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話題作の編集者はどんな本を読んでいる? 仕事や人生に影響を与えたおすすめ本をご紹介。

出版の仕事に関わる人は、どんな視点から本を選び、読んでいる? 今回は数々の話題作を手掛けてきた名物編集者3名に、「自分にとってスペシャルな本」を教えてもらった。

小説の面白さに目覚めた本

『スティル・ライフ』

『スティル・ライフ』 
池澤夏樹著
中公文庫 594円 

幼い頃から図鑑や画集が好きで、物語の世界にはあまり入り込めない子だった。ファンタジーよりも物理法則という典型的な理系少年には、小説って何が面白いのかがさっぱりわからなかった。そんな私に文学部の友人がすすめてくれたのが、池澤夏樹の『スティル・ライフ』。大学の建築学科に入学した年の冬だった。

「雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ」。暗鬱な海岸に降り始めた雪を描写したこの一節に、私は衝撃を受けた。初めて小説の世界が面白いと思えたのである。以降、文庫版に解説を寄せた須賀敦子、そして彼女が翻訳したアントニオ・タブッキへと、読書への裾野が広がった。

本著で、主人公に不思議な話を聞かせる謎の男、佐々井はいう。「そう、なるべく遠くのことを考える。星が一番遠い」。ページをめくれば瞬時に世界の果てまで連れていってくれる、小説という名の乗り物の、魅力を教えてくれた一冊である。

前田誠一さん

新潮クレスト・ブックス編集部

前田誠一さん


まえだ せいいち●『週刊新潮』『芸術新潮』編集部を経て出版部所属。翻訳作品のみならず、これまでには村上春樹『騎士団長殺し』など日本人作家の作品も編集してきた。

『赤いモレスキンの女』

(私が手がけた本)
『赤いモレスキンの女』
アントワーヌ・ローラン著  吉田洋之訳
新潮社 1980円
パリの書店主が道端で拾ったバッグ。中には本と香水瓶、そして赤い手帳が――。中年男性とバッグの持ち主をめぐる、大人の洒脱な物語。

編集者としての原点を作ってくれた本

『ドゥームズデイ・ブック』

『ドゥームズデイ・ブック』
コニー・ウィリス著 大森望訳
ハヤカワ文庫 上下巻 各1210円 

アメリカSF界の女王コニー・ウィリスの代表作。過去への時間旅行が可能となった少し未来の世界。オックスフォード大学史学部の学生・キヴリンは、実習のために14世紀へと送られるが、謎の病に倒れてしまう。しかも彼女の時間遡行を担当した技術者も、正体不明のウイルスに感染。歴史小説風の14世紀パートと、コメディチックな21世紀パートが交互に描かれる、徹夜必至のエンターテインメントだ。

新人の頃、SF作品の編集部に配属されたからには読まねばならない!と上司に渡された一冊。分厚い……!と思いながら読みだしたが、主人公のキヴリンの一挙手一投足にハラハラし、ラストの“あのシーン”ではもう涙が止まらず、ページの文字がぼやけてしまい……。読後はとてつもない物語を読んだという心地よい虚脱感で、しばらく動けなかった。私も誰かにあんな体験をさせる物語を送り出したい。今でも編集者としてのモチベーションとなっている、大好きな小説。

梅田麻莉絵さん

早川書房 書籍編集部

梅田麻莉絵さん


うめだ まりえ●2006年に早川書房に入社。ケン・リュウ、ジーン・ウルフ、カート・ヴォネガットなど、海外作家のSF作品や短編集、アンソロジーの編集を担当している。

『三体』シリーズ』

(私が手がけた本)
『三体』シリーズ』
劉慈欣著 大森望ほか訳
早川書房 全5巻 各1870円〜
人類に絶望した中国人エリート女性科学者。彼女が放った電波は惑星「三体」に住む異星人に届き……。世界各国で大ヒットしたSF小説。

視点の切り替えを授けてくれた本

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
川内有緒著
集英社インターナショナル 2310円 

本書は著者の川内さんが、全盲の美術鑑賞家である白鳥さんと、様々なアートを巡る旅の記録。視覚にハンデを抱えている人がどうやってアートを見るのか? 読むうちに、そんな疑問からはすぐ引き離されてしまう。

川内さんが友人とともにピカソの絵を白鳥さんに説明する場面があるが、話せば話すほど、どんな絵なのかわからなくなり、混沌としていってしまう。このくだりは、「見る」こと「話す」ことの難しさにはっとさせられ、自分がいかに様々な思い込みや偏見を持っているかを突きつけられる。二人が見るアートがたくさん掲載されており、読みながらその絵がグニャグニャと形を変えていくように感じ、自分の「見る」がいかに曖昧なものだったかに驚く。

見えない人が見ているものを想像することは、反転して自分が見ているものを映し出す。この世界は、私たちが見ているよりもずっと広い。何よりも読んでいること自体を楽しめる一冊で、人と会話がしたい気持ちにもなる。

浅井茉莉子さん

『文學界』編集部

浅井茉莉子さん


あさい まりこ●『週刊文春』『別冊文藝春秋』編集部などを経て、現在は『文學界』に在籍中。村田沙耶香『コンビニ人間』、松尾諭『拾われた男』などの作品を手がけてきた。

『火花』

(私が手がけた本)
『火花』
又吉直樹著 
文春文庫 660円
売れない芸人の徳永は天才肌の先輩・神谷に憧れを抱くが……。笑いの本質や、人間の生き方に迫った、又吉直樹さんの大ヒット小説。

撮影/kimyonduck イラスト/naohiga 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2022年11月号掲載

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