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「新しくカルト始めない?」信じることを問い直す村田沙耶香の最新短編集『信仰』をレビュー【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、多数派の暴力性に気づかせてくれる小説2冊、村田沙耶香の『信仰』と年森の『N/A』をお届けします。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『信仰』   村田沙耶香著 文藝春秋 1320円

正常と異常を分ける線引きは何か。そんなテーマで近年小説を書き、区分けを軽やかにひっくり返しては読者の常識をゆすぶる著者の、最新短編集。表題作では、「原価いくら?」が口癖の永岡ミキが、親切心から、自分の価値観である現実的/実質的なものの見方を周囲や妹に強要する。

起業女子向けセミナーに行くという妹に、金の無駄と説得したところ、「お姉ちゃんの『現実』ってほとんどカルトだよね」と妹は冷たい。人がブランド品に憧れるのもテーマパークでグッズを買うのも、コスパなど度外視で、「幻想」のお楽しみ代を払っているのだ。それを知り、永岡は大学時代の知人が始める「天動説セラピー」なるカルトに入会する。「幻想に騙されたから、幻想を売ろうとしてるんだよ」。人はときに、自ら騙されにいくのかもしれない。

ほかの収録作には、自分の生存率が数値化される世界で、恋人と別れて野人化してしまおうとする女性の話(「生存」)や、女3人の生殖も含めた役割分担が穏やかな生活を形作る「土脉潤起」なども。

多様性といった使い勝手のいい言葉にひそむワナを解き明かす作品に、著者の誠実さはにじむ。

『信仰』

村田沙耶香著
文藝春秋 1320円


「新しくカルト始めない?」人の信仰のメカニズム
『コンビニ人間』が数多くの国で翻訳され世界的に注目を集める村田沙耶香の、海外からの依頼も含めた全8編。信じること、空気を読むこと、正しいと思うこと。それらが丁寧に問い直される作品集。

これも気になる!

『N/A』 年森 瑛著 文藝春秋 1485円

『N/A』
年森 瑛著
文藝春秋 1485円

安易な理解を拒絶して。N/A、それは該当なし
まどかは生理が嫌で食事を制限する。拒食症という診断も、LGBTQというカテゴライズも拒否。恋人ではなく「かけがえのない他人」を求める。言葉で定義する暴力性を問うた、鮮烈なデビュー小説。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年9月号掲載

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