1. BAILA TOP
  2. LIFESTYLE
  3. エンタメ・インタビュー
  4. 山田洋次監督が歌舞伎座初演出、中村獅童・…

山田洋次監督が歌舞伎座初演出、中村獅童・寺島しのぶ共演。話題の『文七元結物語』のお久役で大注目の #中村玉太郎 さんが登場!!【歌舞伎沼への誘い♯53】

「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月ご紹介するのは、現在、歌舞伎座昼の部で上演中の『文七元結物語』で、貧しい長屋の娘・お久役を勤めている若手歌舞伎俳優の中村玉太郎さん。中村獅童さん、寺島しのぶさんの共演、映画監督の山田洋次さんが脚本・演出を手がけたことでも、大注目の舞台です。出演者は、キャリアが長くて、芝居のうまい大先輩たちばかり。そんな中、プレッシャーを感じながらも、健気なお久を切々と演じる玉太郎さんに、バイラ歌舞伎部が取材しました~!!

歌舞伎俳優の中村玉太郎の微笑む写真

↑五代目 中村 玉太郎(ごだいめ なかむら たまたろう)。2000年、東京都生まれ。屋号は加賀屋。歌舞伎俳優、中村松江の長男。祖父は中村東蔵。2006年4月歌舞伎座『関八州繋馬』の里の子梅松で、五代目中村玉太郎を名のり初舞台。

■嬉しい反面、「僕で大丈夫なのかな」と不安でした

まんぼう部長 玉太郎さん、10月歌舞伎座の『文七元結物語』のお久役で大活躍ですね!

玉太郎 ありがとうございます。

部長 『文七元結』は、落語をもとにした作品なんですよね。左官の長兵衛がギャンブルで大きな借金を作り、その返済のために、娘のお久が遊廓に自ら身売りしようとするところから物語が始まります。

笑って泣ける人情噺で、歌舞伎でも人気の演目ですが、今回は、映画監督の山田洋次さんが脚本・演出を手がけています。

普段と勝手が違って、玉太郎さんも苦労されているだろうなと思っていましたが、舞台を拝見したら、お久の健気な雰囲気がすごく出ていて、とてもいいお芝居でした。

お久を勤める歌舞伎俳優の中村玉太郎さんの舞台写真

↑2023年10月歌舞伎座『文七元結物語』で、長兵衛の娘・お久を演じる玉太郎さん。「獅童の兄さん、しのぶおねえさん、孝太郎の兄さん、彌十郎のおじさまなど、僕以外のみなさんは、歌舞伎でも大先輩ですが、映画やドラマの経験豊富な方々ばかりで、ついていくのが精いっぱいでした」と言うけれど、ベテランに囲まれ、大健闘です!

玉太郎 歌舞伎の『人情噺文七元結』は、もともと大好きなお芝居で、とくにお久は、先輩方が若手の時に演じられていたお役のひとつなので、いつかやってみたいと思っていました。お話をいただいたときは念願がかなって、嬉しい反面、不安も大きかったです。

僕は女方を目指していますけれど、まだまだ経験は浅いし、普通の歌舞伎で女方をやるのも大変なのに、「僕で大丈夫なのかな」って。

ばったり小僧 とくに今回は、お久がいつも以上に注目される演出になっていますね。

玉太郎 そうですね。山田監督の台本を見たとき、冒頭からお久が出てくるので、「いつもと違う!」ってびっくりして(笑)。普段の歌舞伎版より、お久の存在感が大きく感じられました。

部長 実際、お稽古が始まってどうでしたか。周囲は、そうそうたる面々で、すごいプレッシャーだったでしょうね。

女方の中村玉太郎の取材写真

↑父親の長兵衛役は中村獅童さん。「セリフの言い方や間を日々変えていらっしゃるので、『今日はこういうふうに言うんだな。じゃあ、お久はこんなふうに言おう』と考えたりして。大変ですけれど、毎日お芝居が変わっていくのが、すごく楽しいです」。いやいや、それが楽しめるのって、すごいことです!!

