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中絶が禁止されていた時代のフランスで。ノーベル文学賞作家の実体験が原作の映画『あのこと』をレビュー【シネマナビ】

海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、フランス人の女性として初めてノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー自身の体験を元にした物語『あのこと』をご紹介します。

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今 祥枝

今 祥枝


海外エンタメが大好きなライター。一年365日、映画&ドラマざんまいの日々。

『あのこと』

『あのこと』12月2日(金)より、Bunkamuraル・シネ マほか全国順次公開 

©2021 RECTANGLE PRODUCTIONS-FRANCE 3 CINÉMA-WILD BUNCH-SRAB FILMS

女性が自分の体に関する決定権を持てないことへの恐怖

私の体は、私のもの――。「自分の体のことは自分で決める」という、現代を生きる私たちにとっては、当たり前のことを指した言葉に思える。しかし、人工妊娠中絶やピルなどをめぐる近年の議論の中で、女性の性と体の自己決定権について、実際にはそこまで当たり前とは言えないのではないか。そんな疑問を抱いている人も多いのではないだろうか。

あらためて、この問題に向き合うことができる映画『あのこと』は、少なくとも今の日本では女性の権利として認められている人工妊娠中絶が、当たり前ではなかった時代の物語だ。

舞台となる1960年代のフランスでは、人工妊娠中絶は法律で禁止され、何らかの処置を受けた女性、施した医師や助産婦、助言や斡旋した者にまで懲役と罰金が科されていた。そうした時代を背景に、望まぬ妊娠が発覚した寮生活の大学生のアンヌが、学業を続けるために命懸けで中絶しようと奔走する。

貧しい労働者階級の家に生まれたアンヌは、努力家で頭脳明晰な学生だ。教師になる夢は目前なのに、お腹がどんどんふくらんでいき、大事な試験を受験することも危うい。彼女のかかりつけの医師に始まり、別の医師、女友達が多い同級生の男子、ついには女友達にも告白するが、誰もがアンナの頼りにはならない。

最悪のことのひとつは、恵まれた家の息子である子どもの父親の当事者意識の欠如だ。この種の問題では、そもそもなぜ妊娠するような行動を取ったのかと、女性のみに責任があるかのような世間の批判が聞こえてくるよう。だが、勉強にいそしむ学生が息抜きをするために夜に出かけて、出会った誰かと関係を持つ。アンナのこの行動は、非難されるべきものだろうか?

本作のもうひとつのテーマは、女性だけが罪悪感を強いられがちな性欲、快楽についての問いでもある。アンナの「子どもを産まない」という選択に伴う過酷な闘いは、まさに女性のセクシュアリティの問題と密接に関わっているのだ。

原作は、フランス人の女性として初めてノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーが、自身の経験をもとに書き上げた小説『事件』。監督のオードレイ・ディヴァンもまた、自身の中絶経験から小説に興味を持ち、エルノーと実際に対話をした上で映画を撮り上げた。だからこそ、自分の体に関する決定を自分で下すことができないという事実が、どれほどの恐怖を伴うものであるかを、臨場感をもって伝えている映像世界は力強い。同時に、半世紀以上も前の事実に基づく物語が、これほどの現代性を持つことに複雑な思いがする。

監督/オードレイ・ディヴァン
出演/アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール
公開/12月2日(金)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

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『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』12 月1日(木) より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

  ©2021 STUDIOCANAL SASCHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION


猫のイラストで人気を博したイラストレーターの半生。最愛の妻との出会い、別れを経て、創作活動にのめり込んでいく。演技派俳優たちの名演に、絵のように美しい映像でつづる愛の物語。

監督・脚本/ウィル・シャープ 
出演/ベネディクト・カンバーバッチ、クレア・フォイ 
公開/12月1日(木)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

『少年たちの時代革命』 

『少年たちの時代革命』 12月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国公開

 ©Animal Farm Production


2019年の香港の民主化デモに参加した若者たちの間で、自殺が相次いだ。そんななか、絶望した少女を救おうと仲間が奔走する。よりよい世界を願い、闘い続ける彼らの姿に胸が熱くなる。

監督/レックス・レン(任俠)、ラム・サム(林森)
出演/ユー・ジーウィン(余子穎)、レイ・プイイー(李珮怡) 
公開/12月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国公開

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年1月号掲載

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