書評家・ライターの江南亜美子が、アラサー女子におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、ユーモアあふれるエッセイ&小説2冊をご紹介します。陽光さす初夏には気持ちの明るくなる本はいかがでしょうか?
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
今、旅を語ることは難しい。旅ってなんだっけ。乗り継ぎ空港で過ごす4時間はどんなだった? 本書はそんなコロナ禍にこそ読みたいバックパッカーの倹約的旅行記。中央アジア、コーカサス、東欧を巡るが、観光情報は少なめ、あくまでもポップで小説のようにも読める一冊だ。
ウズベキスタンでは気温50℃のなか冷房の壊れた列車でロシア人のおばあさんに優しく熱中症を介抱され、ジョージアのクタイシではゲストハウスの名物じいさんから到着早々にワインの洗礼を受ける。
アルメニア編では、町へのバス車中で知り合ったクリスティーナとのやりとりや、日本人バレリーナのマオちゃんとの町巡りの様子がセンチメンタルに描かれていくのだが、旅人はミツバチのようだと著者は言う。
〈世界中を飛びまわって思い出という甘い蜜をため込むのだ〉
この旅の記録の中心にあるのは、多くが人と人との交流だ。痛めた足首に薬草の湿布をあてがわれたり、ナマのクストリッツァ監督を見るべく映画館に入れてもらったりと、著者は先々でホスピタリティを感じる。旅は土地だけでなく、人を知る体験でもある。いつかまた旅へ。コロナ後の世界を夢見るために必要な本。
『四分の一世界旅行記』
石川宗生著
東京創元社 1980円
人間なる小宇宙巡り未知の驚きだらけの旅
小説・翻訳家の著者は、仕事とPCを携えて世界を巡る。情報があふれる現代、旅の醍醐味は失われがちというが、行かねばわからないこともいっぱい。旅情に誘われること必至のユニークな旅行記。
これも気になる!
『エレジーは流れない』
三浦しをん著
双葉社 1650円
「夢も希望もないのがそんなに悪いのかー‼」
風光明媚だがさびれた温泉地の商店街に住む男子高生の怜は、悩み多きお年頃。二人いる母親、決断が迫られる進路……。周りの友達は能天気で。著者らしい明るさでマジメ青年の日常を描く青春小説。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2021年7月号掲載