1. BAILA TOP
  2. LIFESTYLE
  3. エンタメ・インタビュー

歌舞伎俳優 #中村米吉 のほぼ独り語りスペシャル♡ 大好評インタビューはまだ続く!【歌舞伎沼への誘い♯36 後編】

「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南する【まんぼう部長の歌舞伎沼への誘い】。 そのスペシャル版として今回、お届けするのは、若手の女方として大注目の中村米吉(よねきち)さんのスペシャルインタビュー。昨年は、歌舞伎座で次々と大きなお役を勤めるなど大活躍でしたが、そんな飛躍の1年を語りつくします!! 愛らしいキャラに毒のあるトークがスパイスされて、バイラ歌舞伎部のまんぼう部長と小僧も爆笑の連続。前編に続いて、後編をお届けします~!!

中村米吉 のほぼ独り語りスペシャル 前編はこちら
歌舞伎俳優の中村米吉の独占インタビュー

↑中村米吉さん。1993年東京都生まれ。父は歌舞伎俳優の中村歌六。屋号は播磨屋。2000年7月歌舞伎座『宇和島騒動』で、五代目中村米吉を襲名して初舞台。2011年から女方を志し、本格的に歌舞伎役者として歩み始める。2月は、歌舞伎座『鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)』に出演。3月は、京都・南座に出演予定。

■吉右衛門のおじさまの精神性を忘れずに受け継いでいきたい

部長 昨年11月には、病気療養中だった中村吉右衛門さんがお亡くなりになりました。歌舞伎界にとって、なくてはならない方でしたから、ファンだけでなく、心を痛めた方は多かったと思います。とくに米吉さんは、同じ播磨屋でしたからショックは大きかったのではないでしょうか。

米吉 昨年の出来事では、それが一番大きかったのではないでしょうか。そもそもコロナになってから、舞台は拝見していましたが、一度もお目にかかれていないんです。コロナが流行り出した一昨年の3月の国立劇場のお稽古で、(尾上)菊之助のお兄さんのご指導にいらしていた時にご挨拶したのが最後になってしまったのかな。昨年3月に倒れて入院されてからもこの状況下でお見舞いにもいけませんでしたから、正直、亡くなったという実感がまだないんです。まだ病院にいるんじゃないかって、お骨まであげたのに、なんだか信じられないんですよね。

生前、おじさまからは、本当によく叱っていただきましたけれど、まだまだ叱っていただきたかったし、もっともっとご一緒させていただき、お側でお勉強させていただきたかったから、残念の一言では片づけられません。一観客としても、あのお声、あのお姿、あの芝居がもう拝見できないなんて、考えたくもないです。そして、それをお客様に観ていただくことができないことも。

さらに言えば、あのお芝居をもう教われないということが本当に悲しいです。僕は女方で役柄が違いますから、直接的に教えていただくことはなかったけれど、女方のことにもとてもお詳しかったですから、何かにつけてご指摘くださいました。

監修で稽古場にみえたときなんか、おじさまがいらっしゃるだけで空気が張り詰めるわけです。そんな方、あまりいませんから。そして舞台すべてを俯瞰して、「義太夫さん、もっとあそこはこうしてくれなきゃ、こっちはやりにくいですよ」とか。「あなたのはちょっと早いから、もういっぺんやってごらん」って、とても熱心にお稽古してくださって。

とくに立役さんは、おじさまに習いたい、受け継ぎたいと思っていた人はいっぱいいたと思いますけれど、おじさまの死とともに、そういう機会も失われてしまったわけで、これはすごく大きな損失になってしまいましたですね。

独占インタビューで語る歌舞伎俳優の中村米吉

↑ちょっと冷めてる斜め目線がユニークな米吉さん。でも、内面にはフツフツとたぎる熱いものを秘めていた!! ツンデレならぬツンフツ系!?(だいぶ苦しい) 最強キャラよね♪ と部長も米吉ワールドにドハマリ中。

本当に大きなものを失ってしまいました。その喪失感の中でも歌舞伎座は、幕があいています。悲しいことは悲しいし、悔やみきれないけれど、もうお戻りにはならない。技術的なことは、音声や映像で残っているものを擦り切れるまで見て聞いて、たどっていかなくてはなりません。

そして何より、おじさまの歌舞伎に対する精神性みたいなものを僕たち一門の人間は、受け継ぐように努めないといけないと感じましたですね。

そういえば、先日の静岡新聞に、おじさまの追悼記事がでていたんですけれど、そこにおじさまが僕に指導をしてくださっているときの写真が載っていたんです。2011年10月、僕が初めて名古屋の御園座に出たときの写真でした。そんな写真があること自体忘れていたので、驚きました。

思えば、おじさまのそばで勉強させていただいて、丸10年だったんですよね。僕が歌舞伎役者として、本格的に勉強しはじめたのが2011年の5月から。そして9月から女方を勉強しはじめたんです。その翌月に御園座に行ったときの写真で、このタイミングでその写真がぽんと出てくるというのは、何か意味があるような気がしました。

