@BAILAの大人気オリジナル漫画連載『おいしい二拠点』。 フードライターの麻胡(まこ)と夫で編集者の扇(せん)が、コロナ禍を機に、東京と長野での二拠点生活を考え始めるストーリー。著者であるイシデ電先生に裏側を直撃!
麻胡の職業は共感できる部分の多さで決まりました
ー『おいしい二拠点』が生まれたキッカケを教えてください。
“二拠点生活”という部分は、BAILA編集部から提案されたものです。そこから主人公の職業や人となりをあれこれ考えていった結果、麻胡がフードライター、夫の扇が編集者といった大枠が決まりました。
ーフードライターと編集者以外の職業候補もあったのでしょうか?
そうですね。実際に二拠点生活をされている方や地方に移住しながら東京でお仕事をされている方に取材をさせていただいたんですが、いろんな職業の方がいらっしゃいました。
フォトグラファーさんやWebプロデューサーさん……と、その方々の職業を設定にいただいちゃおうかなとも思ったんです。でも、編集さんと二拠点生活ができそうな仕事をいろいろ考えていく中で、結果として1番しっくりきたのが“フードライター”でした。
取材した方の中にはいない職業ではあるんですが、私自身がこれまで食が題材の漫画や、食べ物のレポート漫画を描くことがあったりして、自分自身とも置き換えて考えやすかったというのが大きいです。同じ悩みがありそうだし、食べ物を描くのも好きだし、そもそも自分が食いしん坊ですし(笑)。
新型コロナウイルス流行後の時代は、いつか舞台にしたかった
ー麻胡の夫・扇を編集者にしたのはどうしてでしょうか?
麻胡と同時進行で考えてはいったのですが、麻胡よりも決まるまでに時間がかかった気がします。あまりにも大金持ちだと苦労がなさそうだし、収入が安定していないと漫画としてあまりにもリアリティがないというか…。そこが私の中でさじ加減が難しい部分でした。なので不躾ながら取材する方にはざっくりと収入状況も聞いたりもしつつ、編集者にたどりつきました。
ー『おいしい二拠点』は新型コロナウイルス流行後が舞台にもなっていますよね。
はい。現代の世界を舞台に漫画を描いていると、作中にマスクを取り入れるかどうかを悩むことはたびたびあって。私自身、コロナ禍という時代を生きている当事者だから、“描かないともったいないよな”っていう気持ちはずっとあったんです。
すごく大袈裟な言い方をすると、後の人にとって過去の資料にもなりうるじゃないですか。なので、どこかで描く機会はないかなと思っていたところに、この作品の企画をいただいてピッタリとハマりました。
企画の段階ではコロナ禍を舞台にすることは決まっていませんでしたが、コロナをキッカケとして移住や二拠点生活を考えた方も多いんじゃないかなと思うので。コロナ禍を舞台にしようとは思っていなかったけど、いろいろと考え進めていく中で自然とそうなった感じです。
ーコロナ禍を舞台にした漫画を描く上で、今までとは違ったことはありますか?
なるべくリアルな状況を描けのであれば、描いておきたいなという気持ちはありました。3話で麻胡と扇がお惣菜屋さんで買い物をするシーンがあって。最初の段階ではお惣菜をトングでとってパックに入れる…というように描いていたんです。
でも原稿の段階で“あ、これ違う!”ということに気づいて、すでにパッキングされた状態で売っている描写に変更するということがありました。お話に大きく影響する部分ではない細かい部分ですが、しっかりと現実の描写として盛り込めるところは盛り込みたいなと思いながら描いています。
麻胡のファッションには毎回苦戦しています(笑)
ー二拠点生活の舞台を長野にしたのはどうしてでしょうか?
取材をした際、長野を拠点にしていた方が多かったというのが一番の理由です。どんなおいしいものがあるのかだったり、どんな地域かも取材しやすい状況だったので、長野に決めました。
ー主人公の麻胡を描く上でのこだわりはありますか?
