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9月歌舞伎座も大盛況! 松本幸四郎さん、『菅原伝授手習鑑』で、初役・菅丞相に挑む! 【歌舞伎沼への誘い#75】

「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南する本連載。

今回、ご登場いただくのは、9月歌舞伎座で上演中の『通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』に出演中の松本幸四郎さん。新作から古典まで幅広く出演し、今の歌舞伎界を引っ張る存在です!  

そんな幸四郎さんは今月、3役を勤める大活躍。とくに菅丞相(かんしょうじょう=菅原道真)は初役とあって気合も十分。そこでバイラ歌舞伎部のまんぼう部長とばったり小僧が役にかける思いを伺いました!!

松本幸四郎さんポートレート 笑顔

十代目松本幸四郎


まつもと・こうしろう●1973年、東京都生まれ。父は二代目松本白鸚。屋号は高麗屋。1979年3月、三代目松本金太郎を名乗り初舞台。1981年10月、七代目市川染五郎を襲名。2018年1月、十代目松本幸四郎を襲名。

CONTENTS

  1. 松本幸四郎さん 初役に挑む思いをインタビュー!
  2. 「初めて衣裳に袖を通したとき、涙が止まらなかった」
  3. 歌舞伎座 秀山祭九月大歌舞伎『通し狂言 菅原伝授手習鑑』 公演情報

松本幸四郎さん 初役に挑む思いをインタビュー!

「松嶋屋のおじさまの菅丞相を永久に残したい」

まんぼう部長 幸四郎さん、たいへんお忙しいところ、お時間をいただいてありがとうございます。よろしくお願いいたします! 

ばったり小僧 よろしくお願いします!!


部長
 今月の歌舞伎座は『通し狂言 菅原伝授手習鑑』を通しで上演中です。Aプロ、Bプロと配役を変えてダブルキャストでの上演ですが、幸四郎さんは、どちらにもご出演し、菅丞相、松王丸、武部源蔵という3役を勤めていらっしゃいます。どれも大きなお役、たいへんなお役ですけれど、中でも菅丞相は初役ですね。


幸四郎 そうですね。菅丞相といえば、松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門さん)がずっと勤められてきたお役です。おじさまの菅丞相は本当に無敵で、一緒に舞台に出させていただいたときにも感じたんですけれど、芸というか、もう本物の菅丞相という感じのオーラと圧を感じましたね。

そんなおじさまとダブルキャストで菅丞相を勤めさせていただくとは思ってもみなかったことで、すごく驚いたんですけれど、おじさまに菅丞相を教えていただけるというのは、本当に有難いことで、これ以上の幸せはないというくらい喜びでいっぱいです。

とにかくおじさまの菅丞相をひとりでも多くの方に見ていただきたいですし、菅丞相を勤められたことのある俳優は、今はおじさま以外にはいらっしゃらないので、僕としては、おじさまの菅丞相を永久に残さなければならないと思っています。次につなげる役目としての責任を感じながら勤めたいと思います。

小僧 自分の体を使って、先人の芸を見せる、伝承するという幸四郎さんのお考え、ぐっときます。これぞ歌舞伎ならではですね。

松本幸四郎さん 「秀山祭九月大歌舞伎」『通し狂言 菅原伝授手習鑑』 舞台写真

©松竹↑2025年9月歌舞伎座で上演中の「秀山祭九月大歌舞伎」『通し狂言 菅原伝授手習鑑』にて、菅丞相を初役で勤める幸四郎さん。高潔ながら、どこか切ない佇まい。ちなみに菅丞相を演じる俳優は、湯島天神をはじめ、菅丞相に由来する神社・仏閣に参拝するのが通例で、幸四郎さんも8月の休演日には、大阪の道明寺と福岡の太宰府天満宮を参拝。「太宰府さんではご祈祷していただいたんですけれど、その瞬間だけ、真っ黒な雲が出て雷が鳴って、突風が吹いたんです。『なんでおまえがやるんだ!?』と怒られているのかと、一瞬不安に思ったんですけれど、前向きに考えることにしました(笑)」。8月も三部全部に出ていたのに、休日も忙しい幸四郎さんなのでした。