玉太郎 慣れないことばかりで、大変でした。『文七元結物語』は、人情噺ということもあって、気持ちが大事だと、みなさん、おっしゃるんですが、感情をこめるということが難しくて、最初はうまくいかなくて。

歌舞伎の場合、とくに時代物は型が決まっているので、まずは型から入ることが多いのですが、今回は、気持ちから型になっていくという感じ。これまで経験したことのないプロセスで、お芝居を作りあげていったので、とても勉強になりました。

小僧 山田監督からは、何かアドバイスはありましたか?

玉太郎 とにかくお久が健気に見えないと、物語が成立しないからとおっしゃって。それで『野菊の如き君なりき』(1955年・木下惠介監督)という映画をおすすめされました。「これを観たら、僕が思い描くお久がどういうものか、少しわかると思うよ」と僕の台本にタイトルを書いてくださったんです。

小説『野菊の墓』を映画化した作品で、ヒロインの民子のひたむきさとか、一途なところが、お久に通じるものがあるんですね。当時の粗末な着物とか、やせ細った貧相なシルエットもお久と重なるところがあって、映画から色々ヒントをもらいました。

歌舞伎座の稽古場にいる中村玉太郎の全身写真

↑スレンダーでスタイル抜群。「食べても太らないんです。気をつけていないと、むしろどんどんやせていっちゃうんですよね」という奇跡の肉体。部長も小僧も羨ましさを爆発させたのでした~。

■お久のあかぎれに気づいていただけて嬉しいです

小僧 先日、放映された「情熱大陸」では、稽古風景が映っていて、(片岡)孝太郎さんからアドバイスを受けている姿が印象的でした。

玉太郎 感情だけでもダメで、孝太郎の兄さんや(坂東)新悟の兄さんが「こういう形のほうが娘っぽいよ」とか、丁寧に教えてくださったのが有難かったです。

女方の方々の技術は、本当にすごいんです。たとえば今回のように江戸時代の庶民の娘を演じるには、踊りのときのような摺り足ではなくて、内股ではあるけれど、少し爪先立ちのように歩くと娘っぽく見えるとか。

お久のような貧相な感じを出すには、もっと背中を丸めて肩をすぼめたほうが体が小さく見えるとか。役柄を体現するために、みなさん、ここまでやっているのだなと、本当に勉強になりました。

小僧 そういえば、玉太郎さん演じるお久の手のあかぎれが超痛そうで……。

歌舞伎座10月の演目「文七元結物語」ポスター

↑『文七元結物語』で、左官長兵衛役の中村獅童さんと、長兵衛女房お兼役の寺島しのぶさん。同じ年で、普段から仲のいい二人の掛け合いは、本当に楽しくて笑えます!!

玉太郎 あれは監督の指示です。山田監督が携わっていらした『人情噺文七元結』(2007年・新橋演舞場)の舞台のとき、お久を中村芝のぶさんがなさっていたんです。それで、そのときのお話を芝のぶさんに伺って、同じようにメイクであかぎれを作っています。

実は指のシワのところに赤いアイライナーを引いて切り傷にして。それから赤いアクリル絵の具をちょっとはたいて、しもやけにして。席の近い方しか、わからないかなと思いながらやっていましたけれど、ちゃんと気づいてくださるお客さまもいて、嬉しいですね。

部長 あかぎれがアイライナーだったとは!?  細かく作り込んでいるんですね。さて、舞台も中日を過ぎましたが、手応えを感じていますか?

玉太郎 そうですね。舞台稽古のときに、獅童の兄さんに「細かいことは全部忘れて、感情のままにやってみなさい」と言われて、そのとおりにしたら、監督が「よくなった」とおっしゃってくださったんです。だから本番も技術的なことは頭の片隅においといて、とにかくお久の気持ちに集中して演じるようにしています。

これまでは、役柄を俯瞰して見ているようなところがあったんですが、役の世界に入り込むことが少しずつ、できるようになってきたかなと感じています。

歌舞伎俳優の中村玉太郎の手元を見つめる写真

↑お久のあかぎれについて説明する玉太郎さん。「山田監督は、『ここはあんまり女将さんのほうを見ないで』など、視線や動くタイミングまで、細かく指示してくださるので、すごく有難かったです」。

部長 なるほど~。ひとつの舞台で、どんどん成長しているんですね。少し余裕も出てきましたか?

