価値観を変える出会いは、大人にだって訪れる。映画『ミーツ・ザ・ワールド』で主演を務めた杉咲花さんと原作者の金原ひとみさんが語る、自分と他者と、世界を好きになる方法について。


金原ひとみ
かねはら ひとみ●1983年8月8日生まれ、東京都出身。『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。同作で芥川賞を受賞。主な作品に『TRIP TRAP』『マザーズ』『アタラクシア』『アンソーシャル ディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『ナチュラルボーンチキン』『YABUNONAKAーヤブノナカー』などがある。

杉咲 花
すぎさき はな●1997年10月2日生まれ、東京都出身。『湯を沸かすほどの熱い愛』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、『市子』で同賞優秀主演女優賞を受賞。主な出演作はドラマ「おちょやん」「アンメット ある脳外科医の日記」「海に眠るダイヤモンド」、映画『片思い世界』など。
知りたいと思う気持ちが新しい世界への扉になる
──映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、杉咲さん演じる27歳の銀行員・由嘉里が、キャバ嬢のライとの出会いをきっかけに新たな世界への扉を開いていく物語です。お二人は、価値観を変える出会いを経験したことは?
金原 私はフランスに住んでいたときに(2016年から6年間)、自分と違うタイプの人とつきあわなければいけないシチュエーションに直面することが多くて。日本では美意識が合う人とばかり一緒にいたのですが、合わない人と異国で情報交換をしているうちに、ちょっとずつ他者への苦手意識を打開できた経験はあります。
杉咲 私は多様な役を演じたり関わったりする中で、作品で学んだことが自分の生活にフィードバックされることがあります。
金原 特に得るものが多かった作品はありますか?
杉咲 『市子』という映画ですね。それまでは「役のことを誰よりも理解しなきゃいけない」と考えていましたが、「わかる」という感覚ほど危ういものはないのかもしれないと、演じながら感じたんです。「他者や役柄を100%わかることは無理だ」ということをまず受け入れることが、相手を知る出発点だと感じました。
金原 私は「この人、苦手だな」と思うと、その人のことを小説に書きたくなるんです。
杉咲 え、面白い!
金原 『ミーツ・ザ・ワールド』の場合、ライは私にとって親しみ深い人物で、由嘉里は遠い他者でした。最初は「なんで自分の考えばかり押しつけるんだろう?」とイライラしながら書いていたのですが、どんどん由嘉里に感情移入していって、最後にはものすごく好きになれたキャラクターでした。
杉咲 わからないから書きたくなるって、自分の世界だけで完結していないということですよね。金原さんのお話を聞いて、人のことを知りたいと思うのは、優しさが巡ることなのかなと感じました。
金原 確かに最近は小説に優しさらしきものが出てきていると感じます。昔は全然優しくなかったから(笑)。人との出会いを通して、少しずつ自分も変わってきました。

「苦手な人に会うとその人のことを小説に書きたくなるんです」(金原ひとみ)
「相手を知りたいと思うのは、優しさが巡ることなのかも」(杉咲花)
──由嘉里はなかなか自分のことを好きになれないキャラクターですが、お二人が自分の好きなところを挙げるとすると?
金原 素直なところは、得な性格だなと思います。もちろん言いたいことが言えないが故に得られる感情もあると思いますが、思ったことを直接的に言うので、私を嫌いな人は寄ってこない(笑)。人間関係は円滑に回っていると思います。
杉咲 私も、だんだんと言いたいことが言えるようになってきたと思います。もともとは周りに流されやすいほうで過剰な“気にしい”なんです。みんなが好きなものを好きになろうと努力してしまうタイプでしたが、この仕事を始めてからは、自分だけの好きなものがあっていいんだと思える機会が増えてきて。そういう自分になれてきたことは嬉しいことだなと思います。
金原 杉咲さんの好きなことって?
杉咲 ガールズグループの「HANA」が大好きです! ファンクラブにも入ったくらい夢中になっています。
金原 個性的でいいですよね。
杉咲 どれだけ落ち込んでいても「HANA」が歌っている姿を見るときだけは笑顔になっている自分がいて。プロデューサーのちゃんみなさんが、彼女たちに経験や愛情を惜しみなく受け渡している姿にも深く感動しました。自分は誰かのために何ができるだろうと考えたりもして。
金原 そこまで考えるんですか。
杉咲 やっぱり結局は、いかに人に優しくできるかということなのではないかと感じています。
金原 推しによって己の生き方を内省してるんですね。私も音楽が好きなので、「この締切を書き終えたらライブに行ける」と頑張れたり、苦手なことの前に音楽を聴いて盛り上げたり、日常的に救われています。好きなことを見つけられたら生きる上で大きな支えになるし、自分の世界も広がりますよね。

©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
映画 『ミーツ・ザ・ワールド』
出演/杉咲花、南琴奈、板垣李光人ほか 原作/金原ひとみ 監督/松居大悟
10月24日(金)全国公開
擬人化焼肉漫画をこよなく愛する27歳の由嘉里(杉咲花)は、周囲が結婚・出産をしていくことに不安を感じ、婚活をスタート。ところが参加した合コンで酔い潰れ、歌舞伎町の道端で美しいキャバ嬢のライ(南琴奈)に助けられる……。
(杉咲さん)チョーカー¥49500/ザ・ウォール ショールーム(ジュスティーヌ クランケ) その他/スタイリスト私物
(金原さん)ドレス¥34100/エンメ(オペラスポーツ) リング¥13750/ソワリー 靴¥48400/ヴィヴィアーノ その他/本人私物
撮影/野田若葉〈TRON〉 ヘア&メイク/宮本 愛〈yosine.〉(杉咲さん)、小澤 桜〈MAKEUPBOX〉(金原さん) スタイリスト/池田ミレイ 取材・原文/松山 梢 撮影協力/バックグラウンズ ファクトリー ※BAILA2025年11月号掲載


























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