テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第18回目は、バイラ読者の認知度も高い「フェムテック」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【フェムテック】
ふぇむてっく▶女性(female)とテクノロジー(technology)をかけ合わせた造語で、女性の健康や体に関する課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのこと。サポートする領域は生理や妊娠、産後、不妊、女性特有の病気、更年期など幅広く、年々拡大している市場が2025年には世界で5兆円規模になる試算も。
関連ニュースTopic
2013年頃
女性起業家が「フェムテック」という言葉をつくる
ドイツの生理管理アプリ「Clue」の創業者アイダ・ティン氏が、事業への出資を募るために自身のビジネスカテゴリーを称して新しいワードを提唱した
2021年6月
政府の方針に初めて「フェムテックの推進」の文言が
閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2021」に初めて文言が盛り込まれ、国としてフェムテックの推進に取り組むことが示され
2021年9月
ユニクロが「吸水サニタリーショーツ」を発売
アパレル大手のユニクロが、フェムケアニーズにこたえて吸水性や防水性、抗菌防臭機能を備えたサステナブルな次世代型吸水サニタリーショーツを発売
バイラ読者97人にアンケート
Q フェムテックという言葉の意味を知っていますか?
約3分の2が言葉を聞いたことがあり、さらに約4割が意味も知っている認知度が高い結果に。言葉から連想するものを聞くと生理アイテムを挙げる声が多数。「生理をはじめ女性特有の悩みにとらわれない日を過ごしたい」とよりよい製品やサービスの開発に期待する人が多い
Oeʼs eyes
まだ生まれてから10年足らずの言葉ですが、多くの読者の方が知っていて身近な言葉になっていることがわかります。女性にとって感覚的に理解しやすいトピックだと思いますので、フェムテック関連のニュースを自分と経済ニュースをつなげるためのきっかけにしてもらえたら嬉しいです
Q フェムテック製品に関心がありますか?
生理周期管理アプリ
実際に使用中 54%
関心がある 31%
関心がない 15%
吸水ショーツや月経カップ
実際に使用中 5%
関心がある 71%
関心がない 24%
デリケートゾーン専用ケアアイテム
実際に使用中 26%
関心がある 63%
関心がない 11%
使用率が最も高かったのは「生理周期管理アプリ」。実際使っている人は少ないが約7割が「吸水型ショーツや月経カップに関心がある」と回答。「便利な製品が増えているので体調管理の一環として使ってみたい」との声も
Oeʼs eyes
実際に使っている人、これから使って試したいと関心がある人の多さを見ると、本当にこの市場は需要がありさらに広がっていくだろうということが予測できるアンケート結果だと思います。期待している人が多い市場に今後どのような製品が投入されて、皆さんがどんな反応を示すかが興味深いですね
Q フェムテック関連製品やサービスでいいものがあれば、今より1カ月あたりいくらかける金額を増やしたいですか?
500円くらい 21%
1000円くらい 44%
2000~3000円くらい 33%
5000円以上 2%
現在の出費にプラスしてかける金額という聞き方にもかかわらず、約8割が1000円以上と回答。「悩みが軽くなるなら多少高くても試したい」との声もありニーズの高さがうかがえる
Oeʼs eyes
フェムテックにはサブスク(定額課金)サービスも多いですから、今かかっている費用にプラスして毎月積み重ねるとけっこうな金額になりますし、女性ならではのかかり続ける出費があることをあらためて感じますね。今は高くてもより広がって多くの人が使うことで製品やサービスの価格が下がる可能性もあるので動向が気になるところです
Q 社会の雰囲気が以前よりも生理について話しやすいものになったと思いますか?
半数以上がYESと回答。実際に「生理について周囲と話したり相談したりする」と答えた人も約半数。「つらいまま我慢しなくてよくなって嬉しい」「声に出すことで社会の理解も進みやすいと思う」との声が
Oeʼs eyes
フェムテックの盛り上がりにより、製品やサービスに加えて公に目にする生理関連の情報量が増えました。話題にできることが、自分の体と向き合ったり、今までもやもやしていた不調について考えたり、お互いを理解しあうきっかけとなり、社会の大きな変化につながっていくのだと思います
「“フェムテック”という言葉をつくったことが時代にぴったりはまり、世界中で広まった」
女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックが脚光を浴びている。
「最近、身のまわりで関連製品やサービスが増えてきた実感があり取り上げました。アンケートでも使っている声が多くありましたね」と大江さん。注目される理由とは?
