現代短歌に癒されているバイラ世代が昨今増えているらしい! バイラ読者と同世代の歌人の代表格 木下龍也さんに、歌人になったきっかけ、短歌をつくる上で意識していることなどをインタビュー。代表作品も紹介!
心の中にある思いと言葉。その差を埋めれば歌になる
僕とは違う風景を持つ人と心のレンズを重ねたかった
依頼者の希望に合った形で創作をする、「あなたのための短歌1首」プロジェクトと、その作品をまとめた歌集『あなたのための短歌集』で、一躍、世に知られる歌人となった木下さん。もとはコピーライター志望で養成所に通うも、先生から「詩のほうが向いている」と言われたのが転機に。その後、書店で短歌の本に出合い、創作を始めたのだとか。
「先生からのアドバイスはショックでした(笑)。でも今は本当にいい道しるべをいただいたと思っています。書籍から短歌を学び、投稿する日々が続いたのですが、短歌の投稿欄って与えられたテーマに沿った歌を募集することが多いんです。僕は与えられたテーマで短歌をつくるのが好きだったんですよね。そのテーマを“誰かの人生”に置き換えたら新しい風景に出合えるかもしれない。そんなアイディアから、自分の体験や思いだけで歌を詠むのではなく、依頼をくださる方のリクエストにこたえて短歌をつくり、便せんに書いて封書で送る……というスタイルが生まれました」
募集は一時停止中だが、この創作体験から「歌を求めてくれる人には共通点がある」と感じたそう。
「何らかの岐路に立っていて、現状を客観視したい方が多かった気がします。わかりやすい例だと、転職や進学、恋愛など。自分の誕生日の記念にしたい、とおっしゃる方も多かったです。家族関係や生きることに疑問を抱えているなど、人生の深い悩みを打ち明けてくださる方もいました。メールを読んで僕が感じたことや、当事者だったらどういう言葉が欲しいかなど、お互いの心のレンズが重なる部分を探しながら短歌を詠んでいました。歌をお送りしたあと、感想を伝えてくれたり、新しい歌を頼んでくださる方もいて。『どうやら前の葛藤は乗り越えられたみたいだな』と、依頼者のその後を知れたときは、嬉しかったですね」
短歌をつくり続けるのは、恋愛とちょっと似ている
会社員を経て、今は専業の歌人に。企業とのコラボレーション、トークイベント、若い世代に向けて短歌の魅力を伝える活動など、精力的な日々を過ごす。歌は、どのようなペースでつくっているのだろうか。
「一首を推敲するのに半日かかるときもありますし、一日粘っても完成しないことも。十数年も続けていると自分の中でもハードルが上がっていくので、初期衝動で一日何首もつくっていた頃を懐かしく思うことも。短歌は恋愛に似ているかもしれないですね。つきあいが長くなると、それだけ新鮮さを保つ努力も必要になる。これまでと同じではなく、新しいアイディアや視点を見つけながら自分を飽きさせない工夫をする。そんなところも、少し恋愛っぽいのかもしれません」
もっと現代短歌に親しみ、“趣味”にするにはどうすればいい?
「これから短歌を始める方によく伝えるのが、まず学校の教科書的なイメージから離れること。~たり、~けりなどの古典文法、近代歌人たちの激動の人生もいったん忘れていい。短歌っぽい言葉を使うのではなく、普段の言葉でつくってみてください。皆さんが日々生活している中で生まれた感情や、切り取りたいなと思う瞬間が歌の題材になります。それを言葉で完璧に言い換えるのは難しいですし、五七五七七の形にするとさらにずれていってしまう。それでも、いったん言語化したものを自分の中にある実感と照らし合わせ、できる限りずれを減らすと、その人らしい歌が生まれると思います」
立てるかい
君が背負って
いるものを
君ごと背負う
こともできるよ
第二歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』所収
ふりむけば
君しかいない
夜のバス
だから私は
ここで降りるね
『あなたのための短歌集』所収
同世代歌人の代表格!
木下龍也さん
1988年、山口県生まれ。’13年に第一歌集『つむじ風、ここにあります』を出版。3つの歌集と、歌人の岡野大嗣さん、詩人の谷川俊太郎さんとの共著もある。’21年に発表した『あなたのための短歌集』は大きな話題に! 作歌の息抜きはボクシング。プロの資格も保有。
『あなたのための短歌集』
木下龍也著 ナナロク社 1870円
撮影/川原崎宣喜 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2024年7月号掲載