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【宇宙飛行士 野口聡一 × 大江麻理子スペシャル対談〈後編〉】野口さんに聞く! 宇宙ビジネスの今

2009年に米ヒューストンのNASAで行われた宇宙飛行士 野口聡一さんとの対談をきっかけに宇宙が好きになった大江麻理子さん。久しぶりの対談では、15年前から大きく変わった宇宙ビジネスの今について野口さんに教えてもらいました。

“地球全体のSDGs、サステナブルな環境づくりを宇宙に対しても考えていくべき時代に” SOICHI NOGUCHI

“地球全体のSDGs、サステナブルな環境づくりを宇宙に対しても考えていくべき時代に” 野口さん

僕たちの頭の上では今、2000機を超える人工衛星が飛んでいる

野口 現在、アメリカの宇宙産業で圧倒的に強いのがスペースX社です。

大江 あのイーロン・マスク氏が率いる民間企業ですね。

野口 創業20年あまりですが今はもう完全にスペースXが宇宙産業界を席巻しています。世界の人工衛星などの打ち上げ数の推移を見てみると、2013年には年間約200だった打ち上げ数が、2022年には10倍の約2000に。そのうち約1600がスペースXの運用する衛星通信サービス、スターリンクの衛星です。

大江 圧倒的ですね。しかし、衛星の増え方が急ピッチすぎませんか。

野口 今回のダボス会議でも、それがひとつのテーマになっていました。

大江 年間打ち上げ数に上限を設けるなど、何か世界でルールをつくったほうがよいような気がしますが。

野口 はい。でも今それをルール化する国や機関がどこにもないんです。上げたもの勝ちなんですね。色々な会社の衛星同士がぶつかり始めたときに、誰が対応するのか。衛星が壊れるだけなら新品を上げればいいですが、宇宙飛行士が乗っている宇宙船とぶつかったときどうするのかという話は実は手つかずです。国連は国家と国家の間の調整を行うので会社間の問題には入りようがない。

大江 それだけ衛星が増えると、宇宙ごみの増え方も加速しそうですね。

野口 はい。地球全体のSDGs、サステナブルな環境づくりというのを宇宙に対しても考えていくべき時代に入っていると言えます。宇宙ごみの増加もそうですし、よく言われているのが光害です。人工の光によって生じる問題のことで、増加する人工衛星の光のために夜空が明るくなりすぎてしまう。星空の見え方が変わり、動植物などへの悪影響もあります。宇宙空間でも経済活動が行われているという意味では、都市化によるビルの明かりで星が見えなくなるのと同じことではあるんですが、その変化の具合が極端なんです。

スペシャル対談

通信衛星の軍事利用などにより宇宙を制する者が権力を持つ可能性も

大江 今、ウクライナではロシアとの戦闘が続いていますが、その中でスターリンクの通信衛星も重要な役割を果たしています。地政学にも影響を与えていますね

野口 そこは大事なポイントですね。民間企業がインターネットが通じないところで通信できるようにと上げていたものが、軍事利用されている。

大江 そうなると、国と国の関係だけではなくて、スペースXやイーロン・マスク氏の意向次第で戦況も変わってしまうというか。随分大きな権力を、宇宙を制する者が握るのかもしれません。最近、人工衛星を打ち上げる国も増えていますね。

野口 そうですね。今、サウジアラビアやUAEも宇宙大国になりつつあります。宇宙の技術って思っているほど最先端ではない部分もあり、資金力とやる気と人材があればどこの国でも宇宙船を上げられるんです。

大江 有人宇宙飛行の起点となる国際宇宙ステーションの老朽化が進んでいます。運用は何年までですか?

野口 今のところ2030年ですね。

大江 その後どうするかというところで、今民間企業がいっぱい手を挙げていますよね。

野口 僕も今、そういう企業のお手伝いをしてるんですけれど、宇宙ステーションは地球の周りを地球が見えるところで回っていることに意味があるので、施設の利用は今後も残ると思います。月面は月面で今別の動きがあるんですけれども。行き先の駅である宇宙ステーションを一生懸命作ろうとしている中で、行く手段である乗り物の開発も重要です。

宇宙にものを打ち上げる低コスト化においてもスペースX社が圧倒的!

野口 最後に、宇宙にものを打ち上げるときのコストの変化について紹介しましょう。1キロのものを宇宙に持っていくのに、ずっと約1万ドルかかると言われていたんですが、少しずつ下がってきて、今なんと200ドルくらいまで下がってきてるんです。それを実現したのもスペースX社です。しかもスペースXだけがズドーンとコストが下がっています。

大江 ケタ違いの価格破壊ですね。なぜそんなことができるのですか。

野口 再利用です。同じものを使うのがうまくいった例なんです。たとえば東京からニューヨークに行くのにジェット機に乗りますよね。ジェット機ってだいたい100億円なんですよ。もしも1回飛んで使い捨てにしてしまうと、100人乗っていくと仮定して、一人一シート1億円です。でも実際には燃料を詰め替えて帰ってきて、何百回何千回も使うから10万円くらい? 今はもう少し高いかもしれませんけれど、再利用することで価格を下げているんですね。宇宙に関しても同じようなことが言えるということです。2020年に僕たちが乗ったスペースXのファルコン9という宇宙船は圧倒的な低コストを実現したロケットです。今はさらに下がっています。まさにこの5年くらいで急激に宇宙が面白い時代に入ってきてるんです。

大江 ロケットのコスト競争力に差がついていることを改めて知ることができて大興奮です。ありがとうございます。大変勉強になりました!

“ロケットのコスト競争力に差がついていることを改めて知り、非常に興味深く大興奮です” MARIKO OE

“ロケットのコスト競争力に差がついていることを改めて知り、非常に興味深く大興奮です” 大江さん

野口聡一

宇宙飛行士

野口聡一


1996年宇宙飛行士に選抜。2005年、2009年、2020年と通算3回の宇宙飛行に成功し、世界で初めて「3種類の宇宙帰還を達成した宇宙飛行士」としてギネス記録に認定。2022年JAXAを退職。東京大学、日本大学の特任教授をつとめる。

大江麻理子

大江麻理子


おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。

撮影/須藤敬一 ヘア&メイク/桑野泰成〈ilumi.ni〉(大江さん分)、鎌田亜利紗〈アートメイク・トキ〉 (野口さん分) スタイリスト/森岡 弘(野口さん分) 取材・原文/佐久間知子 ※記事の内容は2024年2月の取材時点のものです。 ※BAILA2024年5月号掲載

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