書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、脳内を活性化させてくれる素敵な相棒になりそうな2作品、小川 哲の『君のクイズ』と三國万里子の『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』をご紹介します。
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
コートのポケットに一冊の本を。脳内を活性化させてくれる素敵な相棒
世のクイズ番組で問題が読み上げられた瞬間、びしっと正答を口にするクイズ王たち。そんな超人の思考回路や記憶の整理がいかなるものか、頭の中をのぞけるのが本作だ。
一千万円の賞金をかけたクイズ番組の決勝戦。勝敗が決する最後の一問で、本庄絆は問題が一文字も読み上げられないうちに早押しし、しかも正解した。ヤラセか天才かとSNSも巻き込んだ大騒ぎとなるが、本庄はその夜以来、姿を消す。決戦の相手であった三島玲央はその真相と彼の姿を求めて調査を始める。
「クイズとは、クイズの強さを競うものだ」。知識量を競うのでなく、スポーツのように競技としてクイズの訓練を続けてきた三島は、本庄のあの世紀の早押しを理解したいのだ。
事態解明のミステリーであると同時に、人間心理を解剖していくストーリーで、一度読み始めると本を置くことができない。決勝を振り返り考察する三島とともに、答えが導かれる必然のプロセスを、読者も体験していくことになる。「すべてに共通しているのは、どれも自分の人生の一部だということだ」。
さて真相は解明されるのか? その結末は本書でどうぞご確認を。
『君のクイズ』
小川 哲著
朝日新聞出版 1540円
魔法使いか、ヤラセか? クイズプレイヤーの脳
生放送のクイズ番組「Q-1グランプリ」の決戦で起きた不可解な出来事。謎を解くヒントは人生にある……? 歴史的SF『地図と拳』など、話題作を次々と発表する俊英の、スリリングなエンタメ作品。
これも気になる!
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
三國万里子著
新潮社 1650円
編むように書かれた日常。記憶の奥のかけらたち
大仕事の達成後にご褒美で買うアンティークの指輪や時計。外の世界を開いてくれた叔父。くたびれたうさぎのぬいぐるみ。ニットデザイナーとして活躍する著者の温かく色鮮やかなエッセイ29編。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年1月号掲載