【作家・宮木あや子のアラサー女子恋愛ウォッチング出張版】 ワケあり恋愛相談室

BAILAの人気連載「作家・宮木あや子のアラサー女子恋愛ウォッチング」出張版！　編集部に届いた一筋縄ではいかない恋愛悩みに、作家・宮木あや子さんが真摯に、真剣に、愛ある視点で答えます。

　いつも、自分から好きになった人とお付き合いができません。

好きなことをして生きていたら気付けば34歳。オリンピックまでに結婚して子供を産むことを目標としていたのですが、延期が発表されて少し拍子抜けしています。

　現在年上の独身男性にアタック中なのですが、連絡を取り合ったり食事に行ったりと仲は良く、数回お泊まりもしています。「私のことをどう思っていますか？」と聞いたこともあるのですが「う～ん…」と言って考え込まれてしまいました。（「まだ気持ちが追い付いていない」そうです）その後コロナで自粛期間に入ってしまい、会うこともできないし……と関係が止まってしまっています。

　どうしてもその男性をあきらめられない場合、これからどうすればいいですか？

【宮木さん】

　あなたの年齢が三十四歳で結婚を望んでいて、身体の関係もありデートもしているのに「私のことどう思ってる？」に対して結婚の意思を示さない年上の男性。絶対的にあなたのほうが弱い立場にいるという前提のもと、別れない方向で男性の種類別に何パターンか考えてみました。

・あまり恋愛慣れしておらず、あなた以外に女性経験がそこまで多くない純朴な感じの男性で主食が草（イメージ）

「まだ気持ちが追いついていない」＝単純に順番や攻め方を間違えた可能性があるので、仕切り直しをおすすめします。このタイプの男性は「普通の子」を好む傾向にあります。この場合の「普通」は、服装が適度にダサく化粧も薄く、家庭的で料理上手でお金がかからない、男がどんなに優柔不断でもニコニコ笑って許してくれる、ときには優しくリードしてくれる「イマジナリーお母さん」みたいな人間を意味します。もし先に寝ちゃった理由が「自分から誘ってしまった」場合、彼があなたのスピード感に着いて行けていない可能性があります。なので、ダサい服でお部屋に行き、一緒にプレステとかして、夕飯にはカレーやハンバーグやオムライスを作ってあげ、向こうから誘われない限りはセックスせずに帰るデートをしばらくつづけると良いです。たぶんこういう「普通」によって彼の気持ちはあなたの気持ちに追いつくでしょう。ただし、これらのママ的行為に耐えられないもしくはプライドが許さない場合、あなたはその男性よりも自分のほうが好きな可能性があります。長く付き合っても結婚しても将来的にはイライラすると思うので、無理はせずほかの男性に目を向けてみるのも良いかもしれません。

・家賃百万円のタワマンに住んでる、愛車がゲレンデヴァーゲンで趣味がダイビングで休日はグローバルな仲間と一緒にバーベキューとかしてる感じの馬主で主食がロマネコンティ（イメージの限界）
「まだ気持ちが追いついてない」＝遊ぶにはいいけど今のままじゃ恋人に昇格することはない、の可能性があります。この場合、追いつく、というよりも平行に走っているので、交わらせるためにはあなたのほうが「昇格するレベル」にトランスフォームする必要があります。彼にとって有益な付加価値を身に着けてください。多くの女性がよりスペックの高い男子を好むのと同様、このタイプの男性は「文化・芸術方面の知識が豊富で、社会的にある程度の地位を築いている、収入の高い自立した女性」もしくは「絶世の美女、実家が富豪、すごい特許を持っている、など既に付加価値がある女性」および「女子大生」を好む傾向にあります。バイラの読者だったら女子大生方面は年齢的に無理、そして既に付加価値があったらとっくにプロポーズされてると思うので、そのどちらでもないことを前提に、まずはいろんな場所に出向き様々な文化を学び、彼にとって興味の対象となる知識や人間関係を築いてください。現実的な意味での「おもしれー女」を目指すのです。男性の仕事や趣味や交流関係を鑑みて最適な学びの場を選びましょう。こういった行動を「めんどくさい」と思う場合、相手よりも自分のほうが好きな可能性があります。長く付き合っても結婚しても虚しい気持ちになると思うので、無理はせずほかの男性に目を向けてみても良いと思います。