10年前、僕が最初におじさまに「女方を勉強したい」とお話したときに、「きみはこれまでまったく土台がないからスタートラインの手前にもまだいない」「まだ走れない状態だ」と言われたんですね。「これから女方を学ぶのは、どれだけたいへんなことか肝に銘じなさいよ」と。

だから今、有難いことに歌舞伎座に毎月のように出させていただいて、節目節目でいいお役をさせていただけているという中で、この写真が出てきたということは、「まだやっとスタートラインだよ。初心を忘れちゃあいけないよ」ということをおじさまから、最後におっしゃっていただけてるのかなって、勝手に思ってます。

いつの日かあの世でご挨拶に伺ったときに、「よくやった」とは言われないまでも、叱られることだけはないようにもっともっと精進しなければいけないと思っています。

中村米吉の撮り下ろし写真。ジャケットにつけていたフクロウのブローチもキュート

↑ダボッとしたオーバーサイズのお洋服は苦手という米吉さん。私服もいつもきちんと感があって清潔感のあるスタイル。この日、ジャケットにつけていたフクロウのブローチもキュートでした♪

■歌舞伎座での経験をいかして

部長 昨年3月の南座以降は、5月~11月まで、毎月、歌舞伎座に出演して、たくさんの大きなお役を勤められました。とくに印象に残っているのはありますか。

米吉 お姫様、傾城、腰元、武家娘、田舎娘などなど多岐に渡るお役をさせていただきましたけれど、中でも印象深いのは、9月の『盛綱陣屋』で、(松本)幸四郎兄さんのお勤めになった佐々木盛綱の妻・早瀬をやらせていただけたことです。あんな大きなお役をさせていただけるとは思いませんでしたから、とても有難かったですし、とても勉強になりました。

同時に、父(中村歌六)をはじめ、あれだけのベテランの先輩方の中でやらせていただいたからには、「お勉強になりました」「いい経験させていただきました」で終わらないようにしないといけないなと思いました。当たり前のことですが、あれだけ皆さんの中に入ってもしっかりとその役に見えなくては。まずいことは承知の上で、あの場に「ふさわしく」やらなくてはと。まだまだ自分の身の丈にはそぐわないとは思いますが、精一杯勤めました。

歌舞伎座で早瀬を演じる中村米吉

↑2021年9月歌舞伎座『盛綱陣屋』で、幸四郎さん演じる盛綱の妻・早瀬を勤めた米吉さん。 美しく、落ち着きがあって、女方の大役もすっかり板についていてさすが。『夏祭浪花鏡』のお辰が憧れの役だそうですが、米吉さんのお辰、すっごく観てみたくなりました!!

小僧 柔らかさの中にも凛としたところがあって、とっても素敵な早瀬でした。さて、2月はまた歌舞伎座で『鼠小僧次郎吉』にご出演ですね。どんなお芝居ですか。

米吉 河竹黙阿弥の作品で、とても因果な人間ドラマです。音羽屋さんゆかりの演目で、主人公の鼠小僧を菊之助さんが、蜆(しじみ)売りの三吉を息子の丑之助くんがなさいます。前回やったのが、1993年3月の国立劇場で、ちょうど僕が産まれたときにやっていた芝居ということで、なんと29年ぶりの上演。

さらに、鼠小僧と三吉を本当の親子でやるのは、六代目菊五郎と七代目尾上梅幸(当時丑之助)親子以来とのことですので、それもみどころです。この前、東京で雪が降ったときは、丑之助くんは、役作りのために雪道を歩く練習をしたそうですよ。

梅幸のおじさまが三吉をなさったときには、役作りのために裸足で雪の中を歩かされて、足が真っ赤になったという話が残っていますけれど、今やったら通報されてしまいますからね(笑)。丑之助くんは、ちゃんと靴を履いて雪の中を歩いたそうです。

僕は、杉田家の娘・おみつを演じます。黙阿弥の書いた世話ものですから、江戸の空気を大事にして、華やかに、お客様にほっこりしていただける場面にしたいと思っています。

2022年2月歌舞伎座『鼠小僧次郎吉』で、杉田娘おみつを勤める米吉さん

↑2022年2月歌舞伎座『鼠小僧次郎吉』で、杉田娘おみつを勤める米吉さん。可憐で、愛らしくて、恋する乙女役がぴったり!! ちなみに主人公の鼠小僧を勤めるのは、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の“モモケン”で話題の尾上菊之助さん。歌舞伎座へレッツゴー☆彡

■歌舞伎界もSDGSをやっていかなくちゃいけない!?

