「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月紹介するのは、現在、歌舞伎座で上演中の『十二月大歌舞伎』で、大活躍中の中村梅枝(ばいし)さんと中村児太郎(こたろう)さん。若手の女方として、今大注目の二人にバイラ歌舞伎部のまんぼう部長とばったり小僧が突撃取材。今月、二人が坂東玉三郎(たまさぶろう)さんとともに、日替わりでヒロインを演じる『阿古屋』をはじめ、出演演目への思いを語ってくれました!!
↑中村梅枝さん(右)と中村児太郎さん(左)。取材は歌舞伎座で行われました。ビシッとスーツが決まっていて、超カッコいい二人。これが舞台では美しい女方に変わってしまうのだから、歌舞伎ってすごいです。
↑現在、歌舞伎座で上演中の「十二月大歌舞伎」の特別ポスター。昼の部『壇浦兜軍記 阿古屋』で、昨年に引き続き、トリプルキャストで阿古屋を演じる、坂東玉三郎さん(中央)、中村梅枝さん(右)、中村児太郎さん(左)。美しく迫力満点!
■阿古屋になるために一番大切なのはハートだった!
まんぼう部長 まずは『阿古屋』のお話から。昨年に続いて、この12月も玉三郎さん、梅枝さん、児太郎さんの3人が日替わりで、同じ阿古屋の役を勤めていらっしゃいます。『阿古屋』は、琴・三味線・胡弓の三曲を演奏することもあって、高度な技術と表現力が必要とされる女方屈指の大役。20年以上、玉三郎さんだけが演じてきた演目だそうですね。昨年、初演のときは、お二人もたいへんご苦労されたとか。どんな感じだったのか教えてください!
梅枝 昨年の公演は、早くにスケジュールが決まっていたので、歌舞伎には珍しく練習期間が1年あったんですが、ずっと楽器と寝食をともにするという感じで、かなりきつかったですね。
児太郎 そうですね。僕もずっと『阿古屋』はやりたいと思っていました。稽古を始めると途方もない道のりだということがわかるわけです(笑)。ひとりでは絶対心が折れていたと思います。でも、お兄さん(梅枝さん)が一緒にお稽古してくださって、アドバイスしてくださったから頑張れました。お兄さんが支えでしたね。
梅枝 楽屋でもよく一緒に練習したね。
児太郎 そうですね。二人がずっと楽屋で楽器を弾いているんだから、みんな、さぞかしうるさかっただろうなぁ(笑)。
↑「僕たちバイラに出て大丈夫ですか?」「SixTONESとか出てる雑誌に、僕たちで大丈夫ですかね?(笑)」と梅枝さん&児太郎さん。いやいや、こちらこそ、バイラ歌舞伎部取材におつきあいいただき、本当に感謝です!
梅枝 だけど、僕も優太(児太郎さんの本名)がいてくれて、すごく助かりました。芝居も楽器も集中していくと、なかなか客観的に見れなくなるんですね。そういうとき、彼がヒントを言ってくれたり。逆に僕がアドバイスしたり。お互いにいろんなことが言い合えたのは、非常に有難かったです。
児太郎 いや、お兄さんが超器用だとすると、僕は超不器用(笑)。お兄さんのアドバイスは、いつも自分の引き出しにないことで、「あ、なるほど、だからこう見えるんだ!!」と思うことばかりでした。すごく勉強になりました。
梅枝 僕の場合、自分のテリトリー内で何でもやりがちになっちゃうのが課題なんです。動き、セリフ、感情的なものもみんなそうなので大きく見えない。その点、彼はものすごく芸が大きい。それは歌舞伎俳優にとって絶対必要なことなんですね。だから僕がしていて、彼がしてないことっていうのが、僕の中では大きなヒントだったりするんです。そういう意味で、すごく得るものが多かったです。
↑「歌舞伎で、ひとつの役に1年間かけてアプローチすることって、ほとんどないので、『阿古屋』の体験は、本当に貴重でした」と梅枝さん。知的で落ち着いた語り口がとっても素敵で、ばったり小僧はうっとり。
ばったり小僧 玉三郎さんからはどんなアドバイスがあったんですか?
