宝塚歌劇団の退団から約1年。常にチャレンジを続け、誰も知らない新しい表情を見せてくれる明日海りおさん。トップ・オブ・トップから、新たな道のトップへ。進化を続ける彼女が見た景色や、“ 夢のまた先”を追う── 。
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変化していくことが怖かったけれど受け入れてもらい、勇気が持てた
女優進出直後のBAILA初登場インタビューから約10カ月。この日は、着替えがしやすいように、という理由で選んだタイトなワンピース姿でスタジ
オ入りした明日海さん。宝塚退団から1年、肩のラインはいっそう華奢に、髪は肩につくほどの長さまで伸び、より女性らしさが増した。
「連続テレビ小説『おちょやん』で、日本髪の襟足を結い上げるのに長さが必要で。(BAILA初登場時のショートボブの写真を見て)わ~、なんだかもう懐かしいですね! まだ男役と女性の中間。この頃は長年自分が素敵だと思ってきた理想像が少しずつ変わることが怖かったし、ファンの皆さんがどう受け取るかも不安だったけれど、温かい声をいただけたのが励みになって。新しいことに飛び込んでいけるようになりました。この1年で、女性らしい見せ方も少しずつコツを見つけてきました。たとえば、これまでは肩を内側に入れ背中を広くして男性的な体つきにしてきたけれど、今は女性らしい体つきになるよう、肩を開いて腕を外側にキープ。首も伸びて華奢な印象になるんです。夏までは頑張って鍛えていたのですが……。今は『ポーの一族』で少年を演じたので、少し男性的な体型に戻り、背中が広がったところ。『おちょやん』の撮影で毎日きものだったこともあり、横隔膜が開き、首が前に出た和服仕様の体型でもあるので、筋肉をつけ直したいなともくろんでいます。今日の写真にも変化は感じますが、また1年後に見たら『このときの体型はまだまだ進化中』と思うのかもしれない(笑)」
初めての映像で向き合ったのは「女性を演じる」ということ
退団後の1年も引く手あまたで、多忙を極める毎日。未知の世界だった映像作品にもチャレンジした。現在放送中のドラマ「青のSP」は、昨年の夏に撮影。ピアノを弾く姿にも注目が集まった。
「ピアノは1カ月ほど練習しましたが、私の集中力に限界があり、一日5〜6時間しか弾けなくて。本番はたくさんのカメラに囲まれ、目の前で主演の藤原竜也さんが見ている中での撮影だったので、『失敗できない!』とものすごく緊張しました。現代の女性を演じるのも初で、『“そのまま”でいいよ』と言われても、私には“そのまま”がわからない(笑)。『女性を演じなくては』という意識が働いて苦労しました。思い出深い初の映像作品です」
「おちょやん」の役も、もちろん女性。“朝ドラ”の現場だけにやはり緊張したかと思いきや……。
「もちろん最初はドキドキでしたが、毎朝お茶の間に笑顔を届ける作品、私自身が楽しまなきゃ!と思ったら余計な力が抜けて、意外と緊張せずに臨めました。所作指導の先生が宝塚時代もお世話になった方だったことも心強かったですね。私が演じる高峰ルリ子は個性的ですし、主演、相手役がいるシーンに色をつける役。きもの姿の所作には気をつかいますが、女性を演じようと意気込むことなく自然に演じられました。現場にもようやく落ち着いていられるようになってきたのかな」
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初演より難しかった『ポーの一族』よりリアルなエドガーに出会えた
退団後の初舞台は『ポーの一族』。宝塚トップ時代に演じ“伝説”と呼ばれるまで極めた経験がある作品。余裕を持って向き合えたかと思いきや「最初はつらくて、焦っていました」と話す。
「演出家は宝塚版同様、小池修一郎先生でしたが、まったく新しい作品を作るという姿勢で、振付師も違う方、セットもまるっきり新しいもの。出演者の皆さんも『ポーの一族』を初めて演じるなか、私だけが宝塚時代の稽古で言われたことや振りを覚えている状態。一度リセットする作業は想像以上に大変でした。加えて、ソーシャルディスタンスの中での稽古。やりたいことをきちんと伝えられるのかと頭を抱えました。そんな中でも、技術とパワーのあるカンパニーの皆さんは、私が発信したい芝居を受け取り、的確な表現で返してくださって。本当にありがたかったですね」
宝塚版と異なるのは、やはり男性の存在。
「声量が大きく、体力もある男性との芝居はパワーがいるのだと知りました。体力を消耗するので負けないようにと、稽古中のお弁当は2個に増やしました(笑)。今回は“トップではない”ということも大きな変化でしたね。宝塚時代の初演では、少年役だけれどもトップスターとしての存在感も必要。その両立を自分も周りも意識していました。男声かつ少年、という声色の難しさも、周囲が男性だと意識しなくても自然と少年になれて。みんなを引っ張るトップらしさもいらない。リアルなエドガーに近づけた感覚がありました」
『エリザベート』二役という壁も必ず乗り越えられると信じて!
さまざまな“初めて”に挑戦した怒濤の一年。振り返って、「ありがたいことに今は宝塚のトップ時代よりも多忙かもしれません。年齢を重ねたからそう感じるだけかな?」と笑う。春には宝塚でも演じた『エリザベート』のスペシャル・ガラ・コンサートに出演。芝居で演じるのはトート、エリザベートの男女二役。またもや高いハードルが!
「思いがけない挑戦状が届いた感じ(笑)。トートは男役のキー、シシィ(エリザベート)は高い頭声。低い声に慣れた体で、高い声を出すのは難しいので要研究です。使い分けを修得しなければ」
キャストも豪華。明日海トートの相手役は花組時代のトップ娘役、蘭乃はなさん、花乃まりあさん。明日海エリザベートの相手役は、4月に宝塚を退団する雪組トップスター、望海風斗さん。
「蘭乃、花乃は離れてからの期間が長いので、久しぶりに組めるのが楽しみ。まさかまた一緒に舞台に立てるなんて! そして、望海がトート、私がエリザベートを演じるのはともに初挑戦。『エリザベート』はトップお披露目公演でも演じた特別な作品ですが、歌の技術もお芝居ももっといろいろ経験してから演じてみたかった、という思いもあったので、再び巡り合えて嬉しい。あれから何年もたち、望海も私もトップを経たので、『絶対素敵なものになるはず!!』と楽しみにしています」
明日海りお
あすみ りお●1985年6月26日生まれ、静岡県出身。2003年、宝塚歌劇団入団。2014年、花組トップスターに就任。2019年11月に退団。現在は女優として活躍。連続テレビ小説「おちょやん」(NHK)、「青のSP」(関西テレビ放送)が放送中。『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』(2021年4月5日〜)に出演が決定!
撮影/曽根将樹〈PEACE MONKEY〉 ヘア&メイク/山下景子〈KOHL〉 スタイリスト/大沼こずえ〈eleven.〉 取材・原文/櫻木えみ 構成/斉藤壮一郎〈BAILA〉 ※BAILA2021年4月号掲載