小僧 話は変わりますが、この前、米吉さんのあるインタビュー記事を読んでいたら、プロフィール欄に「生まれ変わったらシャチになりたい」と書いてあったのですが、どういう意味でしょうか(笑)。

米吉 シャチは天敵がいないんです。

小僧 強くなりたいんですか。

米吉 安穏と生きたいんです(笑)。僕は生き馬の目を抜くところで生きているじゃないですか。嫉妬と欺瞞に満ちた世界で。て、真に受けないで! 冗談です!!(笑) まぁあながち冗談ではないのかも…。

例えば、同じ世代の人が活躍するのはすごくうれしいことですけど、誰かがいい役をもらえば、「いいな」と嫉妬するあさましい自分がいるし、自分が良い役をもらえば、「あの人は、きっと自分がやったほうがいいと思っているだろうな」と疑心暗鬼にかられる自分がいるわけです。これはどの世界も、どんな人間でも同じだとは思いますけど。

ところが! シャチは! 目の前のエサをつかまえるってことでいいわけです。芸に悩んだり、将来のことを心配したりすることもない。あのおじさんみたいにうまくとりたいとかないわけですよ。

クジラもいいなと思ったんですけれど、クジラは食べる量がハンパないから大変だぞと。イワシだったら天敵が多くて大変だし。

ところが! シャチは!!(笑)海で一番強いんです。しかも歳をとっても捨てられないで、狩りを教える先生になったりして、老後もあるらしいんです。僕が死んで生まれ変わるとなると、100年くらいたってるから、今より海面が上昇して、海の面積は広くなってると思うので、きっと広い海で、のびのびやってると思います。

歌舞伎 女方の中村米吉の撮り下ろし写真。絵になる萌えショット

↑夕日と米吉さん。絵になる萌えショット。3月は京都・南座『三月花形歌舞伎』にも出演予定。『番町皿屋敷』では、橋之助さん演じる旗本の播磨と恋仲の腰元お菊役に初挑戦。米吉さんが悲劇の恋をどんなふうに演じるか、今から楽しみ。きっと情熱的に違いないわ~♪

小僧 地球温暖化対策は効果なしですか。

米吉 今いろいろやってますけど、どうでしょうね。「今さら気づいても遅いのに……」ってならないといいですけど。実はそれは歌舞伎界も同じで、「今さら気づいても遅いのに……」ってならないように、歌舞伎のSDGsも進めないといけないと思います。

そもそも歌舞伎役者のなり手も減少していますし、世間一般の需要の低下と共に作らなくなって、技術そのものが失われてしまって、もう二度と作れなくなってしまった衣裳や床山の飾り、小道具などもたくさんあります。

歌舞伎座の絵看板もずっと描いてくださっていた江戸時代から続く鳥居派の鳥居清光さんが昨年、お亡くなりになりました。いろいろとご事情があるのだろうことは想像つきますが、先生が亡くなった以上、鳥居派の絵はもう新たに見ることは出来なくなってしまっているみたいです。

そういうことって、他にもたくさんありますですよ。深く考えると恐ろしくなりますけれど、歌舞伎がずっと持続可能であるために、歌舞伎界のSDGsを真剣に進めないといけないと思っています。

ただ、地球温暖化もそうかもしれませんが、どうしたら解決できるのか…。その答えは見つかりそうにないんですよね…。

あれ? なんか今日は真面目な話になっちゃいましたね。いつもバイラって、もっとふざけた質問が多いのに(笑)。

部長 本当はスイーツの話をする予定だったんですけど(笑)。でも、いいお話が聞けて良かったです。米吉さん、すごいっ。歌舞伎の未来まで考えているなんて素晴らしい。

小僧 本当に。一見ドライに見える米吉さんの熱いハートに触れた気がしました。それでは2月の歌舞伎座、そして3月の南座も楽しみにしてま~す♪

歌舞伎俳優の中村米吉、正面立ち姿の撮り下ろし写真

↑できたらシリーズ化したい『米吉のほぼ独り語りスペシャル』。次回はぜひスイーツについて、お話を聞かせてください!! 

二月大歌舞伎ポスター

■二月大歌舞伎

2022年2月1日(火)~25日(金)

【休演】8日(火)、17日(木)

劇場/東京都 歌舞伎座



第三部 午後6時15分~

一、鬼次拍子舞(おにじひょうしまい)

山樵実は長田太郎:中村芝翫

白拍子実は松の前:中村雀右衛門


二、

河竹黙阿弥 作

鼠小紋春着雛形

鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)

稲葉幸蔵:尾上菊之助

刀屋新助:坂東巳之助

芸者お元:坂東新悟

杉田娘おみつ:中村米吉

蜆売り三吉:尾上丑之助

石垣伴作:中村吉之丞

左膳弟子左内:橘太郎

養母お熊:市村橘三郎

与之助:坂東亀蔵

早瀬弥十郎:坂東彦三郎

本庄曾平次:河原崎権十郎

大黒屋抱え松山:中村雀右衛門

辻番与惣兵衛:中村歌六

※最新情報は公式サイトにてご確認ください。

◆公演詳細

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/743#cast


◆公演チケット情報

https://www.kabuki-bito.jp/ticket.html

写真/露木聡子  

取材・構成/バイラ歌舞伎部  

まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。 
ばったり小僧……歌舞伎歴2年。やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。

Feature特集

Feature特集

Rankingランキング

  • ALL
  • FASHION
  • BEAUTY
  • LIFESTYLE
  • EDITOR'S PICK

当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表示する目的で Cookieを利用する場合があります。詳しくはこちら