玉太郎 いえ、全然(笑)。幕が開いた今も日々勉強です。実は今の課題は、これまでと逆で、「感情移入しすぎて、力が入りすぎている」こと。(坂東)彌十郎のおじさまに言われたんです。

「力が入ると、体がぎゅっと強張ってしまうので、表現の幅が狭くなってしまう。もっと広々やるには、ある程度、力を抜いたほうがいい」と。なので今は少しだけ力を抜くように意識しています。

とくに最後、きれいに着飾って出てくるときは、「お母さんに会えて嬉しい」という気持ちは持ちつつ、体は少しリラックスして演じられるといいなと。言うのは簡単ですけれど…(笑)。後半はさらに頑張りたいです!!

歌舞伎俳優の中村玉太郎の撮りおろし写真

↑寺島しのぶさんとは初共演。「しのぶおねえさんは、初めての歌舞伎でたいへんなこともあると思うんですけれど、全然それを見せないんですね。現場では常に明るく、僕のことも励ましてくださるんです」。

■ひとり旅で、温泉&サウナにハマりました

小僧 お話を聞いていると、玉太郎さんはやっぱり芸に対して、すごく一途なところがあるから、ひたむきなお久がハマり役だったんでしょうね。
 

玉太郎 いや~、どうでしょう。僕はそんな健気なタイプではないと思うんですけれど。ただ、僕、すごく不器用なんですよ。ふたつのことが同時にできなくて、ひとつのことに集中してやるしかないので、それが健気に見えるのかも(笑)。全然そんなつもりはないんですけどね。

小僧 不器用って、どのくらい不器用なんですか?

玉太郎 たとえばテレビを見ながら、皿洗いするとかできないんです(笑)。皿洗いをしてたら、テレビは見れないし、逆にテレビを見ていると、皿洗いが進まないし。

部長 いやいや、忙しい中、おうちでちゃんと家事をしているところが、すでに健気です(笑)。

趣味は何ですか? インスタを拝見すると、ポケモンがお好きなようですが、私も小僧も詳しくないので、その話題すっ飛ばして、ほかにマイブームがあったら教えてください(笑)。

歌舞伎俳優の中村玉太郎のインタビュー中の写真

↑以前『オグリ』の舞台に出演したとき、篠笛で美しい音色を奏でていた玉太郎さん。高校のとき、篠笛をやっていたのだとか。じつは密かに篠笛を習っているまんぼう部長。「でも、さっぱり音が出ないんです」と嘆くと、「篠笛って、音を出すのが大変なんですよね」とやさしく励ます玉太郎さんでした♪

玉太郎 インスタにも載せましたけれど、9月に初めてひとりで旅行に行って、ひとり旅の楽しさに目覚めました(笑)。『文七元結物語』のお稽古が始まる前にリフレッシュも兼ねて、どこかに行こうと。それで前々から行きたかった伊勢志摩に決めて、伊勢神宮や鳥羽水族館に行ってきました。

ひとりだとマイペースで行動できるのがいいですよね。好きなタイミングでご飯も行けるし。今度は日帰りで箱根とかに行けたらいいなと思っています。

小僧 意外にアクティブですね。

玉太郎 あと、旅行中、ホテルで温泉とサウナに入って、それもハマリました(笑)。サウナは流行っているから、ずっと気になっていたんですけれど、旅行中に入ったら、すごくよくて。リフレッシュできました。東京でも色々行きたいです。

小僧 サウナー玉太郎の誕生ですね。ぜひ「サ道」を極めていただきたいですね(笑)。そのほか、これからやってみたいことはありますか?

歌舞伎俳優の中村玉太郎の端正な横顔写真

↑凛々しさの中にもやさしさのある表情が素敵♪  今月は、女方を勤めているため、眉毛は全部剃っているそうですが、さすがに眉毛を描くのもお上手。それにしても歌舞伎俳優のみなさんは、どうしてこんなにお肌がつやっつやで、まつげが長いんでしょうか!?

玉太郎 今年の5月に『白苑会』という自主公演をやったんです。お囃子、長唄三味線、生田流筝曲など、邦楽の仲間とともに結成した会で、僕は踊りで参加しました。邦楽の演奏あり、踊りありで、お客さまにも好評だったので、第二回『白苑会』をやって伝統芸能を盛り上げたいし、みんなで旅に行くのも楽しそうです。

小僧 地方公演とか盛り上がりそうですね。ではでは、最後にバイラ読者にメッセージをお願いいたします!!

