20代のうちに経験を重ねて力をつけたその先に、責任を持って自由を選択できる今が待っていた。有村架純さんが30歳を迎えて感じる“自信”と“自由”とは? 主演映画『ちひろさん』で至った新境地について聞いた。
まるでアロマセラピーを受けている感覚になった役
はっと驚くような見た目の変化があるわけではない。いつだって“有村架純”だとわかる、無理のない等身大の姿で画面の中に立っている。けれど、田舎から出てきた不器用な女の子や、他人のために全力で奮闘するキャリアウーマン、運命の恋に翻弄される大人の女など、作品によって別の人生を生きてきた女性にちゃんと見えるからすごい。そんな彼女が「エクステもウィッグもつけず、このままのビジュアルで彼女を演じることが決まったときは、ブルブル震えました」とまで語るのが、主人公を演じた映画『ちひろさん』だ。
「いろんな人生経験をして、風俗嬢という職業に至ったちひろさんは、人生を一回終えたような達観したたたずまいがある人。原作を読んだときに私が想像したのは、壇蜜さんのような方でした。ちひろさんの空気感やツヤ、貫禄を出そうと思っても、自にとても追いつけないだろうと感じました」
小さなお弁当屋さんで働く元・風俗嬢のちひろさんは、ちょっと口が悪くてマイペースな自由人。「みんなで食べるごはんも美味しいけど、一人で食べても美味しいものは美味しい」と語るなど、堂々と、思いのままに、一人でいることを愛している。
「人はどこかで共感を求めてしまいがちだし、自分が周りに共感できないと疎外感を感じてしまうこともあります。人間関係の駆け引きみたいなことが常日頃から行われているけれど、ちひろさんは、そういうことを全部肯定して受け止めてくれるんです。私の中にもあるわだかまりをふっと払ってくれるような魅力がある。演じていてアロマセラピーを受けているような感覚になったくらい。ちひろさんに、私自身も心を持っていかれました」
それほど強烈な魅力を放つキャラクターを、外見的なよろいを身につけず、ノーガードで演じられたのは……?
「自分の年齢が突破口になったと思います。これでも30年生きてきましたし、お芝居で役の人生を生きることで、その経験が自分の人生の一部にもなってきました。数字が自信になることもあるんだなと、最近すごく感じます。それはメイクやファッションにも言えること。ちょっと前だったら、肌を見せる衣装を着るときに背伸びをしている感覚があったんです。でもふと、今の年齢や体型、表情にフィットしていると気づくことが増えた気がします」
経験を積み重ねて手にしたのは、“自信”のほかに“自由”もある。
「今何を思っていてどうしたいのか、ちゃんと自分の言葉で周りの人たちを説得できるようになったのは、すごく大きな変化です。力がついたその先に、責任を持って自由に選択できる今が待っていたような気がします。きれいごとに聞こえるもしれませが、私は一人でもいいから誰かの心に残る作品を届けていきたいと思うんです。これから先、出会う作品や演じる役柄が変わっていっても、その思いは変わらずに持ち続けていきたいです」
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©安田弘之(秋田書店)2014
映画『ちひろさん』
出演/有村架純、豊嶋花 ほか
監督/今泉力哉
NETFLIXにて配信&全国劇場公開中
小さな街にあるお弁当屋さんで働くちひろさん(有村)は、風俗嬢だった過去を隠すこともなく、軽やかに生きている。彼女の言葉や行動が、次第に孤独を抱える街の人たちを変えていくことに。安田弘之の同名漫画を今泉力哉監督が映画化。
シャツ¥55000・ワンピース¥44000/テーロプランカスタマーサポート(テーロプラン)
有村架純
ありむら かすみ●1993年2月13日生まれ、兵庫県出身。近年の主な出演作はドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」、映画『花束みたいな恋をした』『前科者』『月の満ち欠け』など。大河ドラマ「どうする家康」に家康の正室・瀬名役で出演中。
撮影/中田陽子〈Maettico〉 ヘア&メイク/尾曲いずみ スタイリスト/瀬川結美子 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2023年4月号掲載