書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、吉本ばななの『下町サイキック』と、高瀬隼子の『新しい恋愛』をレビュー!
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「ただ好きな人たちを眺めていたい」ささやかな日々の暮らし
吉本ばななの新作は、現代人の生きづらさを優しく解きほぐし肯定する、全年齢対象のポジティブな物語だ。人のかもし出すオーラが見える中学生のキヨカは、その特別な能力で近所に住む友おじさんの仕事場や周囲の環境を「掃除」する。今は別々に暮らす父親は、母との離婚後、人目を引く若い美人とつきあい、自殺未遂をしてしまった。下町で、噂もすぐに回る小さな土地のなか、どう助け合って生きるのか。
みんなで作る餃子、犬との暮らし、気づかいのおしゃべり。「人が人をただ単に好ましく思うさらっとした思いは、宇宙と同じくらい自由で広い」。苦しさより喜びの多い人生へと、読者を導く一冊だ。
『下町サイキッック』
吉本ばなな著
河出書房新社 1870円
特殊な能力をもつキヨカは、母と近所の人々を助け、また助けられて、力強く思春期を生きていく。下町的な場所の温かさと人々の連帯を描く長編小説。還暦を迎えた吉本ばななの、エバーヤングな物語。
これも気になる!
『新しい恋愛』
高瀬隼子著
講談社 1760円
「これからのこの世界の恋愛」まだ知らないかたちの関係性
一筋縄ではいかない5つの恋愛をとらえた短編集。学生時代、会社、家庭内、ありふれているからこそ個別的な恋愛を、俊英作家がクール&ダークに描く。
イラスト/chii yasui ※BAILA2024年11月号掲載