二子山部屋の三田大生(みた・たいき)関は、2001年生まれの23歳。お相撲さんのトレードマークである髷(まげ)が結えない“ざんばら髪”でいる理由は、入門してから昇進までの期間が早すぎて、髪が伸びるのが間に合わないから。初土俵から1年に満たないうちに十両優勝を果たした実力者は、スピード感あふれる相撲と爽やかなキャラクターで、今や“推し甲斐”のある若手力士の筆頭格! 西十両四枚目で迎える令和七年九月場所直前に、これまで、これから、この先をたっぷり語ってくれました。

【INTERVIEW】二子山部屋・三田関のこれまでとこれからのこと
九月場所の直前、二子山部屋では朝7時30分から朝稽古が開始。土俵の上では、所属する10数人の力士が3時間半にわたって「四股踏み」「すり足」などの基礎トレーニングと、実践練習である「申し合い稽古」などを行った。三田関も朝一番から参加。まわし姿での激しい稽古のあと、ちゃんこ前に髪を整え、浴衣姿でインタビューと撮影に応じてくれた。173.0cm、124.0kgと、相撲界では小兵と言われる三田関だけれど、十両優勝を成し遂げた2ヶ月前から、体はさらに厚みを増した様子。内側からみなぎる強さが感じられて、惚れ惚れするほど。
朝稽古は3時間半超! 師匠、先輩、幼馴染と真剣に取り組み続けたことが結果につながる
——長時間にわたるハードな稽古でしたね、毎日行っているのですか? 二子山部屋で一番地位の高い部屋頭、幕内の狼雅関(西前頭十一枚目・26歳)と十番以上もぶつかり合う稽古には、実戦さながらの迫力を感じました。
はい。毎朝です。今年の五月場所で十両に昇進し関取の地位になってからは、いつも狼雅関にぶつかっています。僕は体が小さいので、少しでも相手を押せるように。毎回ちょっとずつ手を変えたり、今日はこれを試してみようと考えてます。師匠からは特に、押す時の角度やスピード、まわしを切るタイミングについてアドバイスをいただいています。言葉数は少ないんですけど、的確な言葉をくださるので、すべて受け入れてやってます。それがやっぱり結果に繋がってきています。
——朝一番は、「四股とすり足」という、下半身をこれでもかというほどいじめる自重トレーニングを1時間以上続け、その後で黙々とチューブトレーニングで上半身を鍛えていましたね。
そうですね、インナーマッスルが自分は弱いので、そういう部分を鍛えつつ、肩をほぐしたりとか……うん、チューブは1番やっています。
——稽古中、三田関の隣では、同学年で4年早く二子山部屋に入門し、昨年十両を経験、怪我による休場を経てリハビリ中の生田目さん(東幕下八枚目・23歳)が黙々と脚のトレーニングをしているのも印象的でした。生田目さんとは小学校からの幼馴染だそうですが、どんな存在ですか?
出身地である栃木県大田原市の小学校に入学して、クラスが一緒でした。通っていた相撲道場は違ってましたが、6年間同じ小学校だったんです。今でもずっとライバルですね。自分はプロになるつもりがなかったんですけど、(生田目が)頑張ってるのを見てて、自分も頑張ろうかなと思って入ったんで。
——中学、高校、大学と、全国大会や世界選手権で活躍していたのに、プロになるつもりはなかったとは驚きです。大相撲の力士になっていなかったら何になっていたと思いますか?
うん、でも実業団で、相撲は続けていたかなと思います。
——二子山部屋に入ってから、学生相撲時代と比べ稽古の量やハードさは違いますか? 稽古中、何度も土俵に転がされて、土まみれになりながら「はあっ!」と気合の入った声をあげて狼雅関にぶつかっていましたね。
大学も厳しいんですけど。プロはもっと厳しいです。だからスタミナはすごくついたと思います。でも、稽古の最後の方では、やっぱり声は出ちゃいますね。

