腐った目線で他人を見ては、卑屈になったり、ねたんでしまったり…。その結果、自己嫌悪のループに。私、このまま「腐り心」を持っていていいの? そんな疑問に精神科医の水島広子先生が答えてくれました。
お話を伺ったのは
精神科医 水島広子先生
対人関係療法専門クリニック院長。「対人関係療法」の日本における第一人者。『「怒り」がスーッと消える本』(大和出版)など著書多数。
心が腐ってしまうのは自分だけのせいじゃない
「ネガティブ腐り」、「冷め腐り」、「嫉妬腐り」。一見、違うように感じる腐り3タイプですが、共通しているのが自己肯定感の低さです。ネガティブ腐りは「自分なんて褒められるに値しない」と思っているから褒め言葉を疑ってしまう。嫉妬腐りも自己肯定感が低いからこそ、相手の足を引っぱるようなアラを探す。そうしないと、自分を保つことができないから。自己肯定感が高いように見える冷め腐りも実は同じ。「自分は特別だ」と思っていないと自分が保てない。本当の自分をさらけ出せずに格好つけてしまうのもまた、自己肯定感の低さの表れなのです。すべては弱い自分を守るためにやっていること。しかし、人に頼り、守ってもらい、自分のすべてを打ち明けることができる人をつくる、それが本当の意味での“自分を守る”ということ。ある意味、腐り行動は真逆。腐れば腐るほど自己肯定感はどんどん下がってしまうんです。
ここで、悩めるバイラ読者の皆さんにお伝えしておきたいのが「腐り心を持っている自分はダメではない」ということ。どんなにポジティブに見える人でも、深く探ればどこかに“腐り”が見つかる。ある意味、それはあって当然のものなんです。しかし、最近はその腐り心が増加傾向に。そこにはSNSが大きく影響。嫉妬は他人から受ける衝撃がもとで起こります。衝撃を受け傷ついたからこそ、アラを探して自分を守ろうとするのです。そして、その衝撃のなかでもいちばん刺激が強いのが視覚的なもの。『インスタグラム』などが存在しなかった昔は、他人の贅沢な生活は噂話くらいにしかならなかった。でも、それが今はビジュアルで視覚に飛び込んでくる。また「自慢げでいやあねぇ」なんて他人と交わす噂話は衝撃のクッションになっていたんです。でも、今はスマホを眺めながら一人で耐えなくてはいけない。さらに30代はライフステージが変化する世代。友達の変化から受ける衝撃も多い。そりゃあ、腐ることもあります。
なのに「こんな私でいいのか」と悩んでしまうのは、世の中が寛容でなくなったのもひとつの原因。そして、その理由もまた自己肯定感が低く自分にも周りにも厳しい人が増えているから。そもそも、自己肯定感の低さは生まれ持ったものではありません。厳しい親や学校、モラハラな彼氏や職場、自己否定される環境にいることで下がってしまうのです。腐っているのは自分だけのせいじゃない、腐るのはダメなことではない、でもどこか生きづらさを感じているのならば心を鍛えるトレーニングを始めてみる。たとえば、自分を褒めてみる、そして他人も褒めてみる。まずはそこから始めてみませんか。
イラスト/平松昭子 構成・原文/石井美輪 企画/田畑紫陽子〈BAILA〉 ※BAILA2020年4月号掲載
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