一年365日、映画&ドラマざんまいの今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、 50年の時と海を超えて、初恋の相手を探す旅を描いた映画『TOUCH/タッチ』をレビュー。
『TOUCH/タッチ』
50年の時と海を超えて、初恋の相手を探す旅
©2024 RVK Studios
初期の認知症だと判明した老年期の男性クリストファー(エギル・オラフソン)。自分に残された時間がわずかだと知り、家族にも告げずに若かりし頃に出会った忘られない初恋の人を探す旅に出る。2020年に出版されたアイスランドの大ベストセラー小説を、同国の監督バルタザール・コルマウクルが映画化した。
1957年のロンドン。若き日のクリストファー(パルミ・コルマウクル)は日本人のミコ(Kōki,)と出会い、運命的な恋に落ちる。祖国も学業も、すべてを投げ打ってもミコとの愛を貫くつもりだったが、ある日突然、ミコは父親(本木雅弘)とともに帰国してしまう。一体、彼女に何が起きたのか? 50年の時と海を超えてアイスランド、ロンドン、そして日本へと旅をするクリストファーの脳裏によみがえるミコとの過去の日々。若い二人が愛を交わす姿があまりにもはかなげで、胸がぎゅっと締めつけられるよう。
モデル、俳優として国際的に活躍するKōki,のナチュラルな演技がいい。「完璧な英語を話し、スウィンギング・ロンドンの風景に調和している」と監督が絶賛するように、当時のロンドンの空気感から厳格な父親からの自由を求める切望感を胸に秘めた魅力的な女性を体現している。しかし、物語が進むにつれてミコが抱える壮絶な苦しみが明らかになると、ロマンチックなラブストーリーという印象は、特に私たち日本人には鉛のような重さと痛みを伴う感情に変わる。ミコは第二次世界大戦下で、母親の胎内にいるときに被爆していたのだ。差別と偏見にさらされた父親とともに、海外へ逃れてきたという父娘の過酷な背景に言葉を失う。胎内被爆者に対する科学的根拠のない誤解と蔑みが、どれほど多くの人の人生を変えたのだろうか。
アイスランドから始まった純愛物語は、どんな結末を迎えるのか。レイキャビク、1950年代を再現したロンドン、そして東京と広島、竹原、呉で撮影された街並みを眺めながら、クリストファーとミコのような若者たちの存在に思いをはせてみたい。
監督/バルタザール・コルマウクル
主演/エギル・オラフソン、Kōki,
配給/パルコユニバーサル映画
公開/2025年1月24日(金)より公開
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