児太郎 これは他の演目でもそうですけれど、「何もしなくてもその役に見えることが大事」ということをよくおっしゃいます。確かに玉三郎のおじさまを見ていると、座ってるだけで阿古屋になってらっしゃるんですよね。とにかく心を出しなさい、自分のすべての力を出して芝居をしなさいって。細かなことで怒られることはほとんどなかったですね。三味線でミスしても次に行きなさいという感じでした。
梅枝 そうだね。おじさまは気持ちでお芝居をする人だから、「阿古屋として存在してなければならない」とつねにおっしゃってましたね。舞台に登場するまでに、阿古屋がどういう人生を歩んできたのかを掘り下げないと阿古屋にはなれないし、阿古屋の感情も表現できないって。「歌舞伎といえば型」だとみんな思い込んでいるけれど、そういう固定概念を捨てろともおっしゃってました。
↑「歌舞伎界に同志みたいな存在って、なかなかないんですよ。でも、お兄さんとは、『阿古屋』のお稽古を通して、すごくおつきあいが深まりました」と児太郎さん。低いトーンの声が男っぽくて、まんぼう部長もドッキドキ。
部長 一番たいへんだったのは何ですか?
児太郎 一番あせったのは、初めて阿古屋の鬘をつけて、衣裳を着たときですよね。衣裳が20~30キロくらいあって、めちゃくちゃ重いわけですよ。全然動けないし、息を吸っても声が出ないし、楽器が全く弾けないということに衝撃をうけました。そういう中で、役の気持ちになって表現をする、声を出す、楽器を弾く、ということの難しさ。
梅枝 今までの稽古は何だったんだと思った本当に。
児太郎 絶望とかじゃなくて、 僕ら終わったと思いましたよ(笑)。
小僧 でも、そこから頑張って挽回したということですよね!?
梅枝 挽回してないです。二人で手を取り合って傷を舐め合ってただけ(笑)。 もう祈るしかないです。本番では足が震えましたね。
児太郎 まさに荒波に浮かぶ船ですよ。次から次へと試練がやってくるからそれをこなしていくと、チョン(拍子木の音)って終わっちゃうんです(笑)。
↑昨年、初めて『阿古屋』を演じるにあたり、最後は「祈るしかなかった」という梅枝さんに大爆笑の児太郎さん。たいへんな思い出を振り返りながらもすごく楽しそうで、本当にお芝居が好きなんだなぁと、ばったり小僧は思ったのでした。
梅枝 それと舞台に立った回数も昨年は6回と少なかったんですよね。しかも3日~4日おきだったので、毎回初日みたいな感じで、体で覚えるっていうことがなかなかできなくて。玉三郎のおじさまに日々ダメ出しして頂いて、その課題をこなしていくだけで精一杯でした。
児太郎 そこは葛藤がありましたね。1週間くらい続けてやっていると体の使い方とか見えてくるものがありますけれど、間が空くと、毎回振り出しに戻る感じで。あれはすごくたいへんでした。
部長 でも、それだけ頑張れば、やっぱりすごく成長するでんしょうね。
梅枝 度胸がついたし、芝居の表現の幅が広がったし、役者としての基礎体力はすごく上がったなと。阿古屋のあと、他の役をやってみて感じました。何より、お客様の目に耐えられるようになったというのが一番大きいと思います。おかげで、ある程度、自由に舞台上で動けるようになりました。 阿古屋をやらせていただいて良かったなって思いました。
↑昨年、2018年12月歌舞伎座『阿古屋」で、三味線を弾く中村梅枝さん。強さの中にもしっとりとした女性らしい雰囲気が伝わってきます。
児太郎 確かに肝が据わって、ちょっとやそっとじゃ焦らなくなりましたね。だって、『阿古屋』のときのお客さんのありえない沈黙。閉館したあとの歌舞伎座かって思うくらい客席が静かで(笑)。
梅枝 そう。劇場ってこんなにシーンとなるんだと思った。
児太郎 あの沈黙の中で何かトラブルが起きても次に行くしかないんです。細かいことを気にしてたら終わる前に精神が崩壊しますよ(笑)。玉三郎のおじさまも「根性決めて行け」とおっしゃられたけれど、根性決めないとできないという作品でした。
小僧 なるほど~。あんなに美しい女性を優雅に演じていながら、心の中では「根性決めるぜ!」って感じなんですね(笑)。そのギャップ、すごすぎます。歌舞伎俳優の体力と気力、ハンパないです!