「初めて衣裳に袖を通したとき、涙が止まらなかった」

部長 菅丞相は、学問の神様として知られる菅原道真のことですよね。『菅原伝授手習鑑』では、政敵・藤原時平の策略で大宰府へ流されてしまいますが、菅丞相を慕う者たちが、その子息・菅秀才を守ろうと尽力します。
高潔で神格化されたお役で、誰にでもできる役ではないとよく聞きます。

幸四郎 動きを抑えた品格あふれる重厚なお役です。
7月におじさまが大阪松竹座にご出演で、僕は歌舞伎座だったんですね。それで休演日に押しかけて、まずはお話だけ伺いました。2時間くらいお話しいただいたんですけれど、菅丞相というのは、いわゆるテクニックとか、セリフ回しとかでどうにかなるものではなくて、大事なのは気持ちなんだということをお話くださいました

だから言葉の数をもってではない、動きの数をもってではない。どれだけ菅丞相という人の人間性に近づけるかですよね。ただただ情が深くて、それに流されるということでもない。自分はともあれ、まずは周囲を思いやる気持ちとか、人間的な強さとか、そういうところがにじみ出るようにしないといけないのだと思います。

ちなみに休演日は、本当は仕事に使ったらダメらしいんですけれど、これはあくまで僕個人のプライベートで行ったということで(笑)。

小僧 スチール撮影のため、初めて衣裳に袖を通したときは、いろいろな思いがこみあげて涙が出てきたそうですね。

幸四郎 涙が止まらなかったですね。撮影のときは、ちゃんと役として存在していることが大事なので、菅丞相のセリフを頭の中で繰り返しながら写真を撮っていただきました。不思議な時間でした。

「秀山祭九月大歌舞伎」『通し狂言 菅原伝授手習鑑』松本幸四郎さんポスター

©松竹 ↑2025年9月歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『通し狂言 菅原伝授手習鑑』で、初役で菅丞相を勤める幸四郎さん。自分の命運を悟ったような、覚悟を決めたようなまなざしが神々しい。それにしても初めて衣裳を着たときに涙が止まらなかったなんて……。普段は天然でおもしろいけれど、歌舞伎にかける思いは誰よりも強くて熱い幸四郎さんのお人柄がよくわかるエピソードでした。

息子・染五郎さんとのダブルキャストも。「Aプロ昼夜、Bプロ昼夜、ぜひ4回とも観てください」

部長 あらためて『菅原伝授手習鑑』という演目の魅力はどんなところにあると思いますか?

幸四郎 作品ができた当時、三つ子が生まれたというニュースが話題になったそうです。そのニュースを取り入れて話題性を高めた作者の工夫が詰まった作品です。
でも、「三つ子の芝居をやるよ~!」って宣伝したわりに、三つ子の話はあまりストーリーに反映されてない(笑)。
歌舞伎あるあるで、突っ込みどころ満載なんですけれど、素晴らしい傑作だと思います。
「車引」では荒事の表現方法があったり、「寺子屋」では義太夫を通して深い人間ドラマが描かれていたり、歌舞伎は音楽的な演劇であることがよくわかります。歌舞伎のいろいろな要素が楽しめるので、「歌舞伎を観た!」感を一番感じていただける作品だと思います。

部長 しかし幸四郎さん、AとB、両方出演されているので、めちゃくちゃたいへんですね。

幸四郎 普通Aプロに出ていたら、Bプロのときには休むわけですけれど、相手役をやっているという。うっかりすると、自分で言って、自分で答えて、ひとりごとで終わっちゃうからね(笑)。そこはちゃんと切り替えが必要だなと思います。

