Amazonオーディブル(Audible)で配信される湊かなえさんの長編ミステリー小説『落日』で朗読に初挑戦した北川景子さん。俳優として20年以上のキャリアを誇り、確かな表現力を武器にする彼女が直面した「初めての仕事」への不安や恐怖心に迫りました。
北川景子さんインタビュー
ドラマで主演した作品『落日』で、朗読に初挑戦
──2023年に放送された「連続ドラマW 湊かなえ『落日』」(WOWOW)で主人公の長谷部香役を演じられましたが、今度は朗読に初挑戦。オファーを受けたときはどんなお気持ちでしたか?
朗読というお仕事にはすごく興味があったし、やってみたいと思っていました。ただ、お話をもらった最初は、『落日』という出演した作品で私がやらせていただくのはあまりよくないのではないかと思ったんです。というのも作品を知りすぎているというか。朗読しているうちにどんどん感情が乗ってしまうのではないかという心配があったんです。
Audibleで聴く方の多くは作品に初めて触れるわけですし、音で作品を理解しなくちゃいけない。そのために朗読はある意味フラットに、ニュートラルに伝えなければいけないはずで。朗読の技術もない私が、冷静な状態で朗読できるのか不安でした。
でもやっぱり『落日』は縁が深い作品ですし、出版されてすぐハードカバーで読んでいたくらい、湊先生の作品が大好きで。先生が許可してくださっているならやってみようと決意しました。
──事前にどんな準備をされましたか?
まずは他の方が読まれている作品に触れてみました。永作博美さんが朗読された湊先生の『サファイア』だったり、男性の方の朗読を聴いてみたりも。でもやっぱり俳優さんによってアプローチも読み方も全然違うし、正解はないのかなと思ったり。まずは朗読は何かというところを知ることから始めました。
──朗読はどんなものなのか、収録をしていく過程で見えてきたことはあるのでしょうか?
結局はわからないまま終わってしまったような気もします。お芝居で役を演じるときはいつも身体を動かしているし、表情やメイク、衣装の力を借りることも多いので、自分一人ではなくスタッフさんと一緒に作っていくお仕事だと思っています。観ている方にとっても、身なりや持ち物だけでなんとなく「おとなしい人なのかな」、「明るい人なのかな」、「仕事をしている人なのかな」といったヒントを得ることができると思うんです。
でも朗読ではキャラクターの特徴やストーリーを自分の声ひとつでわかっていただかなければいけない難しさを感じましたし、声のプロがやられたほうが伝わるんじゃないかという悩みを持ちながら終わってしまった気がします。
──かなり葛藤されていたんですね。北川さんの声なのか疑ってしまうほど、低く落ち着いたトーンの語りは作品の雰囲気にとてもマッチしていると思いました。
作品のトーンも全体を通して割と静かに進んでいくような印象もあったので、世界観や温度感を声で表現するなら、ああいう感じかなと思ったんです。とはいえ地の文の中に状況を説明している箇所もあれば、登場人物の心の中を説明している文章もあって。バランスを取るのがすごく難しかったです。
──感情を込めた登場人物のセリフの部分と、冷静な地の文のコントラストが見事でした。別々に収録したのでしょうか?
地の文もセリフも区切らずに、2〜3ページごとに収録しました。もちろんドラマとは違う表現をしなければいけないけれど、やっぱりセリフや会話劇の部分は表現しやすかったですし、地の文とスイッチを切り替えながら進めました。
キャリアを重ねた今も「挑戦することをやめない」
──俳優としてのキャリアは21年。経験を重ねると挑戦したことのないことが少なくなっていきます。朗読に初挑戦したことで得た学びは?
