書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、上畠菜緒の『イグアナの花園』と、平野紗季子の『ショートケーキは背中から』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「君はどうして誰かの特別になりたいの?」爬虫類ラブ×婚活小説
流れ星のように瞬間的な動物たちの話し声。それを聞ける風変わりな少女は人よりも動物と心を通わせる。空気を読むのが苦手な美苑は学校には友達がいない。でも屋敷の中庭があれば満足。傷ついた蛇の世話などに日々は忙しいのだ。植物学者だった父が急逝したのちは、父の同僚に託されたイグアナのソノと言葉を交わしつつ、やりたいことに邁進する。だが14年後、厳格な母から予想外の通達が。それは半年以内に結婚相手を見つけよというもので……。
「寂しくなんてないよ」。葛藤しながら、迷いながら、自分の人生のプライオリティを定めていく美苑の姿に、読者はきっと勇気づけられる。心温まる長編小説だ。
『イグアナの花園』
上畠菜緒著
集英社 2090円
動物と話のできる美苑はとくに爬虫類を愛でてきた。父の遺したアトリエでの気楽な生活。だが母からの厳命で結婚相手を探すことに。まずマッチングアプリに登録し……。『しゃもぬまの島』以来の著者の第二小説。
これも気になる!
『ショートケーキは背中から』
平野紗季子著
新潮社 1870円
『味って時々、世界のすべてだ』消えてしまう食べ物への愛
食べることと世界の理解は同義と語る著者の、食への情熱に満ちたエッセイ集。留学中の飢え、最高の朝食、味覚の拡張。どこを読んでも美味な一冊。
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年12月号掲載