています。そして漫画には今、たくさんのジャンルがある。たとえば僕が最近ハマった漫画『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』は東東京を散歩するだけの作品だったり。狭いジャンルですが、自分に刺さる漫画を見つけたときの喜びは格別。BAILA読者の方も好きなジャンルを発掘するように漫画を楽しんでみてください」
“これからはより“デジタル化”“世界進出”を視野に入れて作品を広げていきたい”
漫画ビジネスを大きく広げたジャンプ作品
『鬼滅の刃』
吾峠呼世晴著 集英社 全23巻 460円〜
家族を鬼に殺された心優しい少年・竈門炭治郎が、鬼となった妹を人間に戻すべく奮闘するバトル漫画。’16〜’20年に連載され、’19年にTVアニメに。’21年公開の劇場版の興行収入は日本国内歴代1位を記録。
『ONE PIECE』
尾田栄一郎著 集英社 1〜108巻 484円〜
’97年より連載開始。コミックスの全世界累計発行部数は5億冊を突破している。TVアニメは’99年より放送。昨年は実写ドラマがNetflixにて全世界に配信されるなど、世界中にファンがいる。
『ハイキュー!!』
古舘春一著 集英社 全45巻 460円〜
’12〜’20年にかけて連載。バレーに全力をかける高校生たちの青春を描いた。’14年にはアニメ第1期が放送。物語の中でも人気の高い一戦を描いた『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が公開中。
撮影/さとうしんすけ 取材・原文/上村祐子 ※連載中の作品については2024年2月28日時点の巻数です ※BAILA2024年4月号掲載
5.『ハイキュー!!』は大人が学べる名言であふれている!
仕事や人生に置きかえても、アツい!!
少年ジャンプの名作バレー漫画『ハイキュー!!』は、バイラ世代の心をもつかみまくり! 働く毎日を鼓舞してくれる名セリフをプレイバック!
【今月の特別付録】『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念 『ハイキュー!!』COMIC CALENDAR
名言&名シーンがぎゅっと詰まったBAILAオリジナルの卓上カレンダー
映画で描かれる『ゴミ捨て場の決戦』をメインにキャラクターごとに名シーンをピックアップ。オフィスのデスクで使える卓上メッセージもぜひ活用して♪
働く大人に刺さるハイキュー!!名言集
19巻p.49
▶結果だけでなく内容も大切だと気づかされる
バレーボールの得点は、どんなプレーであっても1点。しかし、試合の流れを大きく変える「内容100点」の1点もある。目に見える結果としては“1点”のような小さなものしか積み上がらないときも、“100点の1点”を狙いたいと思えるひと言。
探せ 探せ 考えろ
いつもと同じ目線じゃ駄目だ
いつもと同じ考え方じゃ駄目だ 探せ
by 日向翔陽
24巻p.87
▶うまくいかないときこそ、思考を止めてはいけない……!
日向が県選抜の練習に無理やり参加しようとし、ボール拾いだけならやってもいい、と言われたときのセリフ。ボール拾いという立場でも吸収できることはないか、できることはないかと探す日向の思考と姿勢、見習いたい!
4巻p.69
▶同じ壁に何度も当たったとしても、いつかは“慣れ”で突破できるもの
烏野高校の素早すぎる速攻を受け、混乱する音駒高校。そんな中、音駒の“脳”であるセッター・孤爪研磨が放つ冷静なひと言。目の前の問題がどんなに大きく難しそうに見えても、繰り返せばいつかは「慣れる」。壁を越える力になる名言。
4巻p.55
▶「できない」ことや逆境をもポジティブに変換
烏野高校主将、澤村大地の名言。初の音駒高校との練習試合で、新入部員をレギュラーに加えた初の試合。どんな試合になるかわからないなかでチームメイトを鼓舞するために放った直球なこの言葉は、働くバイラ世代の支えにもなってくれそう。
26巻p.79
▶新しいことを始めるとき、背中を押してくれる
烏野高校2年、リベロの西谷。レシーブ能力の高い彼が、苦手なオーバーを練習している際、アンダーでいいんじゃないかと問われた際の返答。しなくても誰も責めない努力に対して「やんないなんてつまんねえよ」とは……アツすぎる!
