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ウクライナ民謡が伝える平和への思い『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』をレビュー【シネマナビ】

海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、第二次世界大戦下前後の困難な時代を身を寄せ合って生き抜こうとしたウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族を描いた珠玉の人間ドラマ『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』をご紹介します。

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今 祥枝

今 祥枝


海外エンタメが大好きなライター。一年365日、映画&ドラマざんまいの日々。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

『キャロル・オブ・ザ・ベル家族の絆を奏でる詩(うた)』7月7日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

世界中で親しまれているウクライナ民謡が伝える平和への思い

世界で最も親しまれているクリスマスソングのひとつ、「キャロル・オブ・ザ・ベル」。映画『ホーム・アローン』でも使われ広く知られているため、アメリカの歌だと思っている人も多いといわれているが、もとはウクライナ民謡「シェドリック」である。

’22年のロシア軍によるウクライナ侵攻を機に、「シェドリック」は「ウクライナ人、ウクライナ語、ウクライナ文化が存在している」ことを伝える、ウクライナ人の誇りを呼び起こす曲として今また注目を集めているという。映画『キャロル・オブ・ザ・ベル家族の絆を奏でる詩』は、「シェドリック」と数々の歌を支えに、第二次世界大戦下前後の困難な時代を身を寄せ合って生き抜こうとしたウクライナ、ポーランド、ユダヤの3家族を描いた珠玉の人間ドラマだ。

舞台は’39年、国境に近いウクライナのイバノフランコフスク(当時はポーランド領)。ユダヤ人一家の店子として、音楽を生業とするウクライナ人の一家とポーランド人の一家が同時に越してくる。宗教や文化的背景も異なる3家族には娘たちがおり、最初は距離があったが互いの文化を尊重し、絆が生まれていく。

複雑な歴史背景のあるこの地域は、常に緊張感があるなかで、戦前はソ連、戦中はドイツ、戦後は再びソ連に侵攻され、人々は息を潜めて日々を送っていた。ウクライナ一家の母ソフィアと父ミハイロは、危険を冒しても、次々と連行されていく大人たちに代わって、ポーランド一家とユダヤ一家の幼い娘たちを引き取って育てる。しかし、OUN(ウクライナ民族主義者組織)でひそかに活動するミハイロとソフィアの「家族」には、さらなる苦難が待ち受けていた……。

戦争前夜も、戦中も、そして戦後も、ウクライナ一家に平穏が訪れることはない。あらためて戦争とは、武力による侵略とは、なんと理不尽で残酷なものかと思う。それでも、ときにはナチス・ドイツ一家の子どもでさえ、「子どもに罪はない」と言い切り、家族に迎え入れるソフィアの尊さ。そんな母を中心に、歌を歌うことで希望を見いだす子どもたちの無垢とけなげさ。今、またロシアのウクライナ侵攻が続くなかで、この映画がどれほど大事なことを伝えているのかと涙せずにはいられない。

監督はウクライナ生まれのオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ。脚本家クセニア・ザスタフスカの祖母の経験や事実に基づき、ロシアの侵攻前に本作を創作したという。今はキーウにある自宅で暮らしながら、映画を通して世界に平和を訴え続ける監督と関係者らの思いは、悲しくも静謐な映像と澄んだ歌声に乗せて、深く心にしみ入る。


監督/オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
出演/ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ
公開:7月7日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

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©Menuet/Diaphana Films/Topkapi Films/Versus Production 2022

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©2020–MARVELOUS PRODUCTIONS–FRANCE 2 CINÉMA–FRANCE 3 CINÉMA

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出演/エルザ・ジルベルスタイン、レベッカ・マルデール
公開/7月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年8・9月合併号掲載

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