・猫飼ってる関西人
諦めて次いったほうがいい。理由は三つ目の相談の返答に記載します。

　恋愛感情の延長線上に結婚があることは多いけど、結婚は恋愛感情だけでは成り立たない、生活におけるギブアンドテイクの契約です。ギブとテイクがイコールの結婚を望むなら、なんらかの我慢をしなければ成り立たなそうなこの男性はやめたほうが良いと思います。幸せになってください。

　そろそろ結婚したいと思い婚活を始めました。良い感じの彼と出会い、いざお付き合いをと思った時に、彼がかなりのアイドルオタクと判明。平日の夜や休日も推し活動のため、デートの時間も限られている上、お金もつぎ込んでいるようです。私のことは好きだと言ってくれており大切にされているとも感じますが、自分よりも若くて可愛いアイドルに夢中になっている彼を見ていると、「このまま結婚しても、家庭よりも推しを優先するのだろうか」と複雑です。熱心な推しがいる男性とどう付き合っていけばいいですか？　

【宮木さん】

　こちらも、男性にこれといった問題がなくあなたを好ましく感じていること、あなたにとって彼は「恋愛対象」ではなく「婚活相手」であることを前提に、結婚に比重を置いた方向でオタクの種類別に何パターンか考えてみました。

・それほど多くない月収の半分以上を推し活に突っ込んでる重課金系オタク
生活が成り立たないので、説得して推し活費用を収入の一割に抑えてもらいましょう。こういうこと書くと「俺の金が目当てか！」と怒る男性もいますが、誰だって普通に「金銭的に余裕のある生活」がしたいですし、男性側も婚活相手が女オタクだったら、より可処分所得の高い職業人を望むと思います。大恋愛の末の駆け落ちとかならともかく、愛情値低めの結婚において、双方のお金は愛と同等のアイテムです。

・平均よりちょっと多めの月収の約一割を推し活に使用、芸能界やマスコミと一切関係ない仕事をしている常識的オタク
趣味の範囲内です。現在の収入が平均以上なら職業人として優秀ですし、こういうオタクは推しに貢ぐために仕事を頑張るので更に出世する可能性も高い。ただし子供ができたあとのお金と時間の使い方に関しては事前に相談しておいたほうが良いです。

・芸能界やマスコミに関係する仕事をしていて首にピンクのセーター巻いてて顔が黒光りしてる、オタクに見えない業界オタク（イメージ）
危険です。いわゆる「業界」の人は推しのアイドルとワンチャンあっちゃう可能性があり、リアルに「アイドルが浮気相手」になりえます。そこらへんに目をつぶることができれば、幸せかどうかは別として良い暮らしはできると思います。もし相手の男性が一般人で、あなたが彼にドルヲタをやめてほしいなら、こういった業界オタクと一般オタクの格差をつきつけて目を覚まさせるのも一つの手ですが、間違いなく嫌われます。

　あなたが何かのオタクではないという前提でお話ししますと、一般オタクの感覚では「恋人/配偶者」と「推し」とはまったくの別物です。どっちのほうが好き、とかではなく生きている次元が違うのです。この差に関しては、私が文章で説明するよりも身近にいるなんらかのオタクと話をしたほうが理解できるはず。お付き合いをつづけるにあたって、推しにお金と時間をかけていることにモヤモヤするかもしれませんが、車や音楽（バンドをやってるタイプの）やパチンコが趣味の男性も、お金と時間の使い方は似たようなもんです。好きだと言われているなら、その言葉を信じてみてください。もしあなたが「婚活」を超えたところで彼に恋愛感情を抱いており、もっと会いたい、もっと愛してほしいなら素直にそれを言葉にして伝えましょう。言わないと判らないだろうから。

　なお、近所のオタク（二十九歳男性）にリサーチしたところ、もし彼女ができたら、受け入れてくれると嬉しい、一緒に現場にも行きたい、ふたりで同じ時間を楽しめたら最高。とのことでした。相手の男性がどんなものを好きなのか、一度確認してみてはいかがでしょうか。ただ、この近所のオタクの推しの所属は「ラブライブ」という成熟した巨大コンテンツで、女性でも普通に楽しめる感じなのですが（私も一度だけライブ行った。超楽しかった）、相手の男性の好きなアイドルが、キャパ二百人くらいのライブハウスを中心に活動をしている、ツーショットチェキの収入で生計を立てているマイナーなアイドルなどだと、最初はちょっと「うわぁ……」ってなるかもしれません。それでも好きな相手と一緒に通っていたら、意外と楽しくなるかもね。