5歳から始めた相撲。幕内で活躍中の安青錦関との再戦、憧れの若隆景関との対戦を目指して
——相撲を始めたのは5歳のとき。きっかけは?
父親が地元で相撲道場を経営していて、兄が先に相撲をずっとやってたんですけど、小学校の時、その兄を見ながらかっこいいなって思いました。
——栃木県立黒羽高等学校に進み、2年の時には世界ジュニア選手権に出場、そのとき、ウクライナ出身の安青錦関(西小結・21歳・安治川部屋)とも取組をしたそうですね。
はい、大会で1度当たっただけなんですけど。その後安青錦関が関西大学にいるときに、近畿大学で僕が出場した試合を見に来ていて。目が合ってすぐお互いのことがもうわかったんで、そこから仲良くさせていただいています。(プライベートで会ったり)そういうのはないですけど。ジムが一緒なので、会ったらしゃべったりします。やっぱり相撲のことを話してますね。
——安青錦関も瞬く間に番付を上げて行きましたが、三田関も出世が早い! 来場所や来年にも幕内で当たる可能性が高いんじゃないですか?
いやいや、まだまだ機会はないと思うんですけど。まだ勝ててないのでいつか当たってみたいです。
——期待しています。三田関にとって、いつか勝負をしたい憧れの力士は誰でしょうか?
そうですね、やっぱ学生時代から若隆景関(東関脇・30歳・荒汐部屋)です。もう大学相撲の時から……僕、高校生だったんですけど、その頃から取り口が好きでした。スピードと、前に出る力と、前みつ(まわしの前の部分)を取るときの手の動きとか、そういうのがもう全部すごいんで。YouTubeで取組動画を見て研究もしてます。まだ一度も当たったことがないので、シミュレーションまではしてないですけど、もしも取組が決まったら、しっかりやりたいですね。
——楽しみですね。若隆景関も体格は183cm、137kgで、大型力士ではないですよね。三田関は、自分と同じような体格の力士と、自分より大きな体の力士、どちらと対戦する方が得意ですか。
うーん、自分と同じ体格の方が取りづらさはあります。基本、全部の取組は頭の中でしっかりシミュレーションしてから臨むんですけど、自分と同じ体格の方はその分スピードもあるんで。(どんなにシミュレーションしても)ほんとそのスピードにやられちゃうぐらい速いので。大きい力士の方が取りやすいとは言えないんですけど、自分の場合(相手の懐の)中に入ったら自分の相撲になるので、中への入りやすさは相手が大きい方があるかもしれません。同部屋で重量のある狼雅関(184cm、159kg)の胸を借りて、ずっと勉強させてもらってばかりです。

