「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月ご紹介するのは、歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」の『金閣寺』で、雪姫をダブルキャストで勤める中村米吉さんと中村児太郎さん。同世代で、ともに女方の道を歩んできた注目の二人です。雪姫といえば、歌舞伎を代表するお姫様役「三姫」のひとつ。そんな女方の大役を演じるにあたっての抱負を米吉さんと児太郎さんが語りつくす同世代対談が実現。お二人の歌舞伎にかける熱い思いと、頭の回転の速さに、バイラ歌舞伎部は圧倒されっぱなしでした~!!
↑米吉さん(右)30歳、児太郎さん(左)29歳という同世代の二人。早口で、おしゃべり上手で、ユーモアもキレッキレの二人に、笑いっぱなしの小僧でした♪
■歌舞伎の「三姫」のひとつ、雪姫は女方の大役
まんぼう部長 『金閣寺』は、天下をもくろむ悪党の松永大膳によって、将軍の母・慶寿院尼と、絵師の娘・雪姫が金閣寺に囚われたところから物語が始まります。舞踊あり、ファンタジーありの華やかな舞台で、お二人がダブルキャストで勤める雪姫、本当に楽しみです。
ばったり小僧 雪姫は、米吉さんは今回が初役ですが、児太郎さんは、2018年に初役で演じられていますよね。舞台、拝見しましたけれど、美しくてダイナミックで魅了されました!
児太郎 ありがとうございます。でも、あのときの映像を見直すと、まだまだですね…(苦笑)。 確かに盛り上がってはいましたけれど、あれは父(中村福助さん)のおかげです。病気で休養していた父が、5年ぶりに舞台に復帰するタイミングでしたので、配役も豪華でしたし、お客さまもすごく温かい雰囲気でした。本当に父に助けてもらったなと思っています。
今回も初演のときと同じく父が慶寿院尼で出ますし、米吉さんのお父さんの(中村)歌六のおじさまをはじめ、(尾上)菊之助のお兄さま、(中村)勘九郎の兄貴と、先輩方が周りを固めてくださっているので、共演者の方々の胸を借りるつもりで、勤めることができたらなと思います。
米吉 (児太郎さんが)初役のときのこと僕もよく覚えてる。『金閣寺』のあとが、幸四郎のお兄さんの『鬼揃紅葉狩』だったでしょう? それに一緒に侍女で出ていたのですよ。児太郎さん、雪姫で花道に引っ込んだあと、ダッシュでお父さんのところに行って、お父さんの出番が終わったらすぐ『紅葉狩』の仕度をして。もう汗だくになっていて、「大丈夫?」「大変だね」って、揚幕で言った覚えがある。
児太郎 あれは本当にハードだった。月の後半はランナーズハイみたいな状態(笑)。とにかく目の前のことに全力でした。
部長 米吉さんは、今回、雪姫が決まって、どんなふうに思われましたか?
米吉 歌舞伎には、色々なお姫さまが出てきますけれど、雪姫は、その中でも大役とされる「三姫」のひとつですから、やっぱり女方冥利に尽きますね。それを歌舞伎座で、「秀山祭」という播磨屋一門にとって、大事な公演でさせていただけるのは、何よりも有難いです。
とくに今年は(中村)吉右衛門のおじさまの三回忌の追善公演でもありますから、それに「ふさわしい」とまでは言えなくても、恥ずかしくないように、よいものにしたいという気持ちです。ある意味、女方の頂点のお役のひとつですから、この大役をしっかりと勤めあげて、少しでもよいものを観たとお客さまに思っていただけるようにしないといけないと思っています。
小僧 敵役の悪党・松永大膳をお父さまの中村歌六さんが演じられますね。何かおっしゃっていましたか?
