「できない」と言えない人へ。相手との関係を壊さず上手に伝えるには? 相手を不快にさせず良好な関係を保つ断り方のポイントをコミュニケーションのプロ、公認心理師の大野萌子さんに教わりました。
【「できません」の伝え方】「できません」を相手にうまく伝える
公認心理師
大野萌子さん
企業内カウンセラーとしての長年の職場経験を生かし、働く人のメンタルヘルスとコミュニケーションの専門家として幅広いメディアで大活躍。
「できません」は拒絶ではない。できる範囲を伝えるフォローが大事
「できません」を伝えることを、相手を拒絶しているようにとらえている人がいますが、そんなことはありません。きちんと意思を伝えることは、お互いを理解し、信頼関係を深める大事なコミュニケーションです。
ただ、「できません」だけを伝える0か100かのやり取りをしてしまうと、誤解が生じることも。相手との関係を良好に保つために、「できません」だけではなく「〇〇ならできます」と、自分の状況とできる範囲をプラスのニュアンスを持って伝えるフォローが大事です。譲歩案があるならば出してすり合わせる。無理ならば「今回はできませんが、次回はぜひご協力します」と未来の話をしてもいいですね。
伝えるときのポイントは、感情論ではなく事実を述べること。言い訳をしたくなりますが、「本当はやりたいんですが難しいです」とやる気だけを見せるのは逆効果。気持ちを述べるのは自己満足で相手にメリットはなく「やりたいと思ってるならやってほしい」と思われることも。できない理由も譲歩案も、謙虚な姿勢で、具体的な事実のみを述べることが大切です。
断り下手さんが、まず覚えておくと役立つ言葉
「ご依頼いただき、ありがとうございます」
「できません」を伝える前に、まず相手に伝えたいのが感謝の言葉。そのワンクッションがあると、「ただ今回は残念ですが」と続けて言いやすくなります
「〇〇はできませんが、△△ならできます」
△△には、「可能なスケジュール」「この範囲ならできる」「資料をもらえればできる」「入力の人員サポートがあればできる」など具体的な内容を入れて、自分のできる範囲を譲歩案として伝えましょう
「私は今このようなスケジュールの案件を抱えています」
上司やクライアントなど断りにくい関係性の相手の場合も、自分の現状を伝えることで誠意ある対応と受け止めてもらいやすくなります
リアルバイラ世代3人の「できません」にまつわる座談会
それぞれ管理職、プレイヤー、部署で最年少という3人が「できません」を伝える・受け止める葛藤を赤裸々本音トーク!
Kさん(メーカー・29歳)
部署で最年少、頼まれ気質、頑張り屋が重なり、雑務を含んだ大量の業務をこなす日々。まだ限界がきていないが、いつくるか心配。
Yさん(化粧品会社・32歳)
専門職で社内、社外への依頼業務が多い。「相手に楽しく仕事をしてもらいたい」というモットーで依頼するが心折れることもしばしば。
Sさん(人材・32歳)
管理職2年目。後輩2人と育児中の先輩3人がメンバー。上司とチームの間に立ち、“できません”を伝える・受け止める悩みが尽きない。
断るときは、ネガティブな空気が生まれやすいので気をつかう
K お二人は、「できません」と言うときに心がけていることはありますか?
Y 気づかいのもとに断ることを大切にしてますね。理不尽な断り方だけはしないようにしようと思っています。理由を伝えた上で「この部分はできます」と添えたりも。
S 私、断ることに限らず、仕事のコミュニケーションって、たまたま仕事で関わっているだけの基本的には理解し合えないことが当たり前の相手だと思っているんです。特に「できません」を伝えるときは、ネガティブな空気になりがち。まず感謝の気持ちを伝えて、丁寧に言葉を選びますね。
Y お願いされているのに、受け流して「あの人あの人」みたいにすぐパスを回してうまくかわす人もいますよね。「やれるでしょ自分も」と周囲からの視線は冷ためですが。
S 結局、そういう人ってみんなからバレますよね。うまいことやってるなって。
K うちの職場では、けっこう強く「無理。できない」と依頼を断っている人もいますね。
Y それを見てKさんはどう思うの?
K その場の空気が悪くなるし、ああはなりたくないって思いますね。でも、私、社外に対しても断るのが苦手で。
S とことん「できません」が言えないのね。
K 見積もりを数社から選定するときに、落ちた会社に申し訳なくて連絡できず。話し込んだのにどうしようみたいな感じで、ギリギリまで言えなかったことも(涙)。
S Kさん優しい……。でも相手もお気の毒。
Y 管理職として断ることもありますか?
S 管理職になって、チームのために役員の依頼を断ることが出てきたんですよね。「Sのチームは何でもやるチームだ」となっちゃうのもよくないですし。キャパオーバーであることが説得力をもって伝わるように、より現状をしっかり説明しています。あえてチームのみんなの見えるところで上司に「できません」と言う姿を見せることも大事だと思っています。
イラスト/二階堂ちはる 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年8・9月合併号掲載