玉太郎 10月歌舞伎座の昼の部は、まず『天竺徳兵衛韓噺』という歌舞伎らしさがつまった演目があり、そのあとが『文七元結物語』です。

現代の人にもわかりやすい内容で、どちらも歌舞伎が初めての方におすすめの演目です。ぜひこれをきっかけに歌舞伎座に足を運んでいだたければと思います。

小僧 千穐楽までに玉太郎さんがどう変化するのかも楽しみです。

部長 ほんとほんと。私ももう一回、観に行っちゃうかも!?  

小僧 公演は25日まで。劇場に急がなくちゃ!!

玉太郎さんの笑顔写真

↑目をキラキラと輝かせて、ひたむきに頑張る玉太郎さんを前に、普段のように、くだらないギャグや突っ込みを入れられなかった部長と小僧。おかげでいつもより品のいいインタビューになったような(笑)。玉太郎さん、公演中でお忙しい中、ありがとうございました!!

山田洋次監督が歌舞伎座初演出、中村獅童・寺島しのぶ共演。話題の『文七元結物語』のお久役で大注目の #中村玉太郎 さんが登場!!【歌舞伎沼への誘い♯53】
_11

■歌舞伎座新開場十周年

「錦秋十月大歌舞伎」

期間:2023年10月2日(月)~25日(水)

劇場:歌舞伎座
【休演】10日(火)、17日(火)


<昼の部> 午前11時~

一、
『天竺徳兵衛韓噺』(てんじくとくべえいこくばなし)

作:四世鶴屋南北


出演

天竺徳兵衛:尾上松緑

梅津掃部:坂東亀蔵

佐々木桂之介:坂東巳之助

銀杏の前:坂東新悟

奴磯平:中村吉之丞

山名時五郎:中村松江

宗観妻夕浪:市川高麗蔵

吉岡宗観:中村又五郎


二、

『文七元結物語』(ぶんしちもっといものがたり)

口演:三遊亭圓朝

脚本・演出:山田洋次

脚本:松岡亮


出演
左官長兵衛:中村獅童

長兵衛女房お兼:寺島しのぶ

近江屋手代文七:坂東新悟

長兵衛娘お久:中村玉太郎

家主甚八:片岡亀蔵

角海老女将お駒:片岡孝太郎

近江屋卯兵衛:坂東彌十郎


<夜の部>午後4時30分~

一、

『双蝶々曲輪日記』(ふたつちょうちょうくるわにっき) 角力場


出演

濡髪長五郎:中村獅童

藤屋吾妻:中村種之助

濡髪弟子閂:市村光

茶亭金平:松本錦吾

山崎屋与五郎 / 放駒長吉:坂東巳之助


二、

『菊』(きく)

作:中内蝶二


出演

菊の精:中村雀右衛門

菊の精:市川男寅

菊の精:中村虎之介

菊の精:中村玉太郎

菊の精:中村歌之助

菊の精:中村錦之助



三、

『水戸黄門』(みとこうもん)

讃岐漫遊篇

作:宮川一郎

補綴・演出:齋藤雅文


出演

水戸光圀:坂東彌十郎

松平頼常:中村歌昇

うどん屋娘おそで:坂東新悟

佐々木助三郎:中村福之助

渥美格之進:中村歌之助

娘お蝶実は九紋竜の長次:中村虎之介

うどん職人茂助:澤村宗之助

目付沢木源之助:中村吉之丞

吉太郎妹お光:市川男寅

港屋の伜吉太郎:大谷廣太郎

山崎又一郎:中村亀鶴

港屋辰五郎:片岡亀蔵

うどん屋女将お源:中村魁春

◆公演詳細

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/841


◆公演チケット情報

https://www.kabuki-bito.jp/ticket.html

取材・構成/バイラ歌舞伎部  

写真/露木聡子

まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。 

ばったり小僧……歌舞伎歴2年。やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。

Feature特集

Feature特集

Rankingランキング

  • ALL
  • FASHION
  • BEAUTY
  • LIFESTYLE
  • EDITOR'S PICK

当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表示する目的で Cookieを利用する場合があります。詳しくはこちら