漫画の内容と直接関係ある部分ではないのですが、ファッションはかなり苦戦しています(笑)。麻胡のファッションは毎回、BAILA編集部の方にアドバイスをいただいているんですが、資料でいただく服の素材感だったりディティールだったりを絵で再現するのに苦労しています。
もともと”私の漫画にはBAILA要素はないんじゃ…大丈夫かな”と思っていたこともあって、最初は“私って本当にオシャレが分かんない人なんだな”って落ち込んだりもしました(笑)。
でも、回を重ねるごとに“BAILA編集部の方にファッションチェックしてもらえる機会なんてそうそうない!”と思えるようになって、開き直って描けるように。自分のダサさで遊ぼうと思って描いたのが、4話のラストです(笑)。このシーンを描いたとき、編集部の方からもノリのいいチェックが入ってきて嬉しかったです。
ー麻胡の名前の由来はありますか?
名前は胡麻(ごま)をひっくり返して“麻胡(まこ)”です。実は最初、ラーメン屋の娘という設定だったんです。それでご両親がお店にあった“胡麻油”をみてつけた名前…というつもりでした。
でも1話でラーメンの大量試食をするシーンを描いてしまったことで“ラーメンマンガみたいだな……?”と。それで定食屋の娘という設定に変えて“テーブルに置いてあった胡麻を見たお父さんが麻胡と名付けた”ということになりました(笑)。
ーキャラクターの名前をつけるときは、いつもバックボーンを細かく考えることが多いんですか?
そうですね。ものすごくしっかりと考えるわけではないですが、“どんな親御に育てられた”かは考えることが多いです。そのほうが自分の中で楽しいので(笑)。
扇はちょっと田舎の由緒正しいお家育ちをイメージしています。ひいおじいさんとか、代々お世話になってるお寺のお坊さんにつけてもらった、どこか古風で品がある名前にしたいなと思って考えていきました。
名前を考えていたときが、BAILA編集部からいろんなイケメン有名人のイメージを出してもらっていたときで。名前があがった1人が藤井風さんでした。そのとき自宅ではちょうど扇風機からの風がそよいでいまして……“扇”にたどりつきました(笑)。
ー先ほど“食べ物を描くのが好き”と言われていましたが、食を扱うことにはどんな思い入れがありますか?
私が本当にひたすら食いしん坊なんですよね(笑)。ただそれだけで、グルメでも料理上手でもなくて。でも、食べ物を題材にした漫画を描く中で“あれ、私の食べ物を描く執着ってすごいかも”と気づきました(笑)。
食べ物を描くときは、絶対に“おいしい”と思わせたいんですよね。その結果、もっと手を抜けばいいのに時間をかけてしまう……という。人の絵を描くよりも、食べ物のほうが時間をかけることも多いです(笑)。“もっと照りが!”とか細かいところにこだわってしまいがち。
そんな私の熱意があるからか、読者の方からもらう反響も食べ物にまつわるものが多め。“漫画を読んで、ナスを焼きました!”とか“蕎麦をすする音が好きです”と言ってもらえたときは“やった!”と嬉しくなりました。
ネガティブな感情をコントロールできる夫婦でいてほしい
ー3話で麻胡と扇が気まずい空気になった際に、扇が麻胡に言った「話し合うって言いたいことを言ってさっぱりするためのものじゃない。わかり合うための努力なんだ」というセリフには考えさせられるものがありました。この言葉は、先生ご自身の実体験からによるものでしょうか?