　『校閲ガール』大好きです、ぜひ宮木さんに相談したいことがあります。

20代半ばに、3年間付き合っていた人がいました。私は結婚して専業主婦になりたかったのですが、彼の人生設計とは異なり、嫌いになったわけではないのですが溝が深まり別れてしまいました。

　その後今の夫と出会い子供もできましたが、その元カレのことがどうしても忘れられません。夫のことも好きなのですが、一緒に暮らす中で嫌な部分が見えるとつい、元カレはこうだったのに……と比べてしまいます。元カレとは結婚に至らなかった訳ですし、その人と結婚していたら幸せだったかはわからないのですが、自分の中で一番愛された、一番幸せだった記憶が忘れられないのです。

　どうすれば、今の状況から抜け出せますか？

【宮木さん】

　わかる！　わかるよ！　私も夫のことは超絶大好きだけど未だに二十代前半のころに付き合ってて盛大に振られた、十三歳年上の猫飼ってる関西人が忘れられないよ！
　ただ、今もその彼と連絡を取り合っている、SNSでつながっている、とかなら今すぐそのつながりは断ったほうが良いです。つながっている場合、期待しちゃうから忘れられない、という可能性もある。私には子供がいないから子供のいる生活がどんなものかは想像しかできないけど、恋愛や結婚生活って自分と恋人/配偶者（と子供）をちょっとだけ騙しつづけることによって長期間うまくいくものだと思います。

　誰にでも秘密はあるし、隠したい過去もあるし、それを配偶者にすべて打ち明けなきゃいけない義務はない。アメリカのドラマではたいていヒロインが「秘密はやめて！　真実を話して！」と恋人に要求し、とんでもない秘密を知ったヒロインは一時的に恋人と破局しアルコールや薬物の依存症になりがちです。よくないよね。だから忘れる必要はないけど、配偶者や子供にその気持ちを知られることと、思い出を現在の時間軸で汚すのはダメです。どうか自分の記憶の中でだけ生かしてください。苦しくて仕方ない、彼が生きている限りは過去の思い出になんかできない、という場合は、もしあなたが漫画や小説を書ける人なら、彼を主人公にした漫画や小説を書いて自分の脳を騙してみてください。生身の人間がデータ（もしくは紙）になることによって彼は次元を移動します。ちょっと何言ってんのか判んないと思うけど、本当なんだ。同じ次元に存在しない人とは肉体的にどうこうなりようがなく、いくら好きでも物語の中の登場人物（推し）として愛でるに留まるのです。

　個人的な一例をあげますと、私は二度目の夫と付き合い始める直前、五歳年上の猫飼ってる関西人から盛大に振られました。めちゃくちゃ好きだったので振られたときの精神的被害は甚大だったのですが、当時の私は二十九歳の無職。年齢的にも金銭的にも失恋を引きずってる余裕などなく、とにかく早く立ち直って新たな人を探し次こそは結婚まで持ち込まねばならなかった。そこで私は「私は失恋などしておらぬ、精神状態も良好である」と自分を騙すために、その関西人が主人公のBL小説を書き始めました。「あの人は最初から私だけでなく女そのものを好きではなかった、実は上司（男）とデキていて、しかも受けだった」と泣きながら脳を騙し、一週間かけて三百枚くらい書いたころには「萌えをありがとう……上司と幸せになってね……」という晴れ晴れとした境地までうまいことたどり着いてました。
　

　べつにBLである必要はないです。これは私のただの趣味です。小説や漫画が無理でも、思い出を文章化する過程で泣くだけでもある程度は昇華できると思います。今は子育てがお忙しいでしょうから、少し落ち着いたら是非試してみてくださいね。ちなみに冒頭に書いた十三歳年上の猫飼ってた関西人ですが、さっき名前をネット検索してみたら逮捕されてました。マジで思い出は思い出のままにしておいたほうが良い。

宮木 あや子（みやぎ あやこ）

1976年生まれ。作家。’06年『花宵道中』で第5回女による女のためのR-18文学賞を受賞してデビュー。以来、美しく官能的な作品から、ユーモアあふれる作品まで幅広く発表。『手のひらの楽園』（新潮社）も好評発売中。