31巻p.172
▶挑戦や勝負を前にしても、動じない理由がここに
「こわい」からと逃げてしまうことで、その対象のことが「わからず終い」になってしまうのはもったいない……という西谷祖父の教えの話。西谷が祖父に「それでもこわかったらどうするの?」と質問したときの答え「助けてもらう!!!」も、いい言葉!
8巻p.158
▶思うようにいかないときに思い出したい言葉
試合に出られたものの楽しめなかったというピンチサーバー・山口に師匠が教えた言葉。試合を楽しむにはサービスエースを決める“強さ”がいる。その“強さ”を手に入れるにはきつい練習を繰り返し、技術を磨く地道な努力が必要。仕事にも通じる名言。
35巻p.49
▶苦しくてやめたいことも、踏ん張れる
セッター以外の全員が自分にトスが来ると信じて全力でアタックモーションに入る“同時多発位置差攻撃”。ラリーが続く中、アタックを打つのはもちろん一人。何度も繰り返すことは、チーム全員とても疲れる戦法だが、1点を取るためには楽な方法とも言える。その様子を見守る監督のモノローグ。
チャンスは準備された心に降り立つ
by 田代秀水(烏野高校OB)
27巻p.187
▶あきらめたくなったとき、自分を奮い立たせてくれる
もとはフランスの学者・パスツールの言葉。「堕ちた強豪」と呼ばれていた烏野で、本気で全国を目指した3人が3年生になり、5年ぶりに全国大会に出場。その初戦で3年・セッター菅原がはじき出されたボールを確実に拾い、同じく3年の東峰が力強いスパイクを決め、初戦を制する。その様子を見た弱小時代のOBが放った名言。チャンスが欲しいなら、あきらめずに準備を。
22巻p25
▶まじめに頑張り続ける人の心の支えに
音駒高校リベロ・夜久は、スパイクのコースにうまく回り込み、当たり前のように球を拾う。派手で目立つ成果を出すことだけが「すげえ」ことではない。静かに地味にシビれさせることができるような「すげえ」人になる道もある、と励まされる!
14巻p.143
▶“ジャンプ”に限らず“良い助走”は必要なもの
焦ってうまくいかないときに、意識したいのがこの“良い助走”。大きく跳びたいならば、その前段階の助走をおろそかにしてはダメ。そのときの自分にとっての“助走”とは何かを考え、落ち着いて“良いものに”すれば、道は開けるはず。
練習して練習して練習して
積んで来たものは
想像以上にあっけなく終わる
それがどうした
by 清水潔子
26巻p.158~p.159
▶失敗を恐れそうになったとき、勇気をくれる
烏野高校マネージャーのモノローグ。どんなに努力しようと、終わるときは終わる。それを知っているからこそ、挑戦を躊躇してしまうことが大人にはあるはず。今までの積み重ねが無になる恐怖を、「それがどうした」で一蹴する力強さ、欲しすぎる。
30巻p.64~p.65
▶くよくよしている暇はない、と前を向くきっかけに
特別な体格や能力は持っていない烏野高校・田中は、普段は突き抜けたポジティブ人間。だが、半年に1回くらいメンタルがマイナス寄りになり、自分に特別な才能がないことに落ち込む。そんなときに田中が自分を奮い立たせる言葉は、自分を「天才だ」とは思えない、すべての人間に刺さる! 平凡だからこそ、前を向け!
じゃあ良かった方の半分を盛大に喜べ!!
反省も後悔も
放っといたってどうせする!
今は良い方の感覚をガッチリ摑んで
忘れねえようにすんだよ!!
by 田中龍之介
16巻p.81~p.82
▶失敗に落ち込む後輩や自分にかけたい言葉
ピンチサーバーの1年生・山口が「半分くらいしかいいの打てなかったし…」と反省しているところに、テンション高く励ます先輩・田中のセリフ。落ち込んだ後輩に叱るでもなく、責めるでもなく、自分語りをするでもなく、こんな言葉を言える先輩、最高!