↑昨年、2018年12月歌舞伎座『阿古屋』で、琴を弾く中村児太郎さん。阿古屋の覚悟を感じる毅然とした姿が素敵です。
■12月は、トライアスロン2周並みの超ハード日程!?
部長 今月の歌舞伎座のポスター、すごく素敵です♪ 今回は、阿古屋の衣裳のお三方が横並びで。みなさん、美しくて、迫力があって、壮観です!!
梅枝 これは感慨深かったですね。玉三郎のおじさまと3人並んでというのは。
児太郎 そうですね。「あの玉三郎のおじさまと!」っていう(笑)。 家に飾りたくなりましたもん。自分がダメだった時にちゃんとやれよという励みになりそうで。
↑昨年、2018年12月歌舞伎座『阿古屋』で、阿古屋を演じる中村梅枝さん。意匠を凝らした素晴らしい衣裳に目が釘付け。しかしこれは見るからに重そう!! 着ると動けなくなるというのも納得。
部長 昨年に比べると、今年の『阿古屋』は少し余裕がある感じですか?
梅枝 じつは今年はスケジュールが決まるのが遅かったので…。 『阿古屋』というと、皆さん、楽器にフォーカスされるけど、結局、大事なのは楽器じゃないんですよ。
児太郎 そう! 本当にそうなんです。今回はセリフのテンポを勉強しました。昨年のお兄さんのビデオを観たら、やっぱりテンポがいいんです。台詞と台詞の間の行間で心情が変わっているのを感じるんですよ。でも、僕は全部の間が長い。そこを一つずつ丁寧に見直しました。
梅枝 基本に立ち返って、玉三郎のおじさまに言われたことを一からやり直す。あとは、この一年でやってきた役をどれだけ阿古屋に活かすことができるかだと思います。
児太郎 それと今回は公演回数も各々8回に増えましたし、2日連続できる日があるっていうのも大きいですね。昨日できなかったことにフォーカスして翌日できるので楽しみです。
↑「『阿古屋』では、衣裳や楽器など、周りに支えられている部分が大きな作品で、トラブルが起きたときも一人では解決できないことが多いんですよ。だから何か問題があったときも、『ま、しょうがないよね』って、大きく受け止められるようになりました』(児太郎さん)
小僧 それにしてもお二人は、今月『阿古屋』だけじゃなくて、他にもいろいろ出ているんですね。昼の部と夜の部、ほぼ出ずっぱりじゃないですか!? アンビリーバボー!
