書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、三浦しをんの『ゆびさきに魔法』と、ケリー・リンクの『白猫、黒犬』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「ひとの心と生活を支える輝きを放つ」ネイリストの夢と野望
自分へのねぎらいとお手入れの象徴であるネイルケア。指先がきれいだと自信を持てる人はきっと多い。丁寧な施術が売りのネイリスト・月島のもとには訳ありのお客さんが集まる。巻き爪が痛む居酒屋の大将や、ネイルで母親失格の烙印を押されないか心配する琴子などだ。下町に店を構えた気安さからか、人と人とはつながる。月島はキッズスペース完備の夢を抱き始める。
そしてもう一人、お忍びのお客が。人気のイケメン俳優だ。男性がネイル好き? 世間の常識は意外と手ごわい。
月島と後輩の星絵が、誠実かつ純粋に客を喜ばせ、ネイルに向き合う姿は美しい。きっとあなたも元気になれる一冊だ。
『ゆびさきに魔法』
三浦しをん著
文藝春秋 1980円
指に魔法をかけるネイリストは今日も腰痛を抱えつつ施術する。お客さまの顔が幸福になるから……。日々の小さな希望を描いた長編作。『まほろ駅前多田便利軒』や『舟を編む』に続く、三浦しをんらしいお仕事小説。
これも気になる!
『白猫、黒犬』
ケリー・リンク著 金子ゆき子訳
集英社 2970円
「頭の中のすべてが暗闇」万華鏡のような短篇小説集
白猫の大麻農園、莫大な財産の分与法、夜な夜な聞かされる物語。現代アメリカ文学を代表する奇想作家が放つ、童話を基にした夢と現実のはざまの7作品。
イラスト/chii yasui ※BAILA2025年2・3月合併号掲載