市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第2回の展覧会はポーラ美術館開館20周年記念展「モネからリヒターへ」。「光」という普遍的なテーマのもと、印象派の名画からコンテンポラリーアートまで、約120点もの収蔵品が一堂に会する大規模な展覧会をご案内します。
今月の展覧会は…ポーラ美術館 開館20周年記念展 『モネからリヒターへ』ー新収蔵作品を中心に
旅して見に行く価値がある「光」がテーマの多彩なコレクション
新緑が美しい季節、ちょっと足を延ばして箱根のポーラ美術館へ行ってきました。開館20周年を記念して開かれている展覧会は、印象派の名画からコンテンポラリーアートまで、約120点もの収蔵品が一堂に会する大規模なもの。「光」という普遍的なテーマのもと、ジャンルを超えて並ぶ名画があり、一人の作家、一つの時代を集中して見られるコーナーもあり、と多彩な展開。抽象画の色の重なりの美しさを見ながら、キャンバスに最初に塗られた色の存在に気づいたり、隣同士の展示に隠された共通点を読み解いたり。生で触れて感じる情報量の豊かさに、時間を忘れてしまいます。
特に、実物を見て大きく印象が変わったのが、ロニ・ホーンの《鳥葬(箱根)》。木立のなかにたたずむ巨大なガラス作品は、日差しの入り方によってまったく違う見え方をします。上からのぞいてみれば、底まで続く透明感に驚き、表面にたたえられた水が風にゆらぐと、内部の光も変化する。確かに何かが宿っているような感じがしました。写真や映像だけで「見た気」になっているともったいないぞ、と思うのは、こういうときです。
国立公園の自然に囲まれたポーラ美術館は、訪れる季節や時間によって景色が変わり、そのランドスケープを取り込む非日常の空間としての楽しさがあります。それに箱根は、温泉に美味しいものと、見どころの多い観光地。都会のせわしなさの合間を縫って、まじめな目的意識で見るアートとは少し違う、「美術館“も”あるよね」という気楽さも、肩の力を抜いてくれる気がします。そんなふうにしてできた余白の部分に、アートが素直にしみ込んでくるのかもしれません。旅の時間をつくって、わざわざ行く価値のある場所だと思います。
(左)クロード・モネ『睡蓮の池』 1899年
(右)ゲルハルト・リヒター『抽象絵画( 649-2)』 1987年
今回の展覧会で話題となった展示。現代の抽象画を代表するリヒターの作品(左)と、おなじみ、モネの印象派絵画『睡蓮』(右)、"光"をとらえた二つの絵画が、時を超えて並び合う。見比べられるのが新鮮!
ロニ・ホーン『鳥葬(箱根)』2017-2018年 ©Roni Horn
“忙しい日常を離れて、アートの世界に浸る時間は温泉のように“いい気分” ”
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…ポーラ美術館学芸員 工藤弘二さん。
市川 新収蔵品が80点!その数にもバリエーションの豊かさにも驚きました。どんな基準で選ばれているのですか?
工藤 19-20世紀美術が中心の従来のコレクションの拡充がひとつ。また近年では、現代作家や歴史の陰に隠れていた女性作家の作品にも力を入れてきました。
市川 現代作品の中でも、リヒターの『抽象絵画(649-2)』は昨年、約30億円で落札されてニュースになりましたね。実物を前にして「おお、ここに来たのね!」と思いました。
工藤 私たちもオークションの動向をドキドキしながら見守っていました(笑)。どの作品でも、新たに購入を決めるときには「うちにあるこのコレクションと並べて展示するといいな、うちでならこう見せられる」ということは考えています。
市川 なるほど。新しい“買い物”で美術館の個性が育っていくというのは、ファッションにも似ていますね。新しい服を手持ちのワードローブに合わせたら魅力的、みたいな。
工藤 確かに近い感覚があります!今、ここでしか見られない作品同士の対比には、ぜひ注目してみてくださいね。
訪れたのは…ポーラ美術館
ガラスをたっぷりと用いた建築も見どころのひとつ。エントランスの吹き抜けには、ケリス・ウィン・エヴァンスのネオン管を用いた作品『照明用ガス…(眼科医の証人による)』(2015年)が。これもまた、様々な光の変化を見せてくれる新収蔵作品です
杉本博司『Opticks 036』2018年
【展覧会DATA】
ポーラ美術館 開館20周年記念展
『モネからリヒターへ』ー新収蔵作品を中心に
~9/6 ポーラ美術館
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
9時〜17時(入場〜16時30分)
休館日/会期中無休(※悪天候による臨時休館あり)
観覧料/¥1800ほか
https://www.polamuseum.or.jp/
ファッションモデル
市川紗椰
1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
ワンピース¥46200/ボウルズ(ハイク) バッグ¥44000/CPR TOKYO(アニタ ビラルディ) イヤリング¥15400・ブレスレット¥15950/ジェンマ アルス(ジェンマ アルス) 靴¥26400/シップス インフォメーションセンター(マウロデパリ) リング(右手)¥18700/アグ リング(左手)¥15400/ショールーム233(ナタリー・シュレッケンベルグ)
撮影/今城 純 ヘア&メイク/井上祥平〈TRAVOLTA〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2022年7月号掲載