児太郎 とくにお兄さんは今月たいへんです。『阿古屋』だけでもたいへんなのに、『神霊矢口渡』のお舟って……。これを同じ日にやるというのは、あり得ないことだって改めて思う(笑)。
梅枝 お舟って、すごくいい役なんです。女方の役の中でもこれだけずっと出ずっぱりで、芝居をしつづけるのは珍しい役で、それができるのはとてもありがたいことですけれど、お稽古を始めて、これはたいへんなことになったと思いました(笑)。
児太郎 今月お兄さんには、お給料を倍ぐらい出してほしい(笑)。
梅枝 もっと言って(笑)。
↑2019年12月歌舞伎座『神霊矢口渡』。(左から)娘お舟=中村梅枝、渡し守頓兵衛=尾上松緑。お舟は、悪人の父親を裏切って、好きな人を助けるという情熱的な役柄。「こういう梅枝さんも好き!」とまんぼう部長も感動。
児太郎 たぶんね、玉三郎のおじさま以外、阿古屋をやったことある人がいないから、みんな阿古屋のたいへんさがわかってないんだと思う(笑)。座って、楽器弾いて、と(笑)。でも、トライアスロン並みにきついんだから。
梅枝 お舟もトライアスロンみたいだから、つまり僕はトライアスロンを2周してるんだね(笑)。もし僕が倒れたら、やるのは優太だからよろしく。
児太郎 いやいや! そうなったら僕は棄権します!!(笑)
梅枝 でも、『矢口渡』には、優太も傾城うてな役で出てくれて、すごく有難いと思ってます。これに出たら、お昼ご飯を食べてる時間もなくなっちゃうから、出なくていいよと言ったのに、出たいと言ってくれて、すごく嬉しかった。
↑「『阿古屋』は、傾城であること、景清の恋人であること、身ごもっていて母であること。女性として三つの大きな像を複合させた役です。傾城としての大きさの中に、恋人として、また母としての弱さみたいなものを表現できないとダメだと思っています」(梅枝さん)。
児太郎 お兄さんのことはすごく尊敬しているので、しっかりした時代物に一緒に出て、いろいろ勉強したいなと思っていたんです。 とくにお舟はいつか自分もやりたいお役なので、お兄さんがやるのをそばで見て。息の吸いとかを肌で感じたいと思っています。
小僧 なんて素敵な先輩・後輩愛♪ 新作の『本朝白雪姫譚話』にもお二人とも出演ですね。
児太郎 『白雪姫』では、白雪姫のお母さん役なんですけれど、プレッシャー、半端ないです。
梅枝 僕は鏡の精の役で、「鏡よ鏡」って呼ばれないと出ていかなくていいからラクなんですけれど、優太はたいへんだね。芝居を回していくのも彼。芝居を盛り上げて作って行くのも彼。
↑2019年12月歌舞伎座『本朝白雪姫譚話』。(左から)野分の前=中村児太郎、鏡の精=中村梅枝。衣裳は、ドレスではなく、日本を舞台にしているので、着物だそう。「役者はみんな真面目にやって、でも、お客様が帰るときに喜劇だったねと思うようなストーリー展開かも」と梅枝さん。 鏡の精役の梅枝さんと意地悪なお母さん役の児太郎さん、二人のかけあいに注目です!!
児太郎 お母さんはひとりで悩み倒しているので、本当にセリフが多いんですよ。しかも昼の部の『たぬき』もセリフがめちゃくちゃ多くて……。
梅枝 優太、頑張れ!!(笑)
小僧 さらにお二人で踊る『村松風二人汐汲』もあります。すごいっ。
梅枝 『汐汲』は、元々ある作品を今回はお能風に玉三郎のおじさまが寄せて作った、いわゆる能がかり的なところもある舞踊なので、僕たちが知っている『汐汲』とは違うんです。
児太郎 違うけれど、音は一緒っていう。だから余計覚えられない。一番困るパターンですよ(苦笑)。
↑2019年12月歌舞伎座『村松風二人汐汲』。(右)松風=f中村梅枝、(左)村雨=中村児太郎。昼の部、『阿古屋』を玉三郎さんが演じるとき(Aプロ)には、二人は舞踊にも出演。「息の合った踊りが素敵!」とばったり小僧も感激。
梅枝 でも、この超ハードな1か月を乗り切れば、役者として一回りも二回りも大きく成長できるんじゃないかと思うので頑張ります。
児太郎 というか、大きくなるしかないですからね(笑)。
小僧 では、あらためて12月、歌舞伎座の見どころを!
