30歳で出版した著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』がベストセラーに。わかりやすい文章と私たちの感覚にぴったりくる本のセレクトや評論が大人気の文芸評論家・三宅香帆さん。執筆デビューまでの経緯、プライベートで好きなものを教えていただきました。
読書する時間を守り続けることが、人生の最大優先事項なのかも!

働きながら好きなものを見極め続けていました
執筆活動に加えて、各メディアでもひっぱりだこの三宅さん。文芸評論家になったのは、学生時代にバイト先の書店員として書いたブログがきっかけだったのだとか。
「名著を紹介するブログがバズり、『人生を狂わす名著50』という本を出さないかというお声がけが。書評や批評でお金がもらえるの? これが文芸評論家という仕事?と、当初は不思議な気持ちでいっぱいでした」
大学院を修了後は、IT企業に就職。
「執筆を続けたかったので副業OKの会社へ。入社一年目は仕事を覚えながら3冊の本を出しました。WEBマーケティング職をしていたのですが、数字を相手にする仕事はとてもやりがいがあり、東京生活も楽しい、でも睡眠不足は嫌だし……とバタバタしていて。読書の時間はほとんどなくて。そんな経験が、新書の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の源泉になりました」
“もっと落ち着いて読書をしたい!”と、会社員生活にピリオドを打ち、その時期に結婚も。そして再び京都で暮らすことに。
「結婚は、自分の中に“夫”という新たな文脈やコミュニティが増えた感覚。東京にいるときは人と会う予定を入れがちだったのですが、京都で夫と暮らすようになってからは人と丁寧に接する、文章を書く、本を読むという人生の中で大切なことのバランスをうまくとれるようになりました」
自分の“好き”を極めるコツとは?
「情熱を注ぐものに対し、他者との違いを恐れないこと。私のデビュー作は、本から与えられた影響を徹底的に自分の言葉で言語化したもの。偏愛が高じて周りから浮いても気にしません。好きの先にある新しい世界を信じ、読書&執筆を続けています」
HISTORY
| 2012年 | 京都大学文学部に入学。 |
| 2017年 | 京都大学大学院に在学中、 |
| 2019年 | 就職&上京。文芸評論家と会社員の兼業生活に入る |
| 2022年 | 28歳で会社を退職。 |
| 2023年 | 『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(中央公論新社)など、 |
| 2025年 | 前年の30歳で出版した |
三宅さんの素顔をひもとく5つのキーワード
「好きなものがはっきりしているほう」と分析する三宅さん。熱意を注ぐモノを聞くと、等身大の30代らしさが見えてきました。
1.本を読むことへの 執着が強め!?
三宅さんのすべての原点は「読んで調べる」に尽きるとか。「子どもの頃から、読んだ本をきっかけに気になったことを深掘りしていくのが何よりもの喜び。"読む"という好きなことを守るにはどういう仕事をすればいいか!?とも、ずっと考えていて……。学生時代には出版社に入社することも考えたのですが、『編集の仕事って飲み会が多いらしい』と噂で聞いて。飲み会続きで本が読めないのは困るなと思った記憶があります。噂が本当かどうかはわからないんですけどね(笑)」。ちなみに将来の夢は自分が読んだ本の書庫を作ること。「小さいときからブレてません! 本の状態を良好に保つには日差しを避けたほうがいいそうなので、地下室の書庫が作れる日を夢見ています」

この部屋でYouTubeの動画を撮影することも
「同じ作品を何度も読み返すタイプなので、本の整理は悩みの種です。いつか書庫を作ったときのためにも……(笑)」
2.古典文学のオタクです
大学院時代は『万葉集』を研究。「10代の頃に読んだ『なんて素敵にジャパネスク』と、古文の授業で和歌にまつわる物語集の『伊勢物語』に触れたのがきっかけ。『伊勢物語』の元ネタが奈良時代末期に作られた『万葉集』と知り興味を持つように。『万葉集』の歌は表現が大らかで、まだ解明されていないことがたくさんあるという点もオタク心をくすぐりますね(笑)」。バイラ世代へのおすすめ古典文学は『方丈記』とも。「作者の鴨長明は、"実家は太いのだが、権力争いに敗れたミニマリスト男子"。短い文章の中に書いてあるぼやきなどが、『人って今も昔も変わらないな』と面白くて。大人になるほど共感できます」
3.ファッションは根っからのきれいめ派
「コンサバすぎないきれいめ服が定番」という三宅さん。「30代に入ってからは今日の撮影で着ているような、きれい色が好きという気づきも。柄ものはあまり選ばず、パールなどのリングやイヤリングでアクセントをつけるのに凝っています。よく買い物するショップは『トゥモローランド』」。SNSでもよくファッションブランドをチェックするとか。「『L’AUBE BLANC』はディレクター・楫真梨子さんのスタイリングや上品なたたずまいも参考にしています。本を出したら自分へのご褒美に買い物をすることが多いのですが、『なぜ働いていると~』を出版した昨年の夏は、思い切って『ザ・ロウ』のバッグを購入しました」

「結婚二周年の食事で着たのは『L’AUBE BLANC』のワンピース。普段はきれい色を選ぶことが多いのでモノトーンは珍しいかも」

「出版&30歳に記念で買った『ザ・ロウ』のトートバッグ。PCも入る大きさなので、東京への出張はこのバッグ一つで行くことが多いです」
4.昔からの憧れの地・京都在住
新選組の栄枯盛衰を描いた小説『燃えよ剣』で、京都愛が覚醒したのが中学時代。「親にねだり、史跡巡りという名の聖地巡礼に連れていってもらいました」。その後、京都に住みたい一心で京都大学に入学。「当時文学部は就職活動で難航すると言われていたのですが、どうしても京都へ行きたくて勉強を頑張りました(笑)」。東京での会社員生活を経て、再び京都の生活を満喫中。「人との距離感がつかず離れずで居心地がいい、東京に住んでいたときのように予定を詰め込みすぎずにすむ……など、好きなポイントはいっぱい。何よりも喫茶店で、心ゆくまで読書できるのが嬉しいですね」
5.推しに振り回されることが幸せ!
「試行錯誤して前に進む人やグループが好き!」と語るとおり、推しヒストリーもその系譜に則っている。「中学時代に没頭した新選組から始まり、アイドルだと松井玲奈さん(元SKE48)や橋本奈々未さん(元乃木坂46)。ほかにも朝月希和さんが在籍していた宝塚歌劇団……と、数々の推しが私の人生を彩ってくれました」。最近はtimeleszの追加メンバーを決めるオーディション番組"タイプロ"にもハマっていたそう。「オーディションを見た結果、松島聡さん推しになりました。すごく優しい心を持っている方なんだなと感動して、Instagramも追っています!」

宝塚歌劇団ならではの“非日常感”にどはまり!
「宝塚歌劇団の月組公演『PHOENIX RISING』を観劇した日の写真。ほかのエンタメでは味わえない高揚感に浸りました」
リアルな着眼点で注目を集める三宅香帆さん


文芸評論家
三宅香帆さん
みやけ かほ●1994年生まれ、高知県出身。文芸評論家。労働と読書の歴史についてまとめた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)が新書では異例の30万部以上の売り上げに。“好き”を仕事にしているバイラ世代でもある。
撮影/天日恵美子(人)、柳 香穂(物) ヘア&メイク/小澤 桜〈MAKEUPBOX〉 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2025年6月号掲載
























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