米吉 最初は父から聞いたんです。「9月、金閣寺だって」「雪姫どなたですか?」「君。優太(児太郎さんの本名)と半分」「あ……、はい」っていう会話をしました。「僕が大膳で、雅行(勘九郎さんの本名)が東吉、えいちゃん(福助さんの本名=栄一)も出るって」っていう会話をして終わりました。大変だね、みたいな目で、人のことを見ていました(笑)。
↑『祇園祭礼信仰記 金閣寺』雪姫を初めて演じたときの児太郎さん(平成30年9月歌舞伎座)。優美なだけでなく、しなやかでダイナミックな雪姫に思わずうっとり。今回はさらにバージョンアップされた雪姫が観られるはず。楽しみです!!🄫松竹
部長 大役なだけに、やはり難しいお役なんですね。
児太郎 そうですね。でも、雪姫は「三姫」の中でも、動きがあって派手ですし、演じていて楽しいお役です。実は雪姫は、お姫さまではなくて、慶寿院尼の元腰元で、頭がよくて美しいから「姫」と呼ばれています。そして、夫・直信のため、命を懸ける芯の強い女性です。
米吉 そう、たいていのお姫様は、どちらかといえば自分の恋心に一直線で、「好き! 好き! 好きだからー!!」って、勢いで行動するんですけれど(笑)、雪姫はみんなのためにすごく働くんですよ。大膳に「金閣寺の天井に龍の絵を描くか、自分のものになるか」と迫られたときも、女を見せて、大膳を油断させたりして、行動も戦略的で、お姫様では、珍しいタイプだよね。
児太郎 大膳は雪姫と恋仲になりたいだけなのだけどね(笑)。でも、雪姫はそんな悪党と対峙をして、家宝の名刀・倶利伽羅丸を奪い取り、物語の中での役割をきちんと果たします。細かい仕事が多くて大変でもありますが、ここが雪姫を演じる上で、大事な部分だと思っています。
部長 雪姫といえば、有名なのが、桜の木に縛られる場面です。雪姫は、有名な絵師・雪舟の孫で、雪舟の逸話に倣って、桜の花びらで鼠の絵を描くと、本当の鼠が現れて、縄を食いちぎってくれるというファンタジックな場面です。
児太郎 爪先鼠の場面は、セリフの量が多く、縛られているのにやることが多いので、体力的にも大変です。
米吉 美しい女性が縛られているという、ちょっとエロティックな要素も出していかないといけないですしね。
児太郎 あの場面になると、お客さまも「頑張れ、頑張れ」と応援してくださいますし、そのあとに桜もドバーっと沢山降ってくるから、自然と盛り上がる。
むしろ難しいのは、その前の上手屋体(上手にある建物)でのお芝居です。(坂東)玉三郎のおじさまに教えていただいたのですが、ひとつひとつの台詞や表情など、細かい心の表現がすごく難しい上、囚われの身なので、手や体を動かせないことがとにかく大変。雪姫を経験された方とはいつも、前半部分がいかに難しいかという話になります。
米吉 この前、(中村)梅枝の兄さんと話していたときも同じことを話してくれた。ただ、座って台詞を言っているだけにも見えるけれど、歌舞伎的にはあそこが一番難しいんだろうなっていうのは、観ていても感じます。
児太郎 ここでいかにお客さまを納得させられるか、というところが雪姫を演じるにあたっての肝。ここのお芝居次第で、後の展開に説得力を持たせられるかどうか、が決まると思っています。
↑「ちょっと爪先で鼠を描いてみましょうか」というカメラつゆっきーの無茶ぶりに、戸惑いながらも応える二人。両手が後ろに回っているのは、舞台では、雪姫が縛られている状態で鼠を描くから。自然と役になっちゃうところはさすがです。
■爪先で実際に何を描いているかは企業秘密です!