梅枝 今月は『阿古屋』が注目されていますが、他にもたくさん出ているので、ぜひいろいろご覧いただきたいですね。どれも役柄がまったく違うので、僕も演じるのが楽しみですし、みなさんも昼夜、両方見れば、歌舞伎の面白さがだいたいわかっていただけると思います。
児太郎 そうですね。昼の部はAプロ、Bプロ(梅枝さんの阿古屋)、Bプロ(児太郎さんの阿古屋)、そして夜の部と、ぜひ4回は見てください(笑)!
梅枝 ぜひ歌舞伎座へお越しください!!
↑2019年12月歌舞伎座『たぬき』。(左から)柏屋金兵衛=市川中車、妾お染=中村児太郎。『たぬき』でも児太郎さんは大活躍。「中車さん演じる金兵衛の妾・お染役で、これがまたセリフが多いんですよね。おかしさと切なさが入り交じった喜劇の傑作です」。中車さんと児太郎さんのかけあい。笑わせてくれそうです!!
■クリスマスに一番ほしいものは、この12月をもう一度!?
部長 お二人の話からは、お互いに信頼していて、リスペクトしあう気持ちが伝わってきて萌えました♪ あらためて、お互いのことをどう思っているのか、教えてください。
梅枝 優太は、大物ですね。大物。肝が座っているし、舞台度胸もあるし。で、これは去年『阿古屋』を見て思ったんですが、彼は中村歌右衛門という女方の大きな名跡の家系で、玉三郎のおじさまも歌右衛門さんから『阿古屋』を引き継いでいるんですが、優太はその歌右衛門の血を色濃く受け継いでるなと思いました。雰囲気もそうですし、芸の大きさもそうですし、すごいなと思いましたね。
児太郎 梅枝お兄さんは、なんでもできるすごい人ですね。僕に持ってない全てを持っていらっしゃる。たとえば自分のニン(雰囲気、らしさ)ではない、とおっしゃる役でも舞台を観るとそうは全然見えない。僕が考えるよりも4レベルくらい上のものをなさるので、本当にすごいと思います。
↑「お二人でちょっとキャッキャしてください」というカメラマン・つゆっきーのリクエストに、「キャッキャって、なんですか、それ!?」と言いながらもキャッキャッしてくださったお二人。でも、キャッキャしすぎて写真がブレすぎて掲載できませんでした(笑)。梅枝さん、児太郎さん、すみませーん!!
部長 では、自分自身を分析するとどんな人間だと思いますか?
梅枝 僕は芝居以外のところでは、熱しやすく冷めやすいです。コツをつかむのは早いので、何でもパッとできるけれど、冷めるのも早い。ゴルフも一時期、熱中してましたけれど、この頃、全然やってないし。最近、ハマッてるのはTWICEくらいです。
小僧 TWICEって、TTの?
梅枝 そうです(笑)。
小僧 もしやK-POP好きですか!?
梅枝 いえ、全然。以前、あるショーで使われている曲がかわいいなと思ったら、TWICEの曲だったんですよ。それでYouTube を見たりしていたら、関連動画をすごく勧めてくるじゃないですか。それで最近、すっかりハマッていて。今の心の癒しはTWICEです(笑)。
↑「歌舞伎って、芝居があれば、踊りもあるし、武家社会を描いている話があれば、町人の暮らしを描いているものがある。古典もあれば、『白雪姫』みたいな新作もあります。すごくいろんな要素があるので、歌舞伎初心者の方は、何かひとつ面白いなと思うものを見つけてもえたらいいですね」(梅枝さん)
部長 児太郎さんは、ご自分のことをどんな人間だと思っていますか?