取材・原文/東 美希 ※BAILA2024年4月号掲載
6.【『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』公開記念】人気声優 村瀬 歩×梶 裕貴インタビュー
現在、絶賛公開中の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。主演の日向翔陽役・村瀬歩さんと孤爪研磨役・梶裕貴さんが、作品から得た「学び」や「経験」とは?
声優
村瀬 歩
むらせ あゆむ●1988年12月14日生まれ。アメリカ出身。2011年デビュー。2014年、TVアニメ版『ハイキュー!!』シリーズにて初主演。2023年、アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』にて初のレギュラー男性プリキュアに抜擢されるなど、様々なアニメ、役柄で活躍中。
声優
梶 裕貴
かじ ゆうき●1985年9月3日生まれ。東京都出身。2004年デビュー。『進撃の巨人』シリーズエレン・イェーガー役など、数々の人気作に出演。実写ドラマへの出演や、自分の声を使った合成音声ソフトの開発プロジェクトをスタートさせるなど、活躍の幅を広げ続けている。
ライバル以上に惹かれあう日向翔陽×孤爪研磨 ―対照的な二人
お互いの演技に影響され、気持ちが乗っていく
『ゴミ捨て場の決戦』は、日向翔陽の通う仙台・烏野高校と、孤爪研磨の通う東京・音駒高校の因縁の試合。アツくて元気な日向と、クールで頭脳派な研磨は友達でありライバルという関係。互いへの想い、収録中の熱量は実にアツいものだった。
村瀬歩(以下村瀬) 劇場版になると聞いたときは、「ついにこの試合を演じられるんだ!」という嬉しさと、映画館というリッチな環境で臨場感が増すことでまさに「待望の一戦」になるだろうなと、気が引き締まる思いもありました。
梶裕貴(以下梶) 音駒高校の孤爪研磨を演じる僕としては、「この試合をやらずには終われない!」という気持ちがあったので、嬉しさはひとしおでした。物語の序盤から烏野高校と音駒高校の因縁は描かれていましたし、研磨自身にとっても、翔陽との出会いで生まれた大きな変化の集大成が、この試合だと思っていたので。
村瀬 アフレコ中の梶さん、すごかったです。そもそも台本が4冊もあったんですけれども(笑)、その中で研磨が試合中に徐々に温まっていく感じ、より思考が鋭くなっていく感じが、グラデーションで見えて。僕が演じる翔陽は、試合の最初からギアマックスでびょんびょん跳ねてたりするから、全然違う。
梶 いやいや(笑)。正直、僕も翔陽みたいに「シャァアア!」「オラァ!」とか言いたい衝動とずっと戦ってたよ(笑)。研磨はそんなキャラじゃないから、頑張って抑えてたけど。
村瀬 そうなんですか?(笑) 「やっぱ、梶さんすげえな! うまいな!」って視聴者のように見てしまいました。
梶 僕も、村瀬くんのお芝居があったからこそ、研磨の気持ちをつかめた部分があったように思います。翔陽のこのセリフ、この動き、このおたけびを聞いて、今まで持っていなかった「熱」「意地」「勝ちたい気持ち」が研磨に生まれていったんだろうな、と。
大人は「“もう一回”がない」の連続かもしれない
梶 僕は、感情を内に抑えて抑えて、いかに必要なところで研磨らしくはき出すか、ということをすごく考えていましたね。いつも元気で動きまくり、感情丸出しの翔陽と冷静に、ロジカルにプレーする研磨。そんな対照的な二人だからこそ、『ゴミ捨て場の決戦』はドラマになるし、キャラクター同士も、ライバルである以上に惹かれあう部分があるだろうなと感じています。
村瀬 そういえば、アフレコ自体も、なんだか試合みたいじゃなかったですか?