自称・食の細さ角界ナンバーワン(笑)二子山部屋での食生活は?
——稽古には真剣に取り組む一方、土俵を降りると二子山部屋の力士のみなさんはとても仲がいいイメージがあります。一緒に生活する力士仲間たちにはどんな個性がありますか。
全員本当にフレンドリーですね。実際に嫌な感じがなくて、互いの素を出して生活しています。
——後輩とのコミュニケーションで気を付けていることはありますか?
(部屋では若手なので)あんまり後輩がいないんですけど(笑)、学生時代の後輩から相談されることはよくあるんです。接し方としては、基本、あんまり怒らない。怒って空気が悪くなるのも嫌だし、怒られるのも嫌だと思うので。今も稽古中やジムでのトレーニングで、自分がわかることであれば、教えたりしてます。
——稽古中にもそんな風通しの良い空気が感じられました。ところで、今日のように場所や巡業のないときは、1日どんなふうに過ごしているのですか?
僕は朝6時半に起きて、テーピングとか色々準備して稽古場に降ります(三田関は二子山部屋の稽古場の上階にある個室で生活している)。稽古が終わってからはシャワー浴びて、ご飯食べて、昼寝してって感じです。
——朝ご飯を食べずに稽古をするんですね。お相撲さんの食事は1日2食、体を大きくするのも仕事のうちと言います。三田関は自称「相撲界で食が細いナンバーワン」だそうですが、毎日の食事はどうしていますか?
本当に量を食べられないんで、回数を多くしています。数時間おきに食べたり、なるべく空腹時間を作らないように少しずつ食べたりする。ちゃんこの残りや、おにぎりとか、バナナとか。
——部屋のちゃんこはお好きですか?
そうですね。ほんとにみんなで作っているので美味しい。毎日飽きないで食べられます。
——ちなみに、毎日のルーティーンで欠かさずやっているのは?
ルーティーンですか。寝る前にヨーグルト1個食べるとか、そういうのしかないですけど。ずっと「ブルガリアヨーグルト」の無糖に、必ずブルーベリーと、栃木の実家から送ってくれるハチミツを入れて1日1箱(400g)、でかいやつを(笑)。自分は基本、増量してるので食べなきゃいけない。お腹いっぱいでもヨーグルト1箱なら食べられるんで。それでだいぶお腹が膨れて体重が増えたりする。暴飲暴食ではないですけど、やっぱカロリーが高いものをたくさん食べているので、少しでも整える感じです。
——栃木のハチミツをかけたヨーグルト、おいしそうです! また、三田関の好物は鰻だと聞きましたが、どんな時に食べるのが幸せですか?
次の日が大事な日とか、負けが続いた日とか、そういう時に師匠が買ってくださるのが嬉しくて。鰻は僕にとって本当にゲンがいいので、小学校の時からここぞという日には母親が用意してくれていたんです。