私自身は“人が人を理解できるのは幻想”だと思っていたりします。でも、だからと言って“理解することをやめます”でいいのかな、と。相手を理解することに限らず、できないけどやり続けなきゃいけないことってあるじゃないですか。そういう部分から生まれたセリフなのかなとは思います。
ネットをみていると、誰かをあざ蹴ったり罵るための新しい言葉がどんどん生まれていて、それが的を射ていたりすると妙にスカッとしちゃうことって、きっと誰にでもあることだとは思うんです。
でも、麻胡と扇にはその気持ちに抗える夫婦でいてほしい。憎しみに支配されず、ネガティブな感情をちゃんとコントロールしようと足掻く人たちを、自分の漫画にはたまに出したくなるんです。特に、扇にはその気持ちがあるからこそ、あのセリフは生まれたんだと思います。
ー漫画を描く上で大事にしていることを教えてください。
ひとつは登場人物らしさや生き方を、ストーリー展開のために歪めないということ。架空のキャラではありますが、生まれたからにはその人らしく生きてほしい。考えていたストーリーで描き進めていても、キャラクターの性格とセリフが合わないときは、ストーリーを変えることもあります。
もうひとつは人を裁かないということ。私の漫画には不完全な人や、誰かをちょっと傷付ける人も出てはくるし、その人がしっぺ返しをくらうことは結構あります。でも断罪はしない。
悪が成敗されるのは物語を読む中での王道の爽快感なので、その展開を入れずに物語を考えるのは大変だったりもします。でも、現実世界でも裁判官になるのはすごく難しいじゃないですか。それと同じで、漫画の中で断罪する流れを描くのも簡単にやっていいことではないと思うので、私の漫画にはいれないようにしています。
ー先生にとっての思い入れの強い漫画作品は何ですか?
ひうらさとる先生の『レピッシュ!』です。すごくお金持ちの4人の小学生がテレビジャックしたり、東京タワーに住もうとしたりする豪快なお話がすごく楽しくて。子供たちに翻弄される感じがすごく好きでした。
ー先生の原稿中の息抜きはなんですか?
ネコ! 今2匹と一緒に暮らしています。ネコを見て、“今日も生きているな”と思いながら撫でる時間が一番リラックスします(笑)。
ー『おいしい二拠点』の今後の展開はどこまで考えているのでしょうか?
1話ごとに考えていってる感じではあるのですが、今後描けるといいなと思っているのは、扇の田舎暮らしにおける心の内は描いておきたいなとは思っています。
イシデ電先生から直筆メッセージ!
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/上村祐子
2022年秋、BAILAオリジナル漫画がスタート!
2022年秋、BAILAで初めて漫画カテゴリがオープン! 働く大人の女性を主人公にしたBAILA初のオリジナル漫画2作品の配信が開始されました。
『ランジェリーの女神さま』は体型や下着の悩みの解決をモチーフにしながら、働く女性の自己肯定を応援する物語。
『おいしい二拠点』はコロナ禍でリモートワークが定着し、東京と長野の二拠点生活をはじめる夫婦が主人公。この3年で変化した読者のライフスタイルを映し出します。
どちらも、『BAILA』が30代~40代女性のファッション・美容・ライフスタイルを常にキャッチアップし、発信しているメディアであるからこその「働く女性」の描写・ストーリー展開が魅力。“大人の女性がリアルに共感できる漫画が読みたい“という声に応えます! 現在、『ランジェリーの女神さま』著者のユニ先生のインタビューも掲載中!
また、同カテゴリでは集英社の少女・女性向け漫画タイトルが集結した漫画アプリ「マンガMee」の人気作品も配信。毎週更新で、2作品・1〜5話分を期間限定で無料で読めます。
また、「マンガMee」の人気作家のインタビューも配信! 今すぐ読める第1回は『青春シンデレラ』著者の夕のぞむさんのインタビュー。第2回は『サレタガワのブルー』のセモトちかさんです!
カリスマフィッターが心と体のお悩みを解決! 『ランジェリーの女神さま』
帝王百貨店に勤務するカリスマ店員、ランジェリーフィッターの恵比寿天音。天音のもとには、下着選びや体型の悩みを抱えたお客様が毎日来店!
東京⇔長野の二拠点生活を決めた30代夫婦の物語『おいしい二拠点』
グルメライターとして都心で働く麻胡(32)は、同い年の夫・扇とふたり暮らし。
自然豊かな長野の町に魅せられた麻胡と扇は、ついに二拠点生活を決意する。まずは家探しから始めたが……。