児太郎 一方、爪先鼠以降の後半は、ひとりで舞台を任されるところが醍醐味です。梅枝のお兄さまがよくおっしゃっている「空間支配力(=その空間にどれだけの存在感を持って立っていられるか)」が試される場面。まだまだひよっ子ですが、このような場面を楽しめるようになってきました。
米吉 でも、その「楽しさ」というのは、ある種の苦しさとイコールですから。舞台にたったひとりで立って、お客さまが自分しか見ていない状態で、芝居をするっていうのは、やっぱり怖いもの。お客さまからは、「どんなもんか」って見られるわけだからね。僕の場合、「楽しい」って思えるところまで、いければいいけれど。
児太郎 僕は『阿古屋』をやらせていただいたおかげもあり、だいぶ慣れました。何をやっても全部自分が見られてしまうわけですから、もう仕方ないと開き直れるようになった。7月に歌舞伎座でお舟(『神霊矢口渡』)をやらせていただいたときも、舞台にひとりしかいないこの状況を楽しむしかないと思って勤めました。お客さまが喜んでくださるように、覚悟を決めて今できる最高の演技を届けるしかないなと。
米吉 最終的にはそこだよね。良い、悪いは、お客さまのお好み次第だから。まずは自分がどれだけ自信をもってできるかどうか。
小僧 児太郎さんのお舟は、エネルギッシュで情熱的で圧倒されました。米吉さんも7月大阪松竹座の『吉原狐』、最高でした。米吉さんの独壇場って感じで、あれも相当気合いが必要だったんじゃないですか?
児太郎 すごく面白かったみたいだね。
米吉 共演者の皆様に助けられたところが大きいですね。確かに根性が要りましたけれど、コメディですし、周りとの呼吸で面白くできる部分もあったので。とはいえ、1時間20分のお芝居を自分が引っ張って、流れを作っていくというところでは、とてもいい経験になりました。 もちろん今回は、古典なので、技術的にはまったく別の次元のものになりますけれど、雪姫が物語の相当部分を引っ張っていくわけですから、『吉原狐』での経験が生きてくる部分があればと思っています。
小僧 お話を聞いていると、『金閣寺』はファンタジー要素あり、エロありで(笑)、歌舞伎初心者のバイラ読者にも観やすい作品ですね。
米吉 そうですね。まず舞台が金ピカの金閣寺で、それがセリで上下に動くんですから。初めて観た方は、びっくりすると思いますよ。
↑『祇園祭礼信仰記 金閣寺』雪姫の衣裳姿の米吉さん。朱鷺色のお着物が似合って美しいだけでなく、気丈さも感じられる雰囲気が素敵。 縛られた姿も良き☆彡 早く舞台が観たい!! ⓒ松竹
児太郎 歌舞伎の舞台装置をふんだんに使っているものね。あと、内容をすべて理解できなくても、目で見てわかりやすい作品かなと思います。朱鷺色(ピンク色)の着物を着ている雪姫、見るからに悪人面の大膳、ちょっとかっこいい武将姿の知恵者が東吉。この3人を把握しておけばまずは大丈夫かと!
米吉 「歌舞伎って、こーゆーの!」という演目の代表だと思います。
児太郎 歌舞伎の様式美も詰まっているし、物語性もある。あとは最後に雪姫が夫の直信を宙乗りして追いかけたら、歌舞伎のほとんどすべてを網羅できる気がする……。
部長 ちなみに爪先鼠の場面では、本当に鼠を描いているんですか?
米吉 どうなんですか? 児太郎さん。
児太郎 そこは企業秘密なので、舞台を見て答え合わせをしていただきたいです!(笑)ただ、「目を描くところが大事」と玉三郎のおじさまに教えていただきました。あの場面ではここをしっかり表現することを意識しています。
米吉 まさに「画竜点睛」ですね。目を入れないと、鼠も動き出さないという。そういえば、7年前にラスベガスで新作歌舞伎『KABUKI LION 獅子王』の公演をやったとき、白縫姫という雪姫のオマージュ的な役柄を演じたんです。
雪姫と同じように縄で縛られて、爪先で絵を描くんですけど、そのときは鼠だけじゃなくて、キツネやハト、ウサギなど、色々な動物を描きました。それが擬人化されて出てきてお姫様を助けるという演出だったんですね。
それで、映像とのコラボがあったので、足元が映るから、「ちゃんと鼠を描いてください」って言われて、「ええっ、鼠、どうやって描きます!?」って、振付の(尾上)菊之丞先生と考えて(笑)。
児太郎 アメリカだから、あの有名な鼠?(笑)
米吉 いやいや、それはまた版権関係が難しいから(笑)。耳があったほうがいいよね、とか考えながら、描き方を練習しました。 でも、あれはあくまで「雪姫もどき」。今度は、「ホンモノ」ですから、ちゃんと鼠が出てきてくれるように、心して目を入れたいですね。
小僧 ちなみにお二人は、絵心はありますか?