「まず、女性(female)にテクノロジー(technology)をかけ合わせたた“フェムテック”というキーワードをつくったことが大きいと思います。これまで女性関連用品やサービスの分野には、重要なのに表で話しづらい雰囲気がありました。そこに女性だけでなくテックという言葉を盛り込んだワードが登場したことで、テクノロジーブームにうまく組み込まれて拡大しました。さらに女性のウェルビーイング(幸福度の高い状態)に寄与するところがSDGsやESG投資と同じように誰かが快適になるために投資する今の時流にも合っています。テクノロジーを活用したデータにより男性も客観的に理解し関わりやすい世界になってきたことも、企業や投資家からの関心が高まる要因だと思います」
ここ数年の盛り上がりには、女性が悩みを公に話しやすい環境が整ってきた背景も。
「『#MeToo』運動をはじめとした、#をつけることでみんなに知ってもらえる環境がSNS内で急速に広まった影響が大きいです。女性特有の悩みを話す場がなかなかなくゼロから問題提起するには力や勇気が必要だった状況ら、悩みを共有できる環境が整ったことでムーブメントになったのではないでしょうか」
アンケートでも約半数が「社会の雰囲気が生理について話しやすくなった」と回答。
「この結果を見て嬉しかったです。こうした変化は生きやすさにつながっていくと思うんですよね。テレビ局にも、広く情報を届けるマスメディアとしての役割があると思っています。たとえば、テレビ東京では去年、生理について肩ひじ張らずに語り合う『生理CAMP』という特別番組を工藤里紗プロデューサーが企画。放送後、大きな反響が寄せられました。『とりわけ声が大きいテレビというメディアを生かして、我慢せずに話していいことなんだなと気づいてもらい、周囲に相談したり、病院に行きやすくなったりする環境をつくる一助になれば』と彼女は話していました」
「テクノロジーの力を借りて、自分を知りお互いを理解できれば働きやすさにつながる」
読者がフェムテックでの解決を期待する女性ならではの健康の悩み第1位は生理。
「生理周期管理アプリを使っている人も半数以上いましたね。実は、日本での健康管理アプリの老舗『ルナルナ』は昨年20周年。フェムテックという言葉が生まれる前から多くの人が生理周期を管理する経験をできていたという意味では、日本はフェムテックのスタートが早かったんですね。医療費が高く病気予防のためフェムテックが必要とされる海外と比べて、日本は国民皆保険制度が整い医療費が安く病院にかかりやすいことから、快適に過ごすためのフェムテックが進化している側面があるようです」
約8割の人が「フェムテック関連の新製品やサービスを積極的に試したい」と回答。
「最近の生理周期管理アプリは、生理の日だけでなくその日の体調も記録でき、『この日は頭痛があった』『お腹が痛かった』『イライラした』などのデータを見返すことによってPMSが自分にあるかどうか、傾向も把握できるようになっていますよね。『自分の不調の原因はこれかも』と気づければ、毎月のQOL(生活の質)も変わる気がします。また予測できることによって、事前に有休を申請したり、早めに薬を飲むなど具体的な対策ができるようになっていけば働きやすさにつながる面もあるでしょう。多くの女性が働くようになった世の中で、まず己を知り、相手に伝え、お互いを理解しあうことが働きやすい環境づくりのために必要だと思います。そのサポートやケアができるフェムテックの製品やサービスがある今は恵まれているなと感じます」
今後、ますますフェムテック市場は拡大していくと大江さんは語る。
「女性の社会進出がこれからさらに盛んになる国も多くありますし、よりこの動きは世界の大きな潮流になっていくと思います。また、女性に限らず健康にまつわる悩みは誰もが抱え得る課題です。たとえば気圧の変化による頭痛など、これまで我慢ですませていた様々な不調の管理や予防のサポートをしてくれるようなテクノロジーが増えていくといいですよね。多様な人々がそれぞれ快適に過ごし、お互いを理解するために、テクノロジーを駆使する。フェムテックの盛り上がりは、そんな社会になっていく兆しなのではないかと思います」
『生理CAMP』が本になりました!
大江キャスターが本文で紹介している、テレビ東京で放送され話題になった番組が本に。生理の“あるある”や“なるほど”が満載。『生理CAMPみんなで聞く・知る・語る!』工藤里紗監修 集英社 1540円
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/中田陽子〈MAETTICO〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2021年11月号掲載