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【韓国文学とフェミニズム〈後編〉】エッセイから日韓の比較文化論まで、今読んでほしい韓国文学4冊

女性の生き方が世界的に大きく変化するなか、共感と反感の嵐を巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』。以降もパワフルな作品が続々誕生する韓国現代文学の魅力とその背景にあるものを、書評家・江南亜美子さんと翻訳家・すんみさんが語り合う。前後編の後編。

前編はこちら
江南亜美子さん

書評家

江南亜美子さん


大学で教える傍ら、主に日本の純文学と翻訳文芸に関し、新聞や文芸誌で数多くの書評を手がける。「BAILA」カルチャーコラムも連載。共著に『韓国文学ガイドブック』など。

すんみさん

翻訳家

すんみさん


早稲田大学で学んだ後、翻訳家に。訳書に『屋上で会いましょう』『女の子だから、男の子だからをなくす本』、共訳書に『彼女の名前は』『私たちにはことばが必要だ』など多数。

東アジア的な同調圧力へのあらがい。イ・ランのパワフルな言葉

江南(以下、江) 
小説は苦手だからエッセイがいいという人には『 話し足りなかった日』 はどうかな? ミュージシャンで作家でマルチな才能を持つイ・ランが既得権益を持ってる特権階級に吠えつつ、お金の問題とかきっちり異議を申し立てたりするエピソード満載です。

すんみ(以下、す) 韓国社会が暗黙のうちに了解してる枠組みに疑問を持ち続け、自ら外へと出ていく人ですね。すがすがしい。韓国でも日本でも生きづらい、息苦しいと感じる若い女性層に、枠の外においでと手招きしてくれる。そこが受けているんだと思います。ちなみに、彼女は高校時代から雑誌に連載をしてたんです。漫画を描いて自分で編集部に売り込んだというインタビューが印象的でした。

 無鉄砲で才能きらめくタイプか。こんなふうに空気を読まない人がアーティストであってほしいですよね(笑)。本質的にフェミニズムが土台にある一冊。

 社会に屈せずありのままの自分を好きになろうと励ます本が、韓国発で日本にも多く翻訳されてますが、彼女のパワフルな言葉は特に元気になれます。

『 話し足りなかった日』

『 話し足りなかった日 』 イ・ラン著 オ・ヨンア訳  リトルモア 1980円

イ・ラン著 オ・ヨンア訳
リトルモア 1980円
無知を恐れず、勉強し、対話を重ねたい。よりよい世界を見据えた本音の見せ方が、若者を中心に共感を呼ぶイ・ランのエッセイ集。

社会をしっかり描く韓国文学。日韓関係の未来へのヒントも

 色々見てきましたが、やっぱり社会問題を描く作品にすごいパワーを感じます。『キム・ジヨン』で名の知られたチョ・ナムジュの『サハマンション』は、密入国者や障害者や老人などが同じマンションで共棲し、幸福を探していくんだけど……。

 社会から疎外された最底辺の人々が集められた都市というSF設定ですが、力のない人たちが経済発展から置き去りにされてきた歴史が下敷きになってます。階級をめぐる話で、韓国では持って生まれた財力を匙にたとえ、金か銀か土かで区別することがありますが、ここの人々は土の匙しか持っていない。そもそも匙など持たぬ人たちかもしれない。

 今なら「親ガチャ」と言われるものですね。でもナムジュさんの特徴は、悲惨な設定でも、どこかユーモアの温かさがあること。フィクションの力を信じている作家なんだなと感じます。

 そこはぜひ読者に知ってほしい! 笑える要素もちゃんとありますから。

『サハマンション』

『サハマンション』 チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳  筑摩書房 1650円

チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳
筑摩書房 1650円
『82年生まれ、キム・ジヨン』作家が送る、格差が可視化された奇妙な都市国家「タウン」に住む人々の、抵抗とケアの物語。歴史にあらがって。

 『Lの運動靴』は異色作で、民主化運動のデモで死んだ学生の運動靴をどう修復するべきかと、修復家があれこれと悩む。史実と緻密なリサーチに基づく、ノンフィクション寄りのフィクションです。

『Lの運動靴』

『Lの運動靴』 キム・スム著 中野宣子訳 アストラハウス 1980円

キム・スム著 中野宣子訳
アストラハウス 1980円
1987年、韓国の民主化運動のデモ中にある青年が命を落とす。彼の遺品をどう修復すべきか。歴史の継承の問題を考えさせる一作。

 運動靴は歴史のメタファーでもありどう事実を継承するか、加工を抑制するか、考えさせますね。関連して、番外編として入れた斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』は日本の韓国文学ブームを牽引した立役者による比較文化論になっていて、こういう人が日韓両方の文学を見ててくれたから今のブームもあるのだとわかります。朝鮮戦争をめぐる歴史の継承を考察するパートはすごく納得できました。

 様々な物語の背景を知るのにぜひ『韓国文学の中心にあるもの』を参照してほしい。政治がときに冷え込んでも、カルチャーはずっと交流があり影響しあって熱かったのが日韓関係です。両国ともに問題点を乗り越えるにはどう生きればいいかと真剣に模索する人々がいる。連帯の可能性を信じ、これからも文学交流を続けたいですね。

『韓国文学の中心にあるもの』

『韓国文学の中心にあるもの』 斎藤真理子著 イースト・プレス 1650円

斎藤真理子著
イースト・プレス 1650円
韓国文学を精力的に邦訳する著者の、蓄積された知識と鋭い洞察力に触れて。韓国文学愛がほとばしる、硬派で誠実なエッセイ評論。

撮影/kimyongduck 取材・原文/江南亜美子 ※BAILA2022年11月号掲載

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