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「産む産まない」……今を生きる女性のさまざまな思いがつまった一冊。川上未映子著『夏物語』【エディターズピックvol.276】

子どもを産むこと、持つこととは。世界が注目する長編小説

川上未映子著『夏物語』

川上未映子さんの「夏物語」。今を生きる女性たちの様々な苦悩が静かに、美しく凝縮された小説で、日本のみならず世界中の多くの国で翻訳されています。


主人公の小説家、夏子は38歳になり、精子提供で出産することを考え始めます。

生殖医療は発達し、女性の生き方も多様化するなかで「子どもを産む」ということは自然なことなのか。主人公の夏子の「自分の子どもに会いたい」という感情、そして夏子の周りのさまざま女性たちの悩みは、子どもがいてもいなくても、とてもリアルで身につまされます。

ただ、現代的である意味、刺激的なテーマであるにも関わらず物語の世界は抒情的で静かです。川上未映子さんの小説は情景の描写が美しく、それも読みどころのひとつ。私が好きなのは、夕暮れ時に観覧車に乗りながら、夏子が貧しかった幼いころの思い出を姪っ子の緑子に話すシーンです。楽しみにしていた幼稚園の遠足の「ぶどう狩り」に行けなかったときのこと。ひとつひとつの描写が詩的でセンチメンタルで、まるで自分が見た光景のように色鮮やかに映し出されてつい涙が込み上げてきます。


その時の自分の悩みが登場人物たちのそれとは全然別のものであったとしても、読むと落ち着き、穏やかな気持ちに。それは、この作品の根底に流れるユーモアと優しさゆえかも知れません。

ボリュームのある長編ですが小説を読むって素晴らしい、と読むたびに思わせてくれる名作です。 

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