テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第34回目は「日銀新総裁」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【日銀新総裁】
にちぎんしんそうさい▶日本銀行(以下、日銀)の最高責任者。日銀が年8回開催する金融政策の運営方針を決める金融政策決定会合の議長を務める。任期は5年。歴代最長の2期10年総裁を務めた黒田総裁の任期満了に伴い、今年4月に新総裁が就任。異次元の緩和が10年続く金融政策のゆくえに注目が集まっている。
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2013年3月
黒田東彦氏が日銀総裁に就任。量的・質的金融緩和を進めると表明
黒田総裁は就任会見で、政府と日銀の共同声明に記された消費者物価の前年比上昇率を2%とする「物価安定の目標」の早期実現に向け、大胆な金融緩和を進めると表明
2016年9月
日銀が長短金利を操作する金融政策イールドカーブ・コントロールを導入
イールドカーブとは利回り曲線のこと。日銀は、短期政策金利と長期金利の誘導目標を定め、その実現に向けて国債の買い入れを行う、金利重視の金融緩和策を導入
2023年2月
黒田総裁の後任に植田和男氏を起用する人事案を政府が国会に提示
植田氏は、経済学者で元日銀審議委員。衆参両院の所信聴取で「金融緩和を継続することが適切」との見方を示した。就任すれば戦後初の経済学者出身の総裁に
バイラ読者にアンケート
(回答数116名 2023年1月27日〜31日に実施)
Q 日銀の政策が自分の生活に関係があると感じますか?
7割が「はい」と回答。理由に「日銀の政策発表後、為替や株価が変動するから」「円安や低金利と関係がありそうだから」などの声があった。「いいえ」と答えた人からは「身近に感じない」との声も
大江ʼs eyes
昨年円安が進んだ際、日米の金融政策の違いや日銀の動向がニュースで報じられましたが、ここまで皆さんが密接に関係を感じていらっしゃる結果に驚きました。アベノミクスの3本の矢の第1の矢に「大胆な金融政策」が掲げられて以降、日銀がクローズアップされている状況が続いています
Q 日銀の黒田総裁が、2023年4月8日に任期を満了します。後任人事に関心がありますか?
関心がある人からは「住宅ローンの金利が気になる」「長く黒田総裁だったので政策変更するのか興味がある」、関心がない人からは「次の人になって何が変わるのかピンとこない」「注目したことがなかった」などの声が
大江ʼs eyes
「いいえ」が多いのではと思っていたので、関心のある方が半数を超えるという結果にびっくりしました。確かに住宅ローンを組んでいる方は、新総裁の考え方が気になりますよね。他の主要中央銀行に類を見ない規模での金融緩和を継続する日銀。新総裁も世界から注目されています
Q 黒田総裁が主導して進めてきた金融緩和政策についてどう思いますか?
「わからない」と回答した人からは「金融政策に詳しくないので、今回を機に知りたい」との声が多数。評価する人からは「脱デフレになっている」、評価しない人からは「経済がよくなっている実感がない」などの声が
大江ʼs eyes
黒田総裁が、デフレでない状況がつくり出されたが、物価上昇率と賃金上昇率が充分に2%の物価安定目標を安定的、持続的に達成できるような状況になっていないことは残念と会見でおっしゃっていました。そこが最後の課題である一方、日銀に多くが託され続けてしまっている状況も感じます
Q 物価が上がったことについてどのように感じますか?
約8割の「困っている」と回答した人のうち約半数から「給料が上がらないのに物価だけが上昇している」と同じ声が。「インフレ自体は悪いことではないが、賃金上昇も伴わないと困る」「気持ちに余裕がなくなってきている」など閉塞感が漂うコメントが目立った
大江ʼs eyes
物価が上がる局面で賃金が上がらない苦しい状態が少なくないことをこのアンケートが表していて、その切実な声は日本全体の縮図でもあると思います。大企業を中心に賃上げの動きが出てきていますが、日本の雇用の7割を支える中小企業でも賃上げができるよう環境整備が政府に求められています
「日銀総裁は、日本の金融政策のかじ取り役。黒田総裁の異次元緩和10年から新総裁へ」
「日本の中央銀行である日銀。その総裁を2013年3月以降、2期10年黒田東彦総裁が務めてきました。その間、黒田総裁によって日銀はずっと大規模な金融緩和政策を実施。この先、今の金融政策をどう手じまいしていくのかについての関心が高まっています。そのなかでの新総裁就任ということで、注目されているので取り上げました」と大江さん。そもそも、日銀のトップである総裁は、どんな仕事をするのですか?