小僧 以前、『勧進帳』で弁慶と富樫をダブルキャストでやったこともありましたね(笑)。

松本幸四郎さんポートレート スーツ姿

↑仁左衛門さんは、菅丞相役で伝説をつくった祖父と父に倣って、千穐楽まで牛肉を断って役に臨むらしい。牛肉を食べないのは牛が天神様の使いで、菅原道真が丑年生まれだからとのこと。「僕もその覚悟はあります。牛がダメということなので、豚、鶏、鹿、ラムチョップあたりで行こうかと(笑)。ただ、ステーキや焼き肉だけではなく、ビーフジャーキーも牛肉だからうっかり食べてしまうかも……と今少々戸惑っています」

幸四郎 菅丞相も松王丸も源蔵も全部勤めたい役ですけれど、「一度にやりたい」とは言ってないんですけれどね(笑)。
でも、秀山祭という叔父(二世中村吉右衛門さん)が大切にしてきた公演で、このような役割をいただくということはとても有難く、頑張るしかないと思っています。

部長 どれも大事なお役ですが、とくに思い入れのある役はありますか?

幸四郎 やっぱり「寺子屋」の源蔵ですね。源蔵のような役への憧れがずっとあって。何回かさせていただいていますけれど、源蔵がちゃんと回ることで、しっかりとした「寺子屋」が出来上がるという重要な役だと思いますね。

小僧 さらに今回は、その源蔵を息子の染五郎さんもダブルキャストで演じるというので驚きました。歌舞伎座の本興行で源蔵を演じた中で最年少とのことです。取材会では、「誰がどう見ても身に余るでしょうという大役」とおっしゃっていました。

幸四郎 有難いことですけれど、本人が一番びっくりしているでしょうね。だけど、いずれ彼がやる役、目指すべき役ではあるので、これをきっかけに大きく伸びてもらいたいと思います。
とにかく僕はAプロ昼夜、Bプロ昼夜と出ていますので、みなさまには、4回、観ていただきたいです!

小僧 よよよ4回ですね……! 幸四郎推しはつらいよ(笑)。

松本幸四郎さんポートレート インタビュー

↑染五郎さんは小さいときに菅丞相の子息・菅秀才を演じたことがある一方、幸四郎さんは菅秀才をやったことがないそう。取材会では「もう無理だと思う(笑)」と染五郎さんに言われていたけれど、幸四郎さん演じる大きな菅秀才も見てみたい(笑)。これからでも遅くないかも!?

歌舞伎の❝鬼平❞ではジプシー・キングスの音楽も。「さらに進んだ今の歌舞伎も楽しんでほしい」

部長 ところで今、映画『国宝』ブームで、歌舞伎に注目が集まっていますよね。幸四郎さんはご覧になったんでしょうか。

幸四郎 拝見できていないんですよね。3時間ですから、なかなか時間がとれなくて。でも、周りの人はほとんど見て話を聞いているんで、見たも同然(笑)。見たように話すことはできます(笑)。

小僧 幸四郎さん、相変わらずおもしろすぎます(笑)。

幸四郎 あれですよね。『タイガー&ドラゴン』(宮藤官九郎脚本ドラマ)みたいな話なんですよね。あちらは落語でしたけれど、その世界の御曹司と任侠の世界の息子が芸を競い合うという。

部長 だいぶテイストは違いますけれど、設定はそうですね。「守ってくれる血ぃが俺にはないねん」「芸があるやないか」という有名なやり取りがあります。でも、結局は二人とも芸のために魂を売り、命を削るという話です。幸四郎さんの歌舞伎にかける情熱や、最近の働きっぷりをみるにつけ、ある意味、通じるところが……。

幸四郎 映画の御曹司は無理して舞台に出て死んじゃうんですよね。僕はまだ死にたくない(笑)。

小僧 へんなこと言わないでください!  もちろんですよ!! いや、だから幸四郎さんがご覧になったら、きっと響くところがあるんじゃないかと思って、おすすめしてみました。