今回はオファーを受けると決めるまでも怖かったですし、初めて現場に行く前日もすごく緊張しました。まずマイクとどのぐらい離れた距離で座ったらいいのかすらわからなくて。録音ブースの中では本当に一人ぼっちなんです。ガラス越しに監督やスタッフさんがいますが、「OK」か「リテイク」か判断いただくまで待っている時間も一人。いかに普段たくさんの人たちに囲まれてお仕事をさせてもらっているか実感しました。
年齢や経験を重ねると、新しいことがどんどん怖くなっていくんですよね。「初日からそれなりのクオリティを出さなきゃいけない」と自分でハードルを上げて怖がってしまった部分もある気がします。尻込みしたり、石橋を叩いて叩いて渡らない選択をしたくなる性格の自分だからこそ、挑戦することをやめないことはデビューしてからずっとこだわっていること。「一度でも経験すれば、次からは初めてじゃない」と言い聞かせるようにしています。
子育てしながらの“読書”には「Audibleって一番いい」
──Audibleを聴いたことがなかったそうですが、今回挑戦したことで感じた魅力は?
今はデジタルで本を読むことが普通になりましたが、電子書籍が流行り出した頃に邪道だと思っていたタイプなんです(笑)。「表紙の雰囲気や絵が好きだから買ってみよう」とか、「初めての作家さんの作品だけど、積まれている感じが好きだから手に取ってみよう」という本屋での出会いがあるからこそ、読書は紙で楽しむものだという固定観念を持っていました。
だからAudibleも少し抵抗があって、自分の生活に取り入れることができなかったんです。でも今回初めて触れてみて、「一番いいじゃん!」くらいの感じに(笑)。今年二人目の子供が生まれましたが、多分、余裕がなかったんでしょうね。一人目ができてから今までの4年間は全然読書ができていなくて、インプットできない焦りを感じていました。
文字を目で追う読書の場合、集中していないと物語に入り込めないこともあるけど、Audibleなら世界観が作られているから没入しやすいし、食器を洗いながらでも、子供の離乳食を作りながらでも、寝付けないときにベッドの中で目をつぶりながらでも小説に触れることができる。多忙な毎日の中で取り残されているような気持ちになっている、私のような子育て中の人にも、寄り添ってくれるツールだと思いました。
──お子さんとの多忙な毎日が、仕事にフィードバックできることもあるのでは?
そうですね。子供を育てていると自分の思い通りにならないことばかり起こるんです。娘のときにうまくいっていたことも、息子には通用しなかったり。息子はまだ8ヶ月ですけど、娘とは性格も違いそうだなって思うこともあります。そうすると、子供によって臨機応変に向き合い方を変えなければいけなくなるんです。それでも「別にいいじゃん」って思えるようになったことはすごく大きくて。
若い頃は言っていることやキャラが一貫していないと駄目なんじゃないかって思っていました。でもいろんな人がいるんだから、対応の仕方や接し方が変わるのは当たり前。別に嘘をついているわけじゃないし、全部私なんだと思えるようになりました。子育てのおかげで、お仕事の現場でも肩の力を抜いてスタッフの方と向き合えるようになった気がします。
トライアンドエラーを繰り返す毎日ですが、子供を育てること自体が本当に大変な仕事。毎日が現場だと思っているんです。プライベートで自分が成長することで、さらに自信を持って仕事の現場に向かえる今の環境は、とても恵まれていると感じる日々です。
Amazonオーディブル『落日』配信情報
わたしがまだ時折、自殺願望に取り付かれていた頃、サラちゃんは殺された──新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。十五年前、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた『笹塚町一家殺害事件』。笹塚町は千尋の生まれ故郷でもあった。香はこの事件を何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。そこには隠された驚愕の「真実」があった……令和最高の衝撃&感動の長篇ミステリー。
著者:湊かなえ
ナレーター:北川景子
配信日:Audible にて2024年11月13日より配信
撮影/高野友也 ヘア&メイク/山口久勝 スタイリスト/細見佳代(ZEN CREATIVE) 取材・文/松山梢
シャツ¥41800・オールインワン¥143000/AKIKO OGAWA(アキコ オガワ)03-6450-5417
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