児太郎 自分はまだ超子供なんで、嬉しいことがあれば喜ぶし、駄目だなと思うと落ち込むし……すごく気分屋だと思います。
梅枝 そうなの? 僕は優太のこと、気分屋だと思ったこと、ないぞ。一度もない。
児太郎 えっ? じゃあ違うのかな……もはや自分のことがわからなくなりました(笑)。
梅枝 でもほら、すごく人に好かれるじゃない。人懐っこいところはあるし、愛されキャラだと思うよ。
児太郎 そう見えるんですけれど、じつは誰にでもオープンってわけじゃなくて、閉じているところがあって。劇場でも自分から人の楽屋に入っていくことはほとんどないし、人から呼び止められないと話さないことが多いです。 お兄さんの部屋は気にせず入ってますけどね。
梅枝 で、話が長い(笑)。
児太郎 お兄さんの部屋に入ると大体30分ぐらい話してますね。
↑「歌舞伎初心者には、イヤホンガイドがお勧めです。言葉はわかりづらかったり、意味がわからなくて戸惑う場合もあると思うんですが、イヤホンガイドがあれば、そのストレスも解消されると思いますよ」(児太郎さん)
部長 本当に仲良しですねぇ。児太郎さんの心の癒しは何ですか?
児太郎 映画を観るのが好きですね。とくに古い昔の映画が好きで、一番好きなのは『風と共に去りぬ』。1ヶ月にいっぺんぐらい観て、涙を流してます。
小僧 マジですか!? それは誰目線で観てるんですか?
児太郎 ヒロインのスカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)です(笑)。いや、これも玉三郎のおじさまに勧められて、あるとき、映画館で観させて頂いたら、ヴィヴィアン・リーがすごい芝居するんですよ。彼女は人智が及ばない何かを持っているので、役者としてすごく憧れますね。
↑普段は「女方」を感じさせない二人ですが、とにかく手が男性とは思えない美しさ!! その優雅な動きにも目が奪われます。まんぼう部長は、つい見惚れてしまったのでした。キャッ♪
小僧 それからぜひ好きな女性のタイプを教えてください。梅枝さんはすでにご結婚されていますが、素敵だなと思う女性のタイプはどんな人ですか?
梅枝 僕は自分の考えを持っている人。仕事にしても何にしても自分のやることにちゃんと責任を持ってできる人。そういう女性に惹かれます。
児太郎 僕もみんなに合わせてしまう人より、自分の意見をちゃんと言える人がいいですね。それとかわいいか、きれいか、で言えば、きれい系の人が好き。たとえば黒木メイサさんとか菜々緒さんとか、キリっとしたタイプの女性が好きですね。
小僧 では、最後に今年のクリスマスに欲しいものを教えてください!
児太郎 全然ないです。僕、物欲が皆無なんです。
梅枝 僕もないなぁ。強いて言えば、『阿古屋』で使うときの新しい三味線とか。
↑とても仲良しの梅枝さんと児太郎さん。「お二人で向かい合う感じで」というカメラマン・つゆっきーのリクエストで、しばしみつめあう……。ちょっ、近い近い!
部長 物じゃなかったら、何かありますか?
梅枝 僕は可能なら、この12月をもうひと月、欲しいです。
児太郎 あ、それは僕も欲しい!
部長 ええっ、今月をもう1度、やりたいってことですか!?
梅枝 はい。きっと楽(千穐楽)になったら、もう1回やりたいと思うんですよ。
児太郎 絶対そうなりますね。 そして最後は1ヶ月間、全部自分で阿古屋をやりたくなるんでしょうね。
部長 ハァーッッ!? さっきまで、あんなに今月は辛いだの、しんどいだの言っていたのに、最終的に「もう1回やりたい」だなんて……なんていう人たちなんでしょう!!
小僧 ホンモノの芝居バカですね。もしくは相当なMか……。
部長 そうじゃなくて! 私はお二人の歌舞伎にかける情熱に感動しているの!! 梅枝さん、児太郎さんの雄姿を観に、今月は歌舞伎座へ通うわよ!
