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滝口悠生の最新長編小説『水平線』をレビュー【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、先祖からの長い時間の流れの先に「私」は存在する。そんなことをあらためて感じさせる2作品、滝口悠生の『水平線』とイリナ・グリゴレの『優しい地獄』をご紹介します。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『水平線』   滝口悠生著 新潮社 2750円

50年も前に失踪したと聞く親戚のおばあさんから突然メールが届いたとしたら? その呼びかけに応じて小笠原諸島の父島に向かう主人公が、少しずつ家族3世代の歴史をひもといていく物語が『水平線』だ。

38歳休職中の横多平は、同じ東京ながら千キロ南に位置する父島を訪れる。亡き祖父のルーツである硫黄島に近づく旅でもある。祖父は太平洋戦争時、利き手の指先を事故で失い、徴兵逃れと陰口を言われつつ、両親や妻の一家と南伊豆に強制疎開してきた。弟二人は軍属として島に残され、戦死した。そんな一族の過去や島の歴史を、横多は知っていく。

一方、横多の妹には75年前の硫黄島で死んだはずの祖父の弟から電話が。「電話っていうのは、こういうためにあるんじゃないのか。(中略)会いたい人の声を聞くため」

2020年の東京と、まだ人が住んでいたころの硫黄島、そしてパラレルワールド的な父島を舞台に、時空を超えて人が人と出会い、声を聞かせ合う。納得できない理不尽な過去にあらがう、現在の紡ぎ直し。小説ならではのマジカルな手法で、長い歴史を描き出したこの小説。テーマは重いが語り口は優しく温かい。

『水平線』

滝口悠生著
新潮社 2750円


「私はあなたと会える」海のかなたでつながる3世代
『死んでいない者』や『長い一日』で複数の登場人物の視点を束ねる独特の語り口を確立した著者の、最新長編。500ページを超える大著ながら引き込まれる。激戦地の硫黄島と現代とがつながる物語。

これも気になる!

『優しい地獄』 イリナ・グリゴレ著 亜紀書房 1980円

『優しい地獄』
イリナ・グリゴレ著
亜紀書房 1980円

「世界を更新させるために」前進あるのみ、一家の歴史 
社会主義政権下のルーマニアに生まれた著者が、日本に留学し人類学者となるまで。苦い過去、孤独感、病との闘い、自分らしさの獲得の道のり。はっとするほど力強い言葉で紡がれる自伝的エッセイ。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年11月号掲載

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