多様な文化と広がりをもつアジアで、日々生まれている様々な物語。その土地に暮らす人の心に刻まれた感情や風景が、ページごとに立ち上がる9作品をご紹介します。
春秋社 アジア文芸ライブラリー編集者
荒木 駿さん
1990年生まれ。2024年春に春秋社で始動した、アジア各地の同時代文学を紹介するシリーズ「アジア文芸ライブラリー」の発起人。これまでにチベットやマレーシアなどの作品を多数刊行。全作の編集を手がけている。
大阪で海外コミックスを扱うブックカフェ(instagram /@bookcafe_mori)を経営。バンドデシネの翻訳家・原正人とともに海外マンガについて語るポッドキャスト『海外マンガRADIO』『海外マンガの本棚』も定期配信中。
インド
『至上の幸福をつかさどる家』

アルンダティ・ロイ著 パロミタ友美訳
春秋社 ¥4180
傷を抱えた者たちを描くブッカー賞受賞作家の長編
「とにかく圧倒されるほどの密度と、練りに練られた詩的な言葉で迫ってくる。言語、文化、社会階層、宗教などが多様で複雑なインドを、複雑な言葉で表現し、暴力に抵抗する文学の力に度肝を抜かれます。一文一文を嚙みしめながら読みたい一冊」(荒木さん)
マレーシア
『常夏の国で、君と。マレーシア16篇の恋』

ファクルール・アヌール著
KADOKAWA ¥550
美しくて、もどかしい! マンガで届ける16通りの恋
編集者としての経験を持つ作家ファクルール・アヌールが紡ぐ、恋愛を題材にした16の短編。「友情か恋愛か、仕事と恋愛との両立、結婚……恋愛にまつわる悩みや思いは万国共通で、エキゾチックでありながら、どこかノスタルジーを感じる作品です」(森﨑さん)
香港
『Kylooe』

リトルサンダー著 野村麻里訳
リイド社 ¥4950
青春の光と影を映す美麗な絵のコミック三部作
「世界的人気を誇るイラストレーター&漫画家、リトルサンダーの初期マンガ集。『Kylooe(夢)』という名の不思議な生き物を水先案内人に、幻想的で胸を締めつけられるように美しい物語が展開します。その背景には、どこか香港らしい空気が漂っています」(森﨑さん)
インドネシア
『珈琲の哲学 ディー・レスタリ短篇集1995-2005』

ディー・レスタリ著 福武慎太郎監訳 西野恵子・加藤ひろあき訳
上智大学出版 ¥1870
女性作家が小説の中で紡ぐ多様な愛のストーリー
インドネシア現代文学を代表する女性作家ディー・レスタリの短編集。「婚外恋愛や友人への恋など、様々な恋の悩みを描きながら、現代インドネシアの人々の葛藤を生き生きと映し出しています。表題作は映画化もされていて、なかなかよい作品です」(荒木さん)
『彷徨 あなたが選ぶ赤い靴の冒険』

インタン・パラマディタ著 太田りべか訳
春秋社 ¥4400
フェミニズムの旗手が小説に託す自由への抗い
「章末に選択肢があり、物語の進行を自分で選べる一風変わった小説。ジャカルタ出身の『あなた』がベルリン、アムステルダム、NYなど世界をさまよいます。どの物語を選んでも、根底にあるのは女性として生きることの困難と、それを痛快に駆け抜ける希望です」(荒木さん)
チベット自治区
『花と夢』

ツェリン・ヤンキー著 星泉訳
春秋社 ¥2640
慈愛に満ちた筆致の長編。4人のシスターフッド物語
「それぞれに事情を抱えながら、チベットの都会に出て夜の街で働く4人の女性たちを描くシスターフッド小説。悲しい物語ではありますが、女性たちが自らを語る言葉を身につけ、社会に対峙する姿がカッコいい。はじめてのチベット文学におすすめの一冊」(荒木さん)
中国
『君は世界で一番美しい色 1』

Golo Zhao著
KADOKAWA ¥1320
地方都市で繰り広げられる彩り豊かな青春群像マンガ
画家志望の主人公には、二人の友人と、思いを寄せる少女がいた。そこにスポーツ万能の強敵が現れ……。「舞台は中国の地方都市。吹きだまる鬱屈、将来への不安、同級生への憧憬と悔恨、美しくも苦々しい青春時代のひと場面が切り取られています」(森﨑さん)
ベトナム
『ソリアを森へ マレーグマを救ったチャーンの物語』

チャン・グエン作 ジート・ズーン絵 杉田七重訳
すずき出版 ¥1870
人間とマレーグマの絆を繊細に描くグラフィックノベル
ベトナムの自然保護活動家チャン・グエンの自伝的グラフィックノベル。「野生動物を守りたい少女チャーンと、親を亡くしたマレーグマの子どもソリアとの心の交流を描いています。クマ辞典としても優れており、作者の美しい自然に対するまなざしが優しい」(森﨑さん)
『草原に黄色い花を見つける』

グエン・ニャット・アイン著 加藤栄訳
カナリアコミュニケーションズ ¥1430
思春期の頃の記憶が蘇るベトナムのベストセラー小説
「’80年代の農村を舞台に、少年たちの兄弟や友達との絆と成長、そして甘酸っぱい恋心を描いた切なくて愛おしい作品。二度と戻ってこない子ども心の描写には、懐かしさに胸を締めつけられます。映画化されていて、そちらも田園風景が美しく魅力的です」(荒木さん)
取材・原文/海渡理恵 編集/久保田梓美 ※BAILA2022年12月号掲載































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