松本幸四郎さんポートレート 頬杖

幸四郎 劇場がすごく美しく描かれているそうですね。

小僧 そうですね。観客のいない舞台で主役の二人が2階席のほうを見上げて、上から誰かに見られている気がするというシーンがあって。幸四郎さんが以前、歌舞伎座の上のほうには歌舞伎の神様がいて、そこに向かって、いつも演技しているとおっしゃっていたことを思い出しました。

幸四郎 天井のほうですよね。いるんじゃないですかね。そうあってほしいという思いで演じています。
『国宝』を観て歌舞伎座にいらっしゃったお客様は7月の『鬼平犯科帳』や11月の三谷幸喜さん作・演出の『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)』など、古典とはまた違った作品に驚かれるのでは、と。歌舞伎はどんどん進化しているので、新作も含めてお楽しみいただけたらと思います。

部長 確かに新作はどれも革新的なので、びっくりするかもしれません。

幸四郎 でも、そういう意味で、9月、10月の歌舞伎座は、がっつり古典なので、『国宝』を観て来られ方にはぴったりかもしれないですね。まずは9月の『菅原伝授手習鑑』をご覧いただければと思います。
歌舞伎には、ストーリーを追うだけじゃない楽しみ方があります。色彩や音楽、小道具、大道具など、すべてが歌舞伎ならではのものですので、興味を持てるものがここそこに散らばっているはず。ぜひそれを探しに来てください。

部長・小僧 本当に歌舞伎はまさにエンターテインメントの宝庫! これからもそんな歌舞伎を応援していきたいと思います!!

松本幸四郎さん 笑顔でインタビューに答える

↑愛犬・ラブラドールレトリーバーのニッキーのお散歩は幸四郎さんの担当だそうですが……。「非公式にやっています。なぜ非公式かというと、『毎日、犬の散歩をしてます』って、いい人みたいな感じがするから(笑)。それに地方公演があると、1カ月はできないですよね。それを『やっている』とはいえないから。まあ、散歩しているというより、散歩させられている感じだけど」。相変わらずユニークで、相変わらず見目麗しい幸四郎さんでした♪

歌舞伎座 秀山祭九月大歌舞伎『通し狂言 菅原伝授手習鑑』 公演情報

「秀山祭九月大歌舞伎」ポスター

■秀山祭九月大歌舞伎『通し狂言 菅原伝授手習鑑』
劇場:東京・歌舞伎座
日程: 2025年9月2日(火)~24日(水)

昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~

【休演】9日(火)、17日(水)
【貸切】※幕見席は営業 昼の部:4日(木)、5日(金)、8日(月)、10日(水)、11日(木)、19日(金)

◆秀山祭九月大歌舞伎 公演詳細はこちらから

秀山祭九月大歌舞伎 公演詳細

◆公演チケット情報はこちらから

歌舞伎公式総合サイト チケット案内ページ

取材・構成/バイラ歌舞伎部 写真/露木聡子 ヘアメイク/林摩規子 スタイリスト/川田真梨子

衣装協力 ブリオーニ/ブリオーニ クライアントサービス(0120-200-185)

*本連載は今回をもって終了いたします。

長らくご愛読いただき、ありがとうございました。

二代目まんぼう部長


2024年11月にまんぼう部長を襲名し、二代目に。歌舞伎にはまったくの素人で、『かぶき手帖』片手に、日々勉強中。今年の夏は京都や大阪に遠征デビュー。踊りが上手な役者さんに目を奪われがち。

ばったり小僧


歌舞伎鑑賞歴5年。連載当初は歌舞伎初心者だったが、すっかり沼落ちして、ときに歌舞伎を熱く語るが、そのわりに演目のタイトルがいまだに覚えられない。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー50歳の熟年俳優も大好き。

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