趣味はサウナ、自然の美しい場所を愛する三田関のリフレッシュ法
——まもなく東京での秋場所が始まりますが、15日間の場所中はどんなふうに過ごしていますか?
朝はいつもと同じように稽古して。ご飯食べて、軽く仮眠してから場所に行きます。だいたい土俵入りは同じ時間で決まっていて、十両は12時には入ります。取組が終わったらすぐ帰ります。夜ご飯食べて、自分は温泉に行きます。
——温泉やサウナがお好きなんですよね。
はい、毎日場所中は近くの温泉に入ってます。広いお風呂に入ってゆっくりしたくて。場所中は集中しているので、誰か誘ったりはしないで1人で行きます。サウナでは基本12分、場所中は1セットで終わりです。普段でも、本当に体がしんどい時とかは温泉に行って休んで治します。
——それはいいリフレッシュになりますね。三田関の地元、栃木県にもいい温泉がたくさんありそう。生まれ故郷の好きなところやおすすめを教えてください。
はい、温泉もたくさんあります。実家に帰るとき、那須塩原駅ってところで新幹線から降りるんですけど、降りた瞬間に透き通るぐらい空気が美味しくて、それが楽しみです。学生時代は大阪にずっといて、今も東京にいるので「なんかすごいきれいになった気がする!」って、そんくらい空気がきれいだって感じます(笑)。自分は自然が本当に大好きなんです。川に行ったり、木や緑がいっぱいあって涼しいところに行ったりするのが大好きです。
——自然を愛する三田関、素敵ですね。ところで場所と場所との間に日本全国を訪れる地方巡業は、主に幕内力士が参加するためにまだ未経験だそうですが、行ってみたい土地はありますか?
そうですね。来年パリ巡業があるんで、パリに行けるようにしっかり番付を上げていきたいです。
十両優勝は通過点、さらなる未来を目指す。ざんばら髪の土俵入りは、今だけの激レア姿!
——先場所は、十両2場所にして初優勝、しかも11勝4敗という好成績をあげられました。このとき感じたことを改めて教えてください。
2桁以上の白星をあげて優勝できたということで、すごく自信に繋がったというか、力がついてきたなって実感することができました。もっと上に行きたいって、それだけの気持ちで。はい、今は頑張っています。
——昨年九月場所の初土俵からちょうど1年、ざんばら髪もずいぶん伸びてきました。
そうですね、長くなってきましたけど、まだ結うのには短くて、秋場所はざんばらのままかもしれないです。いつ頃ちょんまげを結えるようになるかは、床山さんと相談しています。
——ちょんまげから、さらに関取だけが結える大銀杏へ。先が楽しみですが、一度髷を結えるようになったら、あとは引退の断髪式まで切ることはありません。だから、ざんばら髪での土俵入りは長い力士人生で今のこの時しか見ることのできないレアな姿でもありますね。現在23歳ですが、30代、その先と、どんなふうに歩んで行きたいですか?
そうですね、30歳か……ほんと怪我なく、健康第一で。気持ち的にはいつまでも相撲取っていたい、長くやっていきたいと思います。
——目指すは関取最年長、40歳で先場所は幕内11勝4敗の成績を収め殊勲賞を獲得した「鉄人」玉鷲関(東前頭筆頭・片男波部屋)でしょうか(笑)
(笑)はい、頑張ります。
本場所の見どころ、してもらうと嬉しい応援を自ら解説! 国技館で生観戦せずにはいられない!
——いよいよ本場所です。土俵の三田関自身の「ここに注目してほしい!」というポイントを教えてください。
そうですね。やっぱり立ち合い。自分の持ち味はスピード相撲なんで、そういう部分を見ていただけたら。
——行司が軍配を返して「待ったなし」、「双方手をついて、はっきよい」の声のあと、力士同士が呼吸を合わせて立ち上がる瞬間が「立ち合い」。三田関は、このとき相手の懐に入っていく素早さと鮮やかさが見事です。立ち合いの時は、どんなことを考えているんですか?
うーん、そうですね。なんも考えてない……っていうと面白くないですけど(笑)、ほんとに無です。集中してます。あとはもう体が勝手に動くだけ。
——すごい集中力ですね。では、場所中の会場では、ファンの人からどんなタイミングで、どんな応援をされると嬉しいですか?
取組と違って土俵入りの時はまわりが見えるので、客席で二子山部屋のタオルとか、自分の四股名のタオルがたくさん上がってるのを見つけると、すごく嬉しい。土俵入りのときに応援してもらえるのが一番嬉しいです。

——会場に行ってみたいと思いつつ「大相撲観戦ってちょっとハードルが高そう」と思っている初心者のファンは多いと思います。三田関からぜひ、大相撲を見る楽しさを教えてください。
そうですね、大相撲って初めて見る方でもルールがわかりやすいと思うんです。サッカーとか野球よりも全然わかりやすい。会場はすごい盛り上がりますし。特に、国技館で見る生の相撲の迫力は全然違うんで。きちんとしたマナーもまあ、ありますけど、まずは気楽に来て欲しいです。一度来ていただいたら、考え方が全然変わると思います。
——九月場所では、どういう持ち味を生かして15日間の取組に臨みたいですか? 意気込みを教えてください。
はい、いつも通りのスピード相撲を。今場所は十両の上位の方で取れるので、15日間を取り切って、2桁以上の白星をまた目指して頑張っていきたいです。(十両上位は)幕内との対戦もあると言われたので、幕内の土俵で戦えるように頑張ります。
——応援しています! ありがとうございました!

三田 大生
みた・たいき●本名同じ。2001年12月13日生まれ。栃木県大田原市出身。二子山部屋所属。身長173.0cm、124.0kg。5歳のときに相撲を始める。高校3年次に世界ジュニア選手権中量級(100キロ未満)優勝、近畿大学相撲部を経て二子山部屋に入門。令和六年九月場所に初土俵を踏む。令和七年五月場所で十両昇進、同七月場所で十両優勝。現在の番付は西十両四枚目。
撮影/柴田フミコ 取材・文/久保田梓美
























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