現代短歌に癒されているバイラ世代が昨今増えているらしい! バイラ読者と同世代の歌人 上坂あゆ美さんにインタビュー。短歌をつくる上で意識していることなどを深掘り&代表作品も紹介!
短歌を通じて、世の中の固定観念を塗りかえたい
短歌はコスパがよく、しかも自分にぴったりの表現だった
家族や地元に対する複雑な思い、10代だった頃の自分の心境などを短歌にしている上坂さん。歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』は、タイトルからして破壊力抜群の一冊。
「私、俳優の故・樹木希林さんが大好きで、彼女みたいなカッコいい大人になるまで生き抜くぞ!と思っているんです。その気持ちを言葉にしたのが、このタイトル。もちろんメディアを通じて知る限りですが、希林さんって、既存のルールや世の中の空気を軽やかに覆し、生を全うされた印象があるんですよね。私も、誰かが決めた理想や常識が嫌いで。たとえば“家族は全員が仲よしで温かいもの”“女性は恋愛に重きを置いている”とか。みんながとらわれている理想になれなくてもいいと発信したいと思ったし、そのアウトプットのひとつとして、短歌はぴったりだったんです」
学生時代は美大で学び、演劇やダンスなども経験したものの、「どの表現方法もしっくりこなかった」そう。
「創作意欲はあったものの、私は表現者には向いていないのかなと絶望しながら社会人に。美術とは関係ない業種を選んで就職しました。1社目は超体育会系のPR会社で営業職を経験。そこから転職して、2社目のマーケティング会社が驚くほどホワイトな企業で、自由な時間が増えたんです。そこで、働きながらできるコスパのいい創作活動を考えたら、短歌に行き着きました。新聞に投稿欄があるのは何となく知っていて、独学でつくって応募したら、すぐに掲載されて……。驚きつつも、早い段階で褒められたことでモチベーションが上がりました。短歌界には、駆け出しの人も温かく受け入れる土壌があると思いますね。初歌集『老人ホーム~』の出版が決まってからは、歌がなかなかつくれず、ストレスで体重が減った時期も。ただ、そこまで身を削るような思いで創作に打ち込めたのも、初めての体験でした」
しんどかった記憶を短歌という形でお焚き上げしている感覚
短歌と向き合っていく中で、上坂さんも色々な気づきを得たとか。
「私の場合、10代で両親の離婚を経験したりと、家族について考える時間が長かったんです。短歌を詠む上でもそれがテーマになることが多く、自分という人間をつくる上で核になっている体験なのだなと改めて再確認しました。そんな私の作品を読んだ方から『自分自身を見つめるきっかけになった』と言われると、嬉しいですね。三十一音の文字量は長すぎず、短すぎずで、つくり手と読み手との間に共感を引き起こす装置としてもちょうどいいのかもしれません」
現在は会社を退職し、フリーに。
「収入は会社員時代に比べたら激減しました。でも、自分で選んだ人生なので納得しているし、本当に困ったら再就職します(笑)。歌をつくるときにいつも意識しているのは、“心のパンツを脱ぐ”こと。風景や場所はフィクションを用いることもありますが、感情だけはとりつくろわず、リアルなものを吐き出すようにしています。私の作風上、ヘビーな記憶も棚卸しするのでしんどいときもありますが、短歌として出し切ると、デトックス感があります。お焚き上げみたいなものなのかなと思っていますね。BAILA読者の方も、愚痴りたいことが出てきたら、一首つくってみるとよいかもしれません。人に話したり、SNSに書き込むのもちょっと……みたいな感情ってあるじゃないですか。そんな心のわだかまりを、短歌という詩が受け止めてくれると思います」
怒っても
変わることない
世の中で
血のように赤い
リップが売れる
『老人ホームで死ぬほどモテたい』所収
母は鳥
姉には獅子と
羽があり
わたしは刺青が
ないという刺青
『老人ホームで死ぬほどモテたい』所収
パンチの効いた作風が大人気!
上坂あゆ美さん
1991年、静岡県生まれ。’17年から短歌をつくり始める。’22年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を発売。岡本真帆さんとの共著『歌集副読本「老人ホームで死ぬほどモテたい」と「水上バス浅草行き」を読む』も好評。エッセイなどの執筆も行っている。
『老人ホームで 死ぬほどモテたい』
上坂あゆ美著 書肆侃侃房 1870円
撮影/森川英里 イラスト/髙橋あゆみ 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2024年7月号掲載