米吉・児太郎 まったくありません!!
↑普段は、「優太」「修ちゃん」と呼び合う米吉さんと児太郎さん。取材日前日、着物の色がかぶらないように相談してくださったそう。お二人とも凛と決まっていて、とっても素敵でした♡
■『土蜘』で共演するちびっこたちへのご褒美は
部長 児太郎さんは、前回、玉三郎さんに教えていただいたと思うんですが、米吉さんは、どなたに教えていただくんですか。
米吉 今回、僕は、(尾上)菊之助のお兄さんにまず教えていただいています。その上で玉三郎のおじさまも稽古を見に来てくださることになっています。
小僧 何かお二人で相談したことはありますか?
児太郎 成駒屋では雪姫が縛られる桜の木は上手にあるのですが、玉三郎のおじさまは下手に桜の木を置かれます。桜が上手にあると、センターより下手に席を取られたお客さまは、雪姫のことがあまり見えなくなってしまうので、次は下手に桜の木を置いてやってみたいと思っていました。
生前に祖父(七代目中村芝翫さん)と話したときも、芝居の進行を考えると「下手はありだね」と言っていたので、今回は「米吉さんの希望」ということで、下手の桜でやりたいと思います。
米吉 いやいやいや!おかしいでしょ!?この前、あなたが「下手でいいですか?」って電話してきたんじゃない(笑)。
部長 事前にいろいろ連絡をとりあっているんですね。
米吉 この話が決まってすぐ、児太郎さんから「聞いた?」と連絡をもらって。電話もかかってきて。「修ちゃん(米吉さん本名=修平)どうする? どなたに伺うつもり?」「いや、僕も今考えているところ」なんて話をして。児太郎さんは雪姫経験者だから、おんぶにだっこで、「じゃあ、そうしよう、そうしよう」という感じで、色々決めてます。
児太郎 そういえば、あれも相談しなくちゃ。昼の部のもうひとつの演目『土蜘』でも修ちゃんとダブルキャストで巫女のお役を勤めます。そのお芝居に中村種太郎くんと秀乃介くん(中村歌昇さんの長男・次男)も出演するので、二人へのご褒美は何がいいか決めないと!
米吉 そうだね。だけど、あんまりいろんなものをあげないでくれる? 優太が都度都度あげると、僕もしなくちゃいけないから(笑)。坊やたちには、千穐楽にまとめてあげましょう。
児太郎 うん、わかった。
小僧 児太郎さんは、あげたがりなんですか?
児太郎 そうかもしれないです(笑)。去年、二人と一緒だったときは、彼らが大好きなウルトラマンのフィギュアを毎日プレゼントしました。そんなことをしていたら、(中村)種之助さん(歌昇さんの弟)に「あげすぎないで」と言われてしまって…(笑)。
米吉 そう。種之助が、「優太がやたらと物をあげるから困った」「叔父の身にもなってくれ」って言っていました(笑)。彼はすごいんですよ。絵心があるから、毎日、ウルトラマンとか怪獣の絵をちゃんと描いて、甥っこたちにあげてました。
うちの父は毎日せんべい2枚。どこかに隠しておいて、二人に探してごらん、とやっていましたね。ちょっと安上がりですかね(笑)
児太郎 渋いね。
部長 たのもしいお兄さんたちに囲まれて、ちびっこたちも楽しそうですね!
↑学生時代、ラグビー部だった児太郎さん。YouTubeで「ラグビー魂」というチャンネルを持つほどのラグビー通。さて、今年秋のW杯は盛り上がりそうですか? 児太郎 「予選で日本と当たるアルゼンチンがすごく強いので、勝ち抜くのがすごく大変ですね。優勝はやっぱりニュージーランドかな。強さの次元が違います。ちょうど秀山祭のとき、W杯で盛り上がっていると思うので、秀山祭チームにラグビーを宣伝して、みんなで盛り上がりたいですね」。ちなみにこの写真で児太郎さんが手で現わしているのは、ラグビーボールの大きさ、ではなく、飼っているわんちゃんの大きさです♪
■刺激をくれるものは、TWICE&若い後輩たち
部長 今、お二人にとって、自分に刺激をくれるものは何ですか?
