誰にでも同じようにある“一日”を切り取る日記は書くことにも、読むことにも、それによって誰かとつながることにも、面白みや魅力があるらしい。“自分のため”だけでなく、“読み手がいる”日記を書く人が増えている今、あらためてその本質に迫ります!
SNSの代わりに日記で自己表現する人が増加中!

蟹ブックス
花田菜々子さん
はなだ ななこ●2022年9月、東京・高円寺に「蟹ブックス」をオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)などがある。
日記を自分のために書く人、日記を公開する人のどちらも増えている実感があり、私の周りの日記コミュニティも最近ますます盛り上がっています。インターネットやSNSが発達するより前の時代は、日記を発表するのは主に作家やエッセイストがほとんど。すべての人が自由に発信できるようになった現代に、日記を書く人が増えているのは、より豊かな自己表現ができる方法として注目されていることの表れなのかな、と。
背景には、SNSを安心して使えなくなったことがあると思います。本来は日常を記録するために使えていたものが、“いいね”の数が気になったり、不本意にバズって炎上してしまったりして、気軽に投稿できなくなった。SNSで“本当の顔”を見せる人が減り、それに物足りなさを感じる人が増えたことが、日記を愛読する人の増加にもつながっているのでしょう。
日記の魅力をひと言で表すならば、懐が広い。まず、書くハードルがとても低い。一日の出来事や思ったことを綴るだけで勝手に構成されます。華やかな写真もテーマも要らないから、バズりにくい代わりに炎上もしにくい。共感・共鳴する人とつながりやすく、自分が望めば、コミュニティも広がります。ぼーっとSNSを眺める時間を使って、その日を書き出してみる。軽い気持ちで始めてみると、新しい扉が開けるかもしれません!
日記のふたつの側面を深掘り!

もりもと あい●文章、動画など幅広く投稿できるメディアプラットフォーム、noteの広報。個人noteも更新中。

精神科医
名越康文先生
なこし やすふみ●精神科医。テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析などカルチャーの分野でも多岐にわたって活躍。
【for MYSELF】“自分のため”の日記
誰に見せるわけでもなく、自分の生活や気持ちを言葉にするためだけに書くもの。ジャーナリング※のように“内面を整理する”ため、また日々の記録としての役割を持つ。
※頭に浮かんだことを自由に紙に書き出す行為
【for SHARE】“読み手がいる”日記
誰かに読まれることを前提として書かれ、オンライン上や自主制作本などで人と共有。他者とのコミュニケーションや自己表現の手段として、書き手が増えている。
Q.日記を人と共有することにはどんな作用がある?
「まず、人が日記を発信するのは、心理学では共感への欲求ということになるのでしょう。誰かに共感してほしい。でももっと根本的な欲求とも言える。つまり『心の叫び』ですよね。“不幸の真っ只中にある人間が、ここにいるよ!”とか、“あー、今日は私はよく頑張ったんだ”ということを誰かに知ってほしい。この“我ここにあり”という感覚は、本能のいちばん深いところにあるものだと私は思っています。いろんなことがありながら生きている、ということを知ってもらうと、心が少し満たされる。そこで更に生きていく勇気もわいてくるのでしょう」(名越先生)
Q.note上で書かれる日記は増えてる?
「ハッシュタグで“日記”がついた記事の投稿数は、前年比1.4倍。コロナ禍で激増し、少し落ち着いてから最近また増え始めました。記録に残せることや、ありのままの自分が表現できることなど、日記をつけることのメリットが広まったことが要因のひとつ。私自身もいい効果を実感しています。noteではアカウントごとにキーワード検索できる機能があり、あとから振り返りもしやすいです」(森本さん)
Q.SNSの発信と日記は何が違うの?
「XやInstagramでは即時性の高い情報や、見せたい自分像を発信している人が多いのに対して、noteに投稿される日記は、ありのままの自分を表現している人が多い印象を受けます。PVランキングや広告もないまっさらな場所なので、人の目を気にせず正直な気持ちを綴りやすいのかもしれません。各種SNSの投稿をnoteの記事に埋め込み、総括としての日記を書く人も多いです」(森本さん)
Q.noteで書かれる日記はどんなものが多い?
「日常をありのままに綴る従来の日記と、テーマを明確にしたエッセイタイプの2種類に分けられます。前者は、気持ちを整理することや思い出を記録することを目的に書いている方が多数。後者は主に子育てや移住、転職、介護といった個人の体験談がベースで、人の役に立ちたい、存在感を示したいなど、目的は様々。noteをキッカケに書籍化された日記は、後者が多いです」(森本さん)
Q.“日記を書きたい”という気持ちが生まれる背景は?
「現代的な背景があるとすれば、当然ですがSNSが日常的になったということでしょうね。さらにいうと情報があふれて、記事だけではなくて直接話法の文章に真実味を感じる読者が一定以上出現したということなのでしょうか。TVなどのメディアでは報じられない出来事をSNSから知る機会が増えて、多くの人が情報を吟味するようになりました。それにより、自分はどう思うんだろう?と咀嚼するクセもついた。考えをまとめる手段として文字に書き出し、日記を書く人が増えたのかもしれません」(名越先生)
Q.日記をつけると、どんな作用がある?
「日記は自分自身の教科書。過去を振り返ることで、自分の変遷がわかるからです。たとえば当時、悩んでいたことに対して、“今だったらこう考えるな”とか、“このときの自分のほうが深かったな”と感じることがある。過去の自分に刺激を受けて、今の自分が変わる要素になります。本当の成長とは、変化すること。過去の自分を罰するのではなく、過去を慈しむように読みましょう」(名越先生)
Q.日記をつけることが向いている人の特徴は?
「日記は基本万人のものなのであえて言えばですが、モヤモヤやイライラを感じたとき、それを他人に話すのが苦手な人は日記の習慣を持つと助かるかも知れません。さらには、人間関係で緊張しやすかったり、プレッシャーを感じやすい人ですね。ため込んだ気持ちを整理するつもりで日記を書いてみると、未来が拓けてくることがあるはず。最初は書けなくて当然。1行書けたら、そこから“なぜ?”と問いかけていってください」(名越先生)
撮影/さとうしんすけ スタイリスト/山本瑶奈 構成・原文/中西彩乃 ※BAILA2025年7月号掲載






















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