「総裁の最も大切な仕事は、日本の金融政策のかじ取りです。日銀の使命は、物価の安定を図り経済の発展に貢献すること。そのために世の中のお金の量や金利の調節などを行う金融政策を決定・実行しています。その基本方針を決める金融政策決定会合で、複数のメンバーの意見を取りまとめて、方向性を示すのが日銀総裁の役割です」
黒田総裁は、10年にわたり“異次元緩和”と呼ばれる金融緩和政策を主導した。
「『黒田バズーカ』といわれた大規模な金融緩和、『イールドカーブ・コントロール』ともに、金利を低位に抑えることによりお金を借りやすくなり、世の中の経済の循環がよりスムーズになるように導入された政策です。経済活動が活発になり景気が上向くことに伴った物価の上昇を目指しています。病気でたとえると、点滴をずっと打っている状況をイメージしていただくとよいかもしれません。黒田総裁がいわばお医者さんで、点滴を打つことによって体力を維持してどうにか持ち直そうとしている状況が10年続いてきたのだと思います。黒田総裁の就任当時、日本は円高が進んでいました。日銀の大規模な金融緩和によって急激に円安方向に振れましたが、輸出企業を中心に収益力、業績がアップし、経済の足腰をより強くすることにつながりました。それにより、コロナ禍やウクライナ侵攻といった大きな波乱があっても経済的にどうにか対応することができたのではないかと思います。だいぶ体力がつき体質改善ができて、『点滴をもう外していいかな? どうかな?』という局面にきているのが現状です。そのタイミングと日銀総裁交代が重なっているんです」
大江さんは、黒田総裁の任期中から金融政策決定会合後の記者会見に出席している。
「挙手した記者を黒田総裁が指し、その場で質疑応答するため、会見場は常に緊迫感があります。会見によって総裁の雰囲気が異なることがあるので、よく観察しながら総裁の心理状況を分析し、当てられるまでの間に質問を練って毎回臨んでいます」
「新総裁の課題は、今の金融政策をどう手じまいするか。市場との対話が求められる」
政府は2月、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を新総裁に起用する人事案を提示。新総裁を待ち受ける課題とは?
「今の異次元の金融緩和政策をどう手じまいしていくかが課題です。日銀の市場調整に頼りすぎている状況が長引いていて、市場の機能不全を招いている金融政策の副作用が問題視されています。本来は、企業の業績や需要と供給のバランスによって経済が動いていくのがいちばん理想的な経済のあり方なんですね。ただ、日銀の政策を正常化すればいいだけではありません。日本の経済が悪くならないように安定した状況のなかで金融政策を正常化していくことが重要です。最重視すべきは日本経済の状況。今は、賃上げをもとにした持続的な2%の物価安定の目標を達成できるかの分水嶺ですので、慎重に時間を要しながら徐々に市場に大きなショックを与えないかたちで正常化していくのではと見られています。一筋縄ではいかない課題を、新総裁が、世界経済の大きな流れのなかで市場と丁寧に対話しながら、どうソフトランディングさせていけるのかに世界中が注目しています」
読者からは、「日銀の新総裁就任による生活への影響を知りたい」との声が多数。
「金融政策の修正の手順がどうなるのか。皆さん、関心があるところだと思います。去年の12月にまず日銀は長期金利の変動幅の上限を0.5%まで拡大しましたが、この先またそれを繰り返すことになるのか。また、イールドカーブ・コントロール自体をやめるタイミングがいつになるのかも注目されており、それによって金利や為替も動くと思います。どちらかというと円高に動きやすくなる状況が続くかもしれません。それは輸出をメインとしている日本の企業にとっては業績の向かい風になる可能性もあると見られています」
これから新総裁の手腕を「市場とうまく対話できているか」という観点で見ていくと興味深いと大江さん。
「それは、金融政策決定会合のたびに為替や金利がどう動くのか、市場の反応に表れますので注視するとよいのではと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年5月号掲載