児太郎 刺激物?
米吉 カプサイシンとか、そういうこと?
小僧 いえ、そうじゃなくて(笑)。
児太郎 僕は毎日映画を1~2本、観るようにしています。
米吉 そんな時間あるの?
児太郎 7月は夜の部だけの出演でしたので、家に帰って22時くらいから観始めて、0時くらいに1本目が終わる。そこからもう1本観ても、1時30分くらいには観終えることができますから。
小僧 以前、『風と共に去りぬ』が好きだとおっしゃっていましたね。最近は、どんなものをご覧になっていますか?
児太郎 最近、観た中で面白かったのは、『エスター』の続編『エスター ファースト・キル』ですね。
米吉 怖いやつね。
児太郎 サイコホラー、結構好きかもしれない。あとは、無性に泣ける恋愛映画とか。
米吉 意外にそういうのが好きなんだ。
児太郎 意外と好きですね。アニメも見るし、マンガも読むし、最近は本も読むようにしています。宝塚とか、お芝居も観に行きますね。あとは、YouTubeでTWICEの映像を見たりしています。
7月もMISAMO(TWICEの日本人メンバーのユニット)が日本に来ていたから観に行きたかったのですが、行けなかったので、ぜひいつかTWICEに歌舞伎を観に来てもらうのが夢です(笑)。
小僧 米吉さんは何かありますか?
米吉 何だろう。映画も観るし、本も読むけど、刺激を得ている感じはないし。最近、感性が鈍ってるのかしら……あ、でも、7月に大阪松竹座で染五郎くんと一緒だったんですけど、私が30歳で、彼が18歳、一回り下なんですよ。同じ酉年なんですって。
5月にご一緒した(市川)團子くんも19歳で、下の世代の方がすごく頑張っているじゃないですか。私たちは同世代が多くて、(中村)壱太郎兄さんをはじめ、平成3年から平成5年生まれくらいで、みんな、なんとなくまとまって、「若手」みたいな感じでやっていたけれど、一回り下が出てきて、これはちょっと大変なことになったなと。そういう刺激は感じています。
僕らが18歳くらいときの一回り上っていったら、ちょうど(中村)勘九郎兄さん、七之助兄さん世代でしょう? そう思って、当時の先輩方と、今の自分を比較すると、おいおいおい、大丈夫なのか!?っていうね。
↑スポーツのイメージがない米吉さんだけど、ラグビーは観るのでしょうか? 米吉「ラグビーは比較的、好きで観るんですよ。前回のW杯のときも観てました。でも、野球とかサッカーは、試合が長いので苦手。一番いいのは、やっぱり相撲ですね!」。6月には、米吉さんのお父さま・中村歌六さんが人間国宝に。 知らせを聞いて、米吉さんも喜びで号泣したとか。仲良し一家の幸せな情景が浮かび部長も思わずほっこり。
小僧 それでは、最後に公演に向けての意気込みをお願いします!
米吉 そうですね。では、私から。歌舞伎座で……。
児太郎 歌舞伎座で……(と、なぜか指折り数え始める)。
米吉 やらせていただく……
児太郎 やらせていただく……
米吉 うれしいな。
児太郎 うれしいな。575。
米吉 違う、違う!なんで勝手に数えるの!?(笑) 川柳みたいにしたら、ふざけてると思われるでしょう!?