小僧 ガッテンです。お二人が根性入れてる姿、目に焼き付けたいと思います!!
↑「十二月大歌舞伎」の特別ポスター。夜の部では、グリム童話「白雪姫」を歌舞伎化した新作『本朝白雪姫譚話』を上演。梅枝さん、児太郎さんが尊敬する玉三郎さんが白雪姫を演じます。その麗しい姿に思わずうっとり
■「十二月大歌舞伎」
2019年12月2日(月)~26日(木)
東京都 歌舞伎座
<昼の部>
●Aプロ(2・3・8・9・14・15・20・21・26日)
『たぬき』
柏屋金兵衛:市川中車
妾お染:中村児太郎
太鼓持蝶作:坂東彦三郎
狭山三五郎:坂東亀蔵
隠亡平助:中村萬太郎
芸者お駒:市川笑也
松村屋才助:中村松江
門木屋新三郎:大谷桂三
隠亡多吉:片岡市蔵
芝居茶屋女房おはま:市川齊入
備後屋宗右衛門:市村家橘
女房おせき:市川門之助
『村松風二人汐汲』(むらのまつかぜににんしおくみ)
村雨:中村梅枝
松風:中村児太郎
『壇浦兜軍記 阿古屋』(だんのうらかぶとぐんき あこや)
遊君阿古屋:坂東玉三郎
秩父庄司重忠:坂東彦三郎
榛沢六郎:坂東功一
岩永左衛門:尾上松緑
●Bプロ(4・5・6・7・10・11・12・13・16・17・18・19・22・23・24・25日)
『たぬき』
柏屋金兵衛:市川中車
妾お染:中村児太郎
太鼓持蝶作:坂東彦三郎
狭山三五郎:坂東亀蔵
隠亡平助:中村萬太郎
芸者お駒:市川笑也
松村屋才助:中村松江
門木屋新三郎:大谷桂三
隠亡多吉:片岡市蔵
芝居茶屋女房おはま:市川齊入
備後屋宗右衛門:市村家橘
女房おせき:市川門之助
『保名』(やすな)
保名:坂東玉三郎
『壇浦兜軍記 阿古屋』(だんのうらかぶとぐんき あこや)
遊君阿古屋: 中村梅枝( 4、5、10、11、16、17、22、23日) / 中村児太郎(6・7・12・13・18・19・24・25日)
秩父庄司重忠:坂東彦三郎
榛沢六郎:坂東功一
岩永左衛門: 市川九團次
<夜の部>
『神霊矢口渡』(しんれいやぐちのわたし)
渡し守頓兵衛:尾上松緑
娘お舟:中村梅枝
傾城うてな:中村児太郎
下男六蔵:中村萬太郎
新田義峯:坂東亀蔵
『本朝白雪姫譚話』(ほんちょうしらゆきひめものがたり)
白雪姫:坂東玉三郎
鏡の精:中村梅枝
野分の前:中村児太郎
輝陽の皇子:中村歌之助
浦風の局:中村歌女之丞
従者晴之進:坂東彦三郎
家臣郷村新吾:中村獅童
『阿古屋』のストーリー:平家滅亡後、源氏方に追われる平家の武将・景清の行方を取り調べるために、恋人の遊女・阿古屋が連れて来られる。景清の居場所を知らないと言う阿古屋に、代官・重忠は、琴・三味線・胡弓の三曲を演奏させる。心に偽りがあれば、演奏の音色が乱れるはずだというが、阿古屋は乱れなく、見事に演奏し、解放されるのだった。
■公演チケット情報
チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹ほかで発売中。
■歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」チケットに関するご案内
取材・構成/バイラ歌舞伎部
撮影/露木聡子
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
バッタリ小僧……歌舞伎歴2か月。やる気はあるが知識ゼロの新入部員。若いイケメン俳優より、本当はオーバー40歳の熟年役者好き。