梶 丸一日がかりのアフレコの中で、どう集中力を切らさずにいるか、っていうのは、確かに試合に通じるところがあったかもね。
村瀬 もちろん最後まで全力を出すけど、僕らも人間だから疲れも出てくる。その中で、お互いの演技をつなげていくぞ! バテてる中でも集中力上げてやる!という気持ちは、まさに試合。
梶 ある種の合宿感もあった(笑)。
村瀬 最後は疲れてきて、試合中の日向みたいに「(どうしたら集中が途切れないか)考えろ、考えろ」と思考していました。そしたら「これだ!」とハッと気づいて……栄養ドリンクを買いに行ったんですよね(笑)。30本くらい。みんなの分。
梶 ドーピングで解決!(笑)
村瀬 いや、栄養ドリンクが結束を深めてくれたんですよ! 「飲みましょう!」って配ったら、みんなが飲んでくれて。田中龍之介役の林勇さんなんて「はい、飲みまーす!」ってガバガバ飲んでくれた(笑)。なんだか、試合のラスト感がありましたよ。
梶 最後の踏ん張りの、その向こう側。
村瀬 そう。そして録り切ったら、謎のエモさが生まれるという。
梶 まさにアフレコって、この映画のキーワードでもある「“もう一回”がない試合」かも。だからエモさも感じられたのかな?
村瀬 そうですね。最高のアニメ、最高のシーンを録るためには、まさにそのときに惜しみなく全力を出すしかないんです。そこまで積み上げてきたものと、その瞬間で生まれる集中力とがつくり出す雰囲気は、その「一回」しかなかったりする。この映画に限らず、いや、声優という仕事に限らず、誰にだってそういう瞬間ってきっとたくさんありますよね。僕ら大人も「“もう一回”がない」という状況って実は多いんじゃないかと思います。
梶 僕にとって『ゴミ捨て場の決戦』は、「“もう一回”がない」アフレコの最たるものだったのかもしれません。自分が『ハイキュー!!』という作品に深く関われるのは、きっとこの劇場版が最後。だからこそ、集大成のつもりでこの収録に挑みました。
村瀬 長時間に及んだアフレコの中、コンディションもくずれかけてきた最後の最後で、研磨と日向の心が大きく動いたことがわかる、名シーンを演じたんですけど、僕も全力で集中して臨みました。
梶 アフレコの話ばかりしてしまいましたが、物語自体の「“もう一回”がない」のリアルさも、もちろん素晴らしくて。『ハイキュー!!』は人間ドラマ。きれい事だけじゃないリアリティーを、エンタメとして見せてくれる作品だと感じています。彼らと近い年頃の子たちだけでなく、かつて学生時代を過ごした大人たちも、間違いなく共感し、楽しめる作品に仕上がっていると確信しています。
Q.『ハイキュー!!』を通じて学んだことは?
“日向翔陽役”が決まったとき、僕は日向と同じ新人で、さらに初めての主役。右も左もわからない中、背中を見せて指導してくれたのが澤村大地役の日野 聡さん。直接答えを教えるのではなく、僕自身が考えて答えを出せるように導いてくれて。そのおかげで成長できたし、後輩との接し方や声優としての在り方も学びました。(村瀬 歩)
黒シャツ¥39600/TEENY RANCH(BODYSONG) 柄シャツ¥31000/イロコイ(Iroquois) その他/スタイリスト私物
Q.孤爪研磨を演じて、学んだことは?
研磨はポテンシャルが高い人間だけど、苦手なことも多い。強みも弱みもわかってくれている仲間がいて、支えてもらえるからこそ、輝く選手です。もちろん、その逆もしかり。同じ方向を向いて戦えるチームの絆には、学ぶことが多いなと感じました。(梶 裕貴)
映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
出演/村瀬歩、梶裕貴、石川界人、中村悠一ほか
原作/『ハイキュー!!』古舘春一
原作でも大人気の春高バレー全国大会、烏野高校vs.音駒高校が劇場版で公開中! 攻撃型の烏野高校と守備型の音駒高校。主人公・日向翔陽と、ライバルであり友達の音駒高校・孤爪研磨の「もう一回がない試合」。その勝敗は……!?
©2024「ハイキュー!!」製作委員会 ©古舘春一/集英社
撮影/山根悠太朗〈TRON〉 ヘア&メイク/谷口あゆみ(村瀬さん)、中山芽美〈e-mu Inc.〉(梶さん) スタイリスト/ヨシダミホ(村瀬さん)、ホカリキュウ(梶さん) 取材・原文/東 美希 ※BAILA2024年4月号掲載