とにかく歌舞伎座の秀山祭で、また、父の大膳でやらせていただけるというのはとても有難いことですし、同世代の児太郎くんと一緒にやらせていただけるのも僕にとってすごく嬉しいことです。もちろん児太郎さんのほうは雪姫をすでに経験しているからダブルキャストというのは、ご不満もおありでしょうけれど(笑)(首を振る児太郎さん)、僕にとってはすごく心強いですね。
ただ、きっと吉右衛門のおじさまは、天国で僕の雪姫をご覧になったらお叱りになるに違いないと思っています(笑)。「お前よぉ」って言って、大きな手で手招きされて、散々、叱られてきましたが、今思えばありがたいことでした。
とにかく、あちらからおじさまのそう言うお言葉を頂いているんだぞ、と自分を律しつつも、できる限りのことを尽くして取り組みたいと思います。
児太郎 雪姫は、曽祖父の代から大事にしてきた成駒屋にとって大切なお役。それを吉右衛門のおじさまの追善公演でさせていただけるのは、本当に有難いことなので、幸せを噛みしめながら舞台に立ちたいです。
また、今回は2回目なので、お客さまの目も厳しくなっていると思います。そこは気を引き締めて、少しでも多くのお客さまに「観てよかった」と思っていただけるように誠心誠意勤めたいと思います。 そして今回は修ちゃんと二人で勤めるということで、二人で切磋琢磨できると思いますし、お互い励まし合って、乗り越えていきたいですね。
小僧 今日は本当に面白すぎるトーク、最高でした! そんなお二人の熱い雪姫、見逃せませんっ。
部長 ダブルキャストだから、両方観に行かなくちゃ。9月は歌舞伎座に通うわよ~!!
■歌舞伎座新開場十周年
「秀山祭九月大歌舞伎」
二世中村吉右衛門三回忌追善
期日:2023年9月2日(土)~25日(月)
劇場:東京都 歌舞伎座
【休演】11日(月)、19日(火)
【昼の部】
一、
『祇園祭礼信仰記』(ぎおんさいれいしんこうき)
金閣寺
出演
松永大膳:中村歌六
雪姫:中村米吉(2~6日、13~18日のみ出演)、
中村児太郎(7~12日、20~25日のみ出演)
狩野之介直信:尾上菊之助
十河軍平実は佐藤正清:中村歌昇
松永鬼藤太:中村種之助
慶寿院尼:中村福助
此下東吉後に真柴久吉:中村勘九郎
二、
新古演劇十種の内
『土蜘』(つちぐも)
作:河竹黙阿弥
出演
叡山の僧智籌実は土蜘の精:松本幸四郎
源頼光:中村又五郎
番卒太郎:市川高麗蔵
番卒次郎:中村歌昇
渡辺綱:大谷廣太郎
坂田公時:中村鷹之資
碓井貞光:中村吉之丞
卜部季武:中村吉二郎
太刀持音若:中村種太郎
石神実は小姓四郎吾:中村秀乃介
巫子榊:中村児太郎(2~6日、13~18日のみ出演)、
中村米吉(7~12日、20~25日のみ出演)
番卒藤内:中村勘九郎
平井保昌:中村錦之助
侍女胡蝶:中村魁春
三、
秀山十種の内
『二條城の清正』(にじょうじょうのきよまさ)
淀川御座船の場
作:吉田絃二郎
出演
加藤清正:松本白鸚
豊臣秀頼:市川染五郎
斑鳩平次:松本錦吾
【夜の部】
一、
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
車引
出演
松王丸:中村又五郎
梅王丸:中村歌昇
桜丸:中村種之助
金棒引藤内:中村吉二郎
杉王丸:中村鷹之資
藤原時平:中村歌六
二、
『連獅子』(れんじし)
作:河竹黙阿弥
出演
狂言師右近後に親獅子の精:尾上菊之助
狂言師左近後に仔獅子の精:尾上丑之助
僧蓮念:中村種之助
僧遍念:坂東彦三郎
三、
「一本刀土俵入」(いっぽんがたなどひょういり)
取手宿安孫子屋よりお蔦の家 軒の山桜まで
作:長谷川伸
出演
駒形茂兵衛:松本幸四郎
船印彫師辰三郎:尾上松緑
堀下根吉:市川染五郎
船戸の弥八:中村吉之丞
若船頭:大谷廣太郎
酌婦お松:中村梅花
町人伊兵衛:澤村宗之助
清大工:松本錦吾
河岸山鬼一郎:大谷柱三
波一里儀十:中村錦之助
老船頭:中村東蔵
お蔦:中村雀右衛門
取材・構成/バイラ歌舞伎部
写真/露木聡子